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TVアニメ「ODDTAXI」考察と感想

「オッドタクシー」というアニメがどうやらヤバいらしい。

ほのぼのとした動物のビジュアルながら、日常系かと思いきや意外にもダークな世界観のアニメだ。タクシーが走る夜の東京の街を舞台にした、繁華街のネオンが光る洒落たビジュアル。脱力感のある今風のOPテーマ。

知ったきっかけはサブカル通の知人の口コミだったが、その第一印象とのギャップに思わず惹かれて迷わず再生ボタンを押した。それもちょうど深夜に。

メインとなる登場人物はタクシー運転手・小戸川(おどかわ)。彼のタクシーに乗ってくる奇妙なお客たちとともにストーリーが展開していく。

初めは単話完結かと思ったが、毎話「続きが気になる!」というところで終わる連続ドラマ仕様だった。1話の伏線がなかなか回収されなくて、話を追うごとに謎に謎が深まる構成。未視聴の人はネタバレに注意して、ぜひ最終話まで観ていただきたい。

※ここからは作品のネタバレを含みます。最終話まで視聴済の方のみご覧いただきたいです。


勧善懲悪の美しさ

ストーリーの核は大きく分けて3つ。高額当選宝くじの行方、練馬の女子高生失踪事件、そして小戸川の謎。

もちろん"ホモサピエンス"の芸人人生を賭けた賞レースや田中革命など、それぞれの悲願の達成も見どころではあるが、やはりドブとヤノの諍いが始まる宝くじ事件は大きな山場だろう。

そして、この事件解決において真価を発揮した人物は、序盤では目立たなかった大門弟だと思う。序盤での弟は、理知的な兄と対照的に、おちゃらけた発言や頭の悪い物言いが目立つ。しかし小戸川の告発によって、大門弟は迷う。

ーお前はなぜ警察を志したんだ?
ー悪を懲らしめるためだ!
ー(略)じゃあお兄ちゃんが悪いことしてたら懲らしめなきゃ。じゃあないとお前の正義がぶれる。

かつて兄と交わした約束を信じるか、他人の言葉を信じるか。無条件に兄を信じるか、自分の正義を信じるか。決意して兄を迎えに行った時の弟の言葉は、すごくストレートでことごとく正しく、観ていて胸に刺さった。

ーだめだ、兄ちゃんも捕まってしまう。
ー当たり前じゃん、悪なんだから。ドブの味方したんだから。俺が兄ちゃんを捕まえてやるよ、悪なんだから。
ー(略)すまない、黙ってて。正義感の強いお前は許してくれないだろうと思って。
ー許さないよ!いや、許すよ、お兄ちゃんだし!でも、法律が許さないんだよぉ!でも許したいよ!でも、でも…ヤノ達の方がもっと許せないから捕まえに行く!行くぞお兄ちゃん!

悪だから裁く。それが例え大切な兄弟であっても、正しい方向へ導くという決意。後の、入院中のドブと話す時の弟はさらに頼もしく、人間的な成長を感じる。

ー俺が捕まるってことはわかってんのか?お前の兄貴もだ。
ーそうだ。兄ちゃんがやったことは悪いことだからな。罪には罰が当たり前だ。悪は滅びないだろうけど、俺は市民の生活を守り続ける。なんてったって警察だかんな!

どストレートな「罪には罰」がこんなにも美しく、刺さることってある?勧善懲悪なんて、数百年単位で使い古されてきたテーマなのにこのセリフに感動させられるの、凄いと思う。ストレート過ぎて痺れる。(2回目)

ところで私が個人的に好きなキャラクターは、ドブとヤノの二人だ。悪なのに人間味があって憎めないところがいい。

この作品は全体を通してアングラな雰囲気があって、悪がスマートに描かれているところがある。小戸川だって本当はどっち側かわからないほどだ。

むしろ「悪」を裁こうとするYoutuberの樺沢は、その承認欲求が滑稽に描かれ、「悪」に対して弱者である独身男性・柿花は、必死かつ哀れな姿がリアルに描かれている。それでも。どんなに哀れで滑稽で遠回りでも、精一杯正直に生きることの大切さを教えてくれるのが、この作品の素晴らしい所だと思う。


アニメーションだからできる仕掛け

ここからは、小戸川の謎について書きたい。

ラストまで観た方はご存知の通り、最初は「動物たちの世界」と思われた設定が最終話でひっくり返る訳だが、あらためて考えてみると、彼らのいる都市は「人間の住む世界=東京」そのものだった。

それはつまり、店の看板や道路標識、渋谷の街頭にいたるまでかなり写実的で、人間社会の要素が満載だからだ。創作という体裁上、広告の企業名は伏せこそすれ、「新宿」「赤坂」などの地点名はそのまま。あくまで「東京で動物達が暮らしている」という設定でストーリーが進んでいる。

そもそも、診察中に映る脳のCTスキャンが人間の脳の形そのもの。まぁ、普通に考えてみればおかしな話だ。たしかに観ていて多少違和感はおぼえるが、アニメはファンタジーだからそんなものかと見過ごしてしまう、そのミスリードをうまく利用して鑑賞者を欺くことに成功している。

一方で、ときどき背景画の線がクレヨンの線画のような、ぼやけたタッチで描かれていたのが気になった人はいないだろうか。

私はここに、小戸川の認知のイメージが表現されていると思う。ん?何それ?

最終話で明かされる彼の病気は、「高次脳機能障害による視覚失認」。詳しくはわからないけれど名前から察するに、視力が悪いとかではなく、「見えているものが何か」を認識する機能に異常を起こして、人を動物と誤認している。

"一度見た相手は、オーラのようなもので認知している感覚に近い"と小戸川本人がいうように、見たものをそのまま知覚できないために、彼の周りはぼんやりと、デフォルメされた世界が広がっていたのだ。

その証拠に正しい認知機能を取り戻し「人」に戻った後はそうしたクレヨンタッチの背景はない、かもしれない。7話と最終話に小戸川の家の外観が出てきますが、ちょっと違く見えませんか?

こういうアニメーションならではの仕掛けって面白いなぁと思う。

(ただ、私が表現技法に着目して粗探しみたいな見方をする癖があるので背景のタッチとかどうでもいいわという人、すみません。)


ネットリテラシーがないって怖いね

最後に小噺。

宝くじの高額当選、簡単にネットにあげちゃダメだよ。引越し中の写真とかアップしがちだけど、日の差す方角とか物件検索とかで簡単に特定されるよ。家から何分掛かるとかの投稿も見られてるよ。

これは高尚なハッキングとかではなくて、誰でも簡単に始められるストーカーの手口。

SNS、YouTube、婚活アプリ(あとソシャゲ、オークション...)など、身近にあるネットは使い方ひとつで事件に発展しうる。

美人局にしても、婚活アプリでの経歴詐称からはじまったトラブル。"お前、騙されてるんじゃないのか?"に気づけなかったために起こってしまった不幸。

ネット社会のちょっとした嘘や本当が、大きな傷を作ることに気付いて注意しなければならない。そしてこれは、一人スマホ一台所有の時代を生きる以上、一人ひとりが注意して対処していくしかないものだ。だから情報格差が顕著に表れるところなのだ。


以上、他にもたくさん語りたいポイントはあるけれどこのくらいで締めるとする。

もちろん黒幕のあの子とか、ほんとに勧善懲悪といえるのか?とかまだまだ精査すべきところはあると思う。

正直まだいくつか、咀嚼しきれてなくて気になっているセリフも沢山あるので、プライムビデオでまだまだ見返したいと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。


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