「国益」を求めるトルコとロシアという実例
国家と国家の外交関係において、決裂して関係が悪化することもあれば逆に修復して関係が改善されることもあります。当然ながら関係悪化も改善も、双方の国家においてそれぞれが自分の側の国益のためになるという判断で行われるはずのものです。
最近の韓国と日本の国家間の多くの問題点によって、国交断絶やら懲罰的対応やらいろいろ取り沙汰されていますが、本当にその対応が日本の国益に利するかどうかという観点から判断されているでしょうか?
「国益」というのは単に経済的な数字の問題だけではありません。その他にも、国内における国民感情や、人的交流や、さらには第三国から見たときにどう思われるか、国際機関などからどのように対応されるか、など国家が関わる全ての影響を含みます。
そういった把握できる限りのあらゆる好影響・悪影響のメリット・デメリットを判断した上での結論としての行動であれば納得できるのですが(もちろん将来の結果はどうなるかは別です)、一時的な感情(国民全体にしろ政治家にしろ)によって、国家としての行動が決められるのであれば良い結果はもたらさないでしょう。
国家の意思や行動は国益を考えて定められる事を現している一つの例として、トルコとロシアの関係が上げられます。
現在、トルコ共和国とロシア共和国の間は比較的友好的な関係が築かれています。より正確にはトルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領の間が友好的とも言えます。トルコがロシアのミサイルを導入することで、元来の同盟国であるアメリカが起こり戦闘機を売る約束を取り消そうとしています。
トルコ大統領、ロシア製ミサイル導入明言 米に反発
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43506070Z00C19A4000000/
トルコは2017年12月、ロシアとの間でミサイル防衛システム「S400」4基を25億ドル(約2800億円)で購入することで合意した。エルドアン氏は会見で「すべて、すでに完了している」と指摘し、契約などを済ませている以上、第三者が介入する余地はないと米国に反発した。
S400を巡っては、米欧諸国やトルコが加盟する軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の基準に合わず、軍事機密が漏洩する恐れがあるなどとして、米国が激しく批判。米最新鋭ステルス戦闘機「F35」の生産からトルコ企業を排除したり、同機の引き渡しを凍結したりする構えも示し、圧力をかけていた。
そもそもトルコとアメリカの関係も数年前のトルコにおけるクーデター未遂の事後処理を巡って揉めているので元々良くなかったのですが、アメリカが反発することを見越した上でロシア製ミサイルを買おうとしているのですから、エルドアンの覚悟も相当なものです。
しかし、この両国は数年前は戦闘機撃墜を巡ってかなりの緊張関係にありました。
トルコ軍がロシア戦闘機を領空侵犯で撃墜と ロシアは侵犯否定
https://www.bbc.com/japanese/34907678
複数報道によると、トルコの戦闘機が24日、シリアとの国境上空でロシア軍機を領空侵犯のため撃墜した。一方でロシア政府は、地上からの砲撃による墜落で、領空侵犯はしていないと主張している。
シリアのイスラム国対応を巡って対立していたことに加えて、この撃墜事件によって、「すわ紛争か」という状況直前にまで迫っていました。2015年11月の時点ではかなり関係が悪化していたことは確かです。そもそも過去数百年レベルで見ると、イスラム教のオスマン帝国と東方政教のロシア共和国の間ではずっと戦い続けていましたこともあり元々仲が良い間柄ではありませんでした。しかし、上述の通り、撃墜事件から3年半たった今ではトルコ&ロシア V.S. アメリカのような構図さえみてとれるほど、トルコとロシアの関係は改善されています。
じゃあ何で関係が改善されたのか、どのような経緯と理由があったのか、ということについては、朝日新聞の記事で分かりやすくまとめられていました。
ロシアとトルコなぜ蜜月 「一触即発」からわずか3年
https://www.asahi.com/articles/ASLD76HPPLD7UHBI03B.html
どちらもシリアを巡ってこれ以上の対立よりは和平を進めた方が良いという判断があり、また別に、トランプ大統領率いるアメリカ合衆国とどちらも対立しつつあることが、トルコとロシアの関係改善につながった、ということになります。
もちろんリンク先にあるように、本質的な友好関係になったわけではないので、シリア問題を巡り対立が再燃する可能性もありますし、国力を考えるとアメリカ・NATOに対してロシアほど対立することはトルコには出来ません。どこかでトルコがアメリカと妥協することがあればロシアとの関係もそれまででしょう。
しかし、その展開も含めて「国益」を考えて行動していくのはエルドアンもプーチンも同じでしょう。
翻って日本は、安倍総理は果たしてそこまで「国益」で行動できるでしょうか? 例え首相自身や内閣、政府として行動しようとしても、支持層の国民の感情次第によって、選挙を見据えて国益よりも投票欲しさに行動してしまうと、国益を見失ってしまう恐れもあります。
エルドアンもプーチンも自国内の有権者に対して強硬手段を取ることが出来る(そして実際に取っています)ので、安倍政権よりは選挙を気にせず国益最優先で行動できるからこその、トップ間での関係改善が進んだのでしょう。
日本と韓国の間がどうなるかは、安倍内閣の方針にかかってくるとも言えますし、有権者の感情と投票行動次第、という見方も出来ると思います。日韓慰安婦合意の一方的破棄や徴用工裁判、レーダー問題などありますが、国益を考えた上での対立と妥協の選択をしてほしいものです。
過去に大きな問題、それも解決のしようのない問題があっても友好的な関係を築くことが出来るという実例は、まさに戦後の日本とアメリカとの間において見ることが出来ます。
真珠湾攻撃から始まり、凄惨な局地戦をいくつも行い、最後には広島と長崎への原爆投下を経ての降伏、終戦となり、その後6年間占領されても、戦後の日米間は軍事面だけでなく経済的にも文化的にも交流を深め友好関係を維持してきました。
貿易摩擦や、クリントン時代のジャパンパッシングや、鳩山政権時代の日米関係悪化などいろいろありつつも、70年近くになる同盟関係は今後も揺るがないでしょう。そもそも、「国益」面から見て日本がアメリカと決定的に対立するという理由も存在しません。
日韓関係においても、双方の感情をも含めた「国益」という面から見ての行動であって欲しいと思います。