第23話 啓発
人材育成について、ちょっと立ち止まって考えています。
前回は 習熟 について取り上げました。
今回は 啓発 です。
「習熟」とは、その仕事に慣れ、上達することですが、
「啓発」とは、より高い理解や認識に達すること
です。
人材育成において「啓発する」とは
理解や認識の次元が高まるよう導くことで、
自らそれを実現しようとすることが
「自己啓発」です。
「習熟」+「啓発」=「成熟」
と言えるかな、と思います。
さて、「啓発」に興味を持ったのは
2つの思い出がきっかけです。
一つは20代~30代、さまざまな企業を
支援して回っていた時のことです。
「あいつもだいぶ一皮むけてきたよなぁ。」
と部下の成長を語る管理職に
よく出会いました。
“一皮むける”とは
蛇や虫の脱皮が語源のようですが、
経験を通じて成長し、逞しくなった、洗練されてきた
状態のことです。
人の成長は
“仕事を覚えることだけではない”
ということで、とても印象に残りました。
もう一つは、ある企業での社内勉強会の話です。
50代のベテランが自主的に勉強会を企画・実施していて
若手は自分の好きなテーマ、話を聞きたい先輩の講座に
参加していました。
その所感を参加者に聞くと
講義の内容(知識、技術等)よりも
・先輩が何を考えて仕事をしてきたか、
・どう課題をどう解決してきたか
など、
先輩の“体験”がより印象に残っている
ようなのです。
知識や技能を学ぶことも大事ですが、
その人の価値観、態度、経験
そのものからも学ぶ意義があるということでしょう。
これらは「啓発」に関する学びと言えます。
さて、啓発を促すには
どのような実践のポイントがあるでしょうか?
まず基本的に2つのアプローチがあります。
(1)外に目を向ける
新しい情報や体験のインパクトは
自分の思い込みに気づき、
新たな認識をもたらします。
自分の世界から一歩出る
=外に出る
=視野を広げる
ことが必要と言えます。
(2)内に目を向ける
今自分が存在している世界、毎日の生活、
それらを見つめることからも
新たな認識が得られます。
“今何が起きているのか?”
から目を背けずに
身近なものをしっかり見ることですね。
外と内、
これらは相互に関連します。
外に出て新たな体験や情報が増えると
内を新たな目で見つめ直すきっかけになりますし、
内側を見つめて気づいたことが
新たな体験をしようという
動機につながったりもします。
現代は情報化社会ですから
外側の事柄の影響が大きくなっています。
内側をじっくり見つめる機会が
減っていると感じます。
ですから、
外のことにあまり惑わされない
意識も大切です。
さて、
管理職や人材育成リーダーが
部下や後輩を「啓発」するには
どんなスタンスが大切でしょうか。
やってみると分かりますが、
仕事の知識や技能の習得と異なり
啓発は“きっかけ”を与えること
に尽きると思います。
・新しい体験を勧める。
・新しい情報を伝える。
・現実を見つめ直す「問い」をぶつける。
・刺激になりそうな人、書物などを紹介する。
・物事の意味を説明する。
・自分の体験を話す。
・本人の体験に耳を傾ける。
・・・・・・・
色々なアプローチはありますが、
何が啓発の決め手になるかは分かりません。
「偶然」がもたらすのが「啓発」と思います。
例えば、
人から紹介してもらった本は
知識面で有益であれば役立ちますが
「啓発」をもたらすきっかけになるかは
人それぞれですね。
「啓発」には
新たな認識を生み出す「出会い」
が必要のようです。
そのためのヒントをたくさん提供する
そして
自然に「啓発」が起きるのを待つ。
別の言い方をすれば、
教える立場の人ほど
新しいことへの興味・関心、挑戦と
内なることの観察、考察、内省を行う。
つまり、
「自己啓発的な生き方を自ら体現して見せる」
ことが大切ではないでしょうか。
人材育成は
「習熟」と「啓発」の両面の前進が
本質的な目標と言えるでしょう。
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