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国民所得・労働生産性の国際比較を通して日本経済の現状を俯瞰する

こんにちは。人材マネジメント研究所です。
本日は、「データブック国際労働比較2024」(JILPT, 2024)から、労働生産性に関する項目について国際比較をしていきます。

こういった記事のように、日本企業の労働生産性についての国際比較は、近年注目されている賃上げ・人手不足というテーマにおいて重要視されています。

人手がいない中、従来のGDP・豊かさを保つためには、労働生産性の向上が不可欠であり、日本の労働生産性は海外と比較しても劣るものであるから、海外の事例や取り組みを参考にしよう。みたいな論調ですね。

そして、賃上げには労働生産性の向上による原資捻出が不可欠ですから、より効率よく働き、時間あたりの労働価値(=労働生産性)を高め賃上げにつなげようという形で、昨今のメディア・政府は労働生産性について注目を進めてきました。

雇用慣行の違い、つまりジョブ型かメンバーシップ型かというのや、文化の違いなど、多くの決定要因がありますが、こと本日は実態を明らかにし、まずはこれまでニュースで議論されていることとデータがあっているのか違うのかをみていきましょう。

一人当たりの国⺠所得

まずは、一人当たりの所得をみていきましょう。数値としては個人の収入合計と、給与や利子および企業収入の合計(国全体で生み出した新たな富)を人口で割ったものです。

これは、ドル円のレートによっても変化することに留意する必要があります。
2000年代円高時期は高くなっていますし、今の歴史的円安(もはや歴史的ではないかもしれませんが)では低くなっています。

数値だけをみると、日本は横ばいですが、どの国も横ばいと言えば横ばいですね。
しかし、順位でみると、1990年代は1位でしたが、失われたx0年を経て日本は他先進国と比べて相対的に落ち込んでいます。
日本と韓国の所得の差は30年前まで4倍もあったのですが、今はほとんどありません。

労働生産性水準

ここでの労働生産性の定義は、GDP(国内総生産)÷就業者数の値を、1995年を100として指数にしたものです。

アメリカと比較すると1995年からの伸び・変化は大きく下回っていますが、欧州諸国と概ね同程度の伸びで推移してます。

日本では、不況期でも長期雇用を前提とする慣行により就業者数が減らさず、一人当たりの労働時間(残業時間)を変えることで対応するのに比べて、他の国は就業者数を調整しやすいというのも伸びが変わって見える一因としてあるでしょう。

上記の表は、1995年を基準とした各国の労働生産性指数の推移を示しています。

全体的に各国の労働生産性は向上しているものの、その上昇幅には国ごとの差が見られます。
日本は2005年から2015年にかけて緩やかに上昇しましたが、2020年以降停滞し、2022年は117.2です。

アメリカは持続的に上昇し、特に2010年以降顕著で、2022年は149.4に達しました。韓国は最も顕著な上昇を見せ、2022年には208.8となっています。すごすぎる。もはや遅れをとっている隣人ではない。

イギリスは安定して上昇しているものの、2020年にやや低下し、2022年は127.3です。一方、イタリアは他の国と比較して低迷し、2022年には99.9と1995年の水準に戻っています。

これらの結果から、労働市場の柔軟性、技術革新の推進、教育の質向上が労働生産性向上の鍵となることが示唆されそうですね。

特に韓国とアメリカの成功は、製造業の革新やサービス業の成長、労働市場の柔軟性が大きく寄与していると考えられます。

一人当たりの国内総生産(US ドル)

一人当たりの国内総生産をみると、2010年時点では日本は先進国と比較しても引けをとらなかったことがわかりました。
円高というのもあるでしょうが、十分に国際競争力があるといえます。

それがときはたち2022年。たったの12年でだいぶ日本は遅れをとってしまいました。日本と韓国の一人当たり国内総生産額はほぼ同じです。

円安ももちろんありますが、金利をあげると崩壊すると日銀に思われているような日本の脆い経済のせいですし、そういうのを総合的に鑑みて2022年の数字をみると、がっかりするものといわざるを得ません。
海外旅行、10年前と比べてだいぶ感覚が違うのでしょう。自分は2010年時点小中学生だったかつガチ貧困世帯育ちなので、なんともわかりませんが、とにかく日本の豊かさ、国力は微妙になっていることがわかりました。

消費者物価指数

消費者物価指数についてです。これはいいのかわるいのか、ほぼ横ばいなのは日本だけです。

消費者物価指数が横ばいであることは、インフレが抑制されていることを意味しており、価格の安定性を保ち、消費者の購買力を維持するのに役立っているはずです。

さらに、一人当たりGDPが増加することは、国全体の経済力が強化されていることを示します。
他の国と比べてGDPも物価も変わっていない、安定的な成長と安定した暮らしを実現できているようにみえますが、見る人によって考察の仕方はかわることでしょう。

見方を変えると、なにもメリットだけではありません。
消費者物価指数が長期間横ばいであることは、デフレのリスクを伴います。
デフレは消費の停滞を引き起こし、経済活動を鈍化させる可能性があります。企業の収益が減少し、投資意欲が低下することも懸念されます。ようやく失われたx0年でのデフレ期間を抜けたとしていますが、他国と比べたらまだ「インフレ」とは呼べない状況です。

一人当たりのGDPの増加は、別に国民の生活が豊かになったことを意味しません。その利益が一部の人々に集中する場合、所得格差が拡大するリスクがあります。
これにより、社会的不平等が進行し、社会全体の安定性が損なわれる可能性があるのですから。

というか、消費者物価は2010年と比べて7.8%しか変わっていないようにみえないけど・・・。からあげクンとかディズニーシーとかだいぶ値段かわってない???

時間当たり労働生産性上昇率

上記の表は、各国の時間当たり労働生産性上昇率を示しています。

日本は2005年から2010年にかけて3.1%と大きな上昇を見せましたが、その後は緩やかな増加傾向にあります。
2020年には-1.0%の減少を記録しましたが、2021年には1.6%と回復しています。まあぼちぼちいい傾向で、他の国とも遅れをとっていなそうですし、労働時間の減少と労働生産性水準の横ばいが両立できているのは、まあ悪いことではないのではないでしょうか。

一方、アメリカは2010年の2.6%から2020年の3.4%まで一貫して上昇していましたが、2022年には-3.7%と大幅な減少を示しています。韓国は他の国と比較して非常に高い上昇率を維持しており、2010年以降も安定して高い数値を示しています。

労働分配率

上記の表は各国の労働分配率(労働者への報酬の国民所得に対する割合)を示しています。

日本の労働分配率は2005年の47.9%から2022年の49.7%へと微増していますが、全体的には安定した推移を見せています。一方、アメリカの労働分配率は2005年の53.7%から2020年の54.0%へと増加し、高い水準を維持しています。
カナダも類似して、2005年の49.8%から2022年の49.9%とわずかに増加しています。

ヨーロッパでは、イギリスの労働分配率が2005年の48.9%から2022年の49.3%へとほぼ横ばいである一方、ドイツとフランスは若干の増加を示しており、それぞれ2022年には50.1%と51.4%に達しています。これに対し、イタリアは2005年の38.1%から40.1%へと増加しましたが、依然として低い水準にとどまっています。

アジアでは、韓国が2005年の43.9%から2022年の46.9%へと上昇しており、労働者への報酬が増加していることが伺えます。一方、シンガポールやタイは労働分配率が比較的低い水準にあります。

総じて、日本の労働分配率は安定しているものの、他の先進国と比較するとやや低い水準にあります。
これは労働市場の硬直性や労働者の交渉力の弱さが影響している可能性があります。労働組合はもはや機能しにくくなっており、給与交渉という概念もないですし、困ったものですね。外部労働市場との比較もしにくいメンバーシップ型雇用のもとでは、職務に対して適切な賃金が得られにくい。その証左を一部示されているような気もします。

一方で、アメリカやヨーロッパの一部の国々は高い労働分配率を維持しており、労働者への利益配分がより充実していることが示唆されます。今後、日本も労働市場の改革を進め、労働者への適切な利益配分を図ることが求められます。このためになにが必要なのかは、今後人材マネジメント研究所アカウントで考察を続けていきましょう。

まとめ

本稿では、「データブック国際労働比較2024」(JILPT, 2024)から労働生産性に関するデータを基に、日本企業の労働生産性について国際比較を行いました。まず、一人当たりの国民所得において、日本はかつての高位から相対的に後退し、韓国との差もほぼなくなっています。
また、労働生産性水準や一人当たりのGDPも他国に比べて伸び悩んでおり、特に近年は韓国やアメリカに大きく後れを取っています。

消費者物価指数に関しては、長期間にわたり横ばいが続いており、デフレのリスクも懸念されます。

一方、労働分配率については日本の数値は安定しているものの、他の先進国に比べると低い水準にあります。この結果は、日本の労働市場の硬直性や労働者の交渉力の弱さを示唆しており、労働生産性向上のためには、労働市場の改革や労働者への適切な利益配分が求められます。

総じて、日本の労働生産性向上には、多岐にわたる課題があることが浮き彫りとなりました。
今後は、海外の成功事例を参考にしつつ、日本独自の労働市場や文化に適応した施策を模索し、実施していくことが重要です。
労働生産性の向上を通じて、賃上げや経済の持続的成長を実現するために、引き続きデータに基づいた分析と提言を行って行ければと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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