日本の雇用者はアメリカの雇用者より働かない(日本における労働時間管理)

こんばんは。本日のテーマは、「労働時間管理」です。

まずは、ちょっとびっくりなデータから。
日本は長時間労働の国として知られてきましたが、実はこの20年急速に年間労働時間は下がっています。

令和5年度 労働経済の分析

これは、雇用者あたりの年間労働時間なので、非正規雇用者・フルタイムワーカーでない者を入れるとまた変わってきます。
アルバイト・パートという形で、女性・シニアの労働参加率が上がっているから下がっているようにみえるというのがからくりですね。
実際、長時間労働者の割合はアメリカよりも高く、先進国諸国の中でも目立っている数字になっています。
というか、労働者の15.3%が週に49時間以上(≒1日2時間程度の残業をしている)も働いているのですか。。。
すごい勤勉ですね。

JILPT「データブック国際労働比較2024」

本稿では、そんな勤勉な日本におけるトピックスを2つご紹介します。
人事の方はもちろん、人材業界に勤める皆さんに寄与できるように書いて参ります。

①2024年問題

2019年4月に、働き方改革関連法が順次施行されました。
もちろんご存知という方もいらっしゃるかもしれませんが、内容を復習してみましょう。

ポイントは3つです。

  • 時間外労働の上限規制:

    • 一般労働者の時間外労働の上限を、月45時間、年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないとしました。
      特別な事情(繁忙期)でも残業時間は年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えることはできません。

  • 同一労働同一賃金:

    • 同一企業内において、正社員と非正規社員(パートタイム、契約社員、派遣社員)との間で、不合理な待遇差を設けることが禁止されるようになりました。

  • 年次有給休暇の取得義務:

    • 使用者は労働者に対し、年次有給休暇のうち年5日を確実に取得させる義務があります。

他にも、高度プロフェッショナル制度や勤務間インターバルの導入努力義務はありますが、この3点さえおさえておけばなんとかなります。

ここにおいて重要なのは、「自動車運転の業務(物流)」・「建設業」・「医師」(他にも砂糖製造業や研究開発業務)は時間外労働の適用猶予・除外が設けられました。
この猶予が5年間であることで、2024年4月以降に上限規制が適用されることになりました。
そこで浮かび上がったのが、2024年問題です。

運輸業

厚生労働省の調査では、「運輸業・郵便業」の令和4年の総実労働時間は、平均で1980時間と、全産業平均の1633時間よりも350時間程度長く、すべての産業の中で最も長くなっています。

中でも、トラックドライバーの長時間労働が顕著で、別の調査では、大型トラックのドライバーの年間労働時間は2568時間と、全産業の平均よりも440時間程長くなっています。

労働時間が制限されることで、売上・利益が減少→収入減少→人手不足の悪化というスパイラルが懸念されています。

建設業

建設業でも、他の産業に比べて労働時間が長くなっています。

厚生労働省などの調査によりますと、建設業の令和4年の総実労働時間は、平均で1962時間と、全産業の平均に比べて、330時間程度長くなっています。

長時間労働の背景には、工期が短いことによって労働時間が増え、適切な休暇も確保しづらい状況があると指摘されています。

高齢化も目立っていて、総務省の労働力調査では、建設業で働く人のうち、29歳以下の若者は12%にとどまる一方で、55歳以上が36%にのぼり、若手の人材確保が課題となっています。

労働時間が減少することで、物流の停滞・バスの減便・建設費の高騰とさまざまな社会課題が浮き彫りになっています。

まあ長時間労働という形式で支えられていた社会というのを、まずは規制でなんとかしようというのは、いい取り組みですが、社会がどのように対応していくかが問題となっています。

今日は現状を把握するところが大テーマなので、2024年問題の打ち手は、また次回。

②長時間労働

もうひとつのトピックは、長時間労働です。

実態は最初で提示したとおりなので、原因を今一度しっかり考えていきましょう。

まずは、正社員の雇用が保証されている点が背景として挙げられます。日本は解雇規制が比較的厳しい(実は諸外国と比べるとめちゃくちゃ厳しいわけではない)国なので、正社員をそう簡単には減らせません。

そのため、労働投入量を減らす必要のある不況期においては、非正社員の解雇・採用抑制に加え、残業の抑制で乗り越えようとします。

ある程度日常的に残業時間があるのが前提となっているわけです。
さらに、労働時間割増率が低いことも、個々人の労働投入量(=残業時間)を増やすインセンティブとなっています。

日本の時間外割増率

日本では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働に対する割増率は、通常の労働時間に対する賃金の25%増しです。深夜労働(午後10時から午前5時)についてはさらに25%の割増が適用されます。また、法定休日に働いた場合は35%の割増が適用されます。

海外の時間外割増率

諸外国と比較すると、日本の時間外割増率はやや低めです。以下にいくつかの国の時間外割増率を示します。基本的な時間外割増率は50%〜100%が普通ですが、いくつか例を紹介します。

  • アメリカ: 時間外労働に対する割増率は50%(賃金の1.5倍)。

  • ドイツ: 時間外労働の割増率は通常の賃金の25%~50%増しで、業界や労働協約によって異なる。

  • フランス: 時間外労働に対する割増率は35時間を超える労働時間に対して25%(8時間以内)、それを超える場合は50%。

  • イギリス: 法律上の時間外労働割増率はないが、多くの企業で業界慣習として1.5倍の賃金が支払われる。

さらに、帰りにくい風潮&長時間労働が評価されることもあるでしょう。
多くは語る必要もありませんが、労働時間が長い&たくさんの業務を低賃金でこなしてくれる無限定正社員は使い勝手が大変いいです。

所定の労働時間内で与えられた職務を達成することが最も重要なはずで、仕事が20~21時になっても終わらないような状況は改善されなければならないはずです。

いやまあ仕事がやりがいなのはいいのですが、一応仕事の報酬として対価をもらっている以上、対価に見合う仕事量に調整するべきなのですが、どうも無限定に働いてくれる日本人の働き方に企業はあぐらをかいているように見受けられます。

ジョブ型では、与えられた職務遂行さえしていればいいので、17時になったら終わり!ができますが、日本の雇用慣行(メンバーシップ型)では、隣の人の仕事も助け、あくなきカイゼンを目指し、高品質を追求しています。

そりゃあ長時間働くわ。
適宜労働時間管理をするか、見合った評価をするか、見合った報酬を払うか。こうでもしないと人手不足社会で持続可能な働き方にはつながりません。

いつまでこのような、仕事の報酬は仕事!やりがい!で長時間労働を肯定するのか。
長時間労働をしてほしいスーパーエリート大好きもっと働いてほしいよ期待してるんだよな層なら、ちゃんと見合った賃金にでもしないと、辞められてしまう。

こんな語りはさておき、最後の背景として、休暇制度が未成熟という点をあげてしめましょう。

年次有給休暇に関する条約(国際労働機関で1970年に採択されたもの)をみると、休暇の定義は「連続された2週&1週」であるとされています。

今お読みいただいている方で、連続された2週間の年次有給休暇をとった人いますか?

そう、それほど日本の休暇システムは時代遅れ&国際比較してもやべえものなのです。

中小企業だと、神聖なる労働者の権利たる有給休暇という概念がない企業もありますね。うーむ渋い。渋すぎて渋野日向子になった。

で、女性がつわりなどで職務遂行できないから休もうとなっても、単純に休みなので給与減額や賞与査定に影響する。あーあ。

③終わりに

長くなったのでこの辺にしておきましょう。

2つのトピックス、いかがでしたか。最近の労働時間管理をとりまく話題ですが、現状把握だけだと救いがないので、次回は有効な取り組みをそれぞれ紹介します。

経営側には、労働者側にいつまでも一方的なカイゼンを期待するのではなく、少しでも長時間労働が「カイゼン」されるような取り組みを期待するばかりです。。。

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