HRテクノロジー・カンファレンス 2022 基調講演 (The Disruption Never Stops -What’s Hot in the HR Technology Market) & 「2023年 人事のトレンド予測」
2022年9月にラスベガスで行われたHR Technology Conference & Exposition。その中のJosh Bersinによる基調講演のプレゼン資料の中から重要と思われるポイントをピックアップして解説する。さらに「付録」では、「2023年 人事のトレンド予測」レポートの概要を紹介する。
もっと良い翻訳や解釈があるはずのところ、読者の皆様からのフィードバックに期待する。必要に応じて、順次内容のブラッシュアップをしていく。
人事領域のあらゆる要素が相互接続する
New Skills Capability Academies(新たなスキル・能力アカデミー)
スキル体系、スキルライブラリーを構築して、スキルベースで人とジョブとのマッチングを行う。マッチングをAIで行えるようなプラットフォームを活用して、「外から買う」(社外から人材を採用する)だけではなく社内で人材を育てる。
Simplify Job Architecture(ジョブ体系をシンプルにする)
アジャイルな組織設計が可能になるような新たなモデルを構築する。
Pay, Benefits, Rewards, Wellbeing(給与管理、福利厚生、報償、ウェルビーイング)
柔軟な報償制度、公平な賃金支払いを実現するような新たな報酬モデルの導入。
Millennial Leadership Pipeline(ミレニアル世代からリーダーを抜擢するためのパイプラインづくり)
コーチングと人材開発、ストレッチアサインを組み合わせたリーダーシップ育成モデルの構築。
Internal Mobility and Agility(内部異動とアジリティ)
プロジェクト型の働き方へのシフト、キャリアモデルの構築、内部異動の促進、社内でのギグワーク推奨。
Employee Experience, Retention(従業員体験の向上による優秀人材の維持)
従業員体験をデザインする。特に、オンボーディングとフィードバックの仕組みを強化する。
Workforce Intelligence and Planning(人員計画の高度化)
新規事業に合わせて新たな職務(Job Role)が生まれる。時には組織の再構築やM&Aも必要になる。
Gig and Contract Workers(ギグワーカーと契約社員)
副業、パートタイム労働、ギグワークを、タレントマーケットプレイスの仕組み構築により促進させる。
Employment Brand, Candidates(採用ブランディングによる候補者の惹きつけ)
定年退職者の増加、出生率の低下に伴って人材獲得競争が激化していく中、また、さまざまな理由で労働市場からの離脱者が多くなっていく中、採用におけるブランド力の向上により優秀な人材を惹きつけて獲得する。
Diverse Hiring and Sourcing(多様性ある人材の獲得)
学歴、人種、文化的な背景、地理的な問題、性別、等々の壁を取り払って多様性ある人材を獲得する。併せて、知・経験のダイバーシティの促進も重要。
人事の体系的モデル
早く導入でき、即座に効果があるもの → 【採用】
戦略的な採用
多様性のある人材の獲得
候補者体験の向上
採用ブランディングの向上
大学との連携強化
採用担当者のスキル向上
採用業務の効率化
早く導入できるが、効果を生むまでに時間を要するもの → 【人材維持】
従業員体験の向上
組織文化の醸成
福利厚生の充実(育児支援含む)
働き方の柔軟性実現(例:週休3日制)
同一労働同一賃金の実現(男女間格差の解消を含む)
人間を中心においたリーダーシップの醸成・育成
従業員の声を聴く(内容の分析を含む)
導入に時間がかかるが、即座に効果があるもの → 【リスキリング】
キャリアパスの構築
スキル体系の構築
スキル中心の人材開発プログラムの開発
隣接する職務へのキャリアアップ
隣接するスキルの習得
人材の異動(特に内部異動)の促進
タレントマーケットプレイスの仕組み構築
導入に時間がかかり、効果を生むまでに時間を要するもの → 【人事の再設計・再構築】
職務分析
職務設計
雇用モデルの再構築
ギグワーク、業務委託の促進
アウトソーシングの推進
自動化の促進
生産性向上に向けたプラットフォームづくり
Core HRプラットフォームは優れているが、十分なものとは言えない。
HRテクノロジー関連のプロジェクトのうち32%は大幅に予算オーバー
プロジェクトの53%は実施期限を超過(導入期限に間に合わず)
42%のものは十分な成功とはいえないか、2年経過後に失敗と評価
クラウド型HCMソリューションに対する次のような期待が打ち砕かれる。(期待と実態との乖離が大きい順)
人事機能がもっと戦略的に生まれ変わるはずだった。
イノベーションはもっと加速するはずだった。
従業員体験がもっと向上するはずだった。
システムに係るトレーニングをもっと減らせるはずだった。
TCO(システム所有運用管理コスト)はもっと削減されるはずだった。
アップデート(システム更新)はもっと簡単なはずだった。
もっと良いデータを取得でき、そこからインサイトを得られるはずだった。
リアルタイムデータ更新や取得、利用がもっとできるはずだった。
従業員に関する様々なデータをもっと統合して見ることができるはずだった。
最大の成功要因は、「従業員体験」を優先することであり、業務プロセスやデータ統合の話ではない。
人材マネジメントの「段階」(ビジネスの変革を目指すべき。)
レベル1 テクノロジーが中心
何らかのシステムの導入、プロセスの自動化、コスト削減にフォーカス。「人」の側面はさほど考慮に入れない。
レベル2 プロセスが中心
業務プロセス、社内手続き、何らかの「処理」にフォーカス。ほとんどの場合がウォーターフォール型のアプローチで行われる。業務の効率化が際重要視されるが、そこには戦略的な視点はない。
レベル3 「成果」が中心
ビジネス上の成果、成功判断基準、戦略のアラインメント(調整)にフォーカス。オペレーショナル・エクセレンス(組織や企業が業務プロセスの最適化や改善を通じて、効率性、生産性、品質、顧客満足度、コスト削減などの業績目標を達成すること)と「戦略の磨き上げ」のバランスが図られる。
レベル4 ビジネスの変革
「人」にフォーカスし、デザイン思考を用い、「従業員のジャーニーマップ」(の全般における『体験』)を重視し、人事部門が有するケイパビリティ(組織能力)にも着目する。オペレーショナル・エクセレンスと「戦略の磨き上げ」のバランスのみならず、「変革」も追求していく。
2023年以降のHRテクノロジー(のあり方)
これまでと最も異なるのは、Talent Intelligenceの部分が追加されたこと。
タレント・インテリジェンスとは、
スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)
ジョブ体系(様々な業種、職種ごとの特徴を反映した「ジョブ定義集」のようなもの)
タレント・モビリティ(人材の「異動可能性」や「流動性」を促進するためのソリューション)
ジョブ・マッチング(人材とジョブとのマッチングを、スキルの情報をベースに行うための仕組み)
キャリア支援(従業員主導で自身の将来のキャリアパスを構築するための支援ツール)
メンタリング(従業員のキャリアや学習を支援するために、指導、助言、またはサポートを行うための仕組み)
という要素から構成される。
「スキル」は人事のあらゆる領域に影響を与える。
人材獲得
外部から人材を採用するときに、AIを活用してマッチングを行う際にはスキルの情報が基準となる。
また、具体的には次のような場合にスキルがモノサシとして機能する。
リファーラル採用(従業員からの紹介)
多様性(特に、コグニティブの側面)を重視した採用
アセスメント(適職診断)
面接における行動特性の評価(コンピテンシー面接)
タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
人材の異動・流動化の促進と、キャリア支援
具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。
ジョブシェアリング(1つの職務を2人以上の従業員が分担して行う)
メンタリング(メンバー起点の、個別化されたキャリアアドバイスも含む)
キャリア計画(メンバー主導型の、キャリア自律を目指すもの)
プロジェクト型の働き方
ギグワーク(雇用関係を結ばない単発・短時間の働き方)
タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
企業内研修
具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。
ラーニングにおけるコンプライアンス(例:法令で定められた資格の更新のために必須の研修を確実に受講させる)
公式[正規]学習(公的な教育機関による学習コンテンツを、それが必要な従業員に確実に提供する)
学習コンテンツの検索(従業員が、自身にとって必要なコンテンツを探す)
学習コンテンツの配信(個々の従業員にとって必要なコンテンツを、的確に配信する(※バラマキ型ではなく))
ラーニングの分析(利用コンテンツの傾向、利用率、受講による効果等様々な観点における分析)
ラーニング管理(受講履歴、受講者、コンテンツ等、ラーニングに関わる様々な管理。ラーニングコンテンツに対してスキルのタグ付けを行うことも含まれる。)
タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
給与および報奨
給与や報酬、報奨の水準や内容を保有スキルに応じて変動させる仕組みを導入するためには、タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
ここでは、「スキル」の名称やその意味合いに加えて、人材市場におけるトレンドを踏まえた「スキル毎の格付け情報」(スキルの種類と給与水準の情報がマッピングされ、スキル毎の価値を表現したようなもの)も必要。
エンプロイー・エクスペリエンス・プラットフォーム(従業員体験の向上に寄与するソリューション群)
具体的には次のような場合にスキルがモノサシ(あるいは、マッチングの基準)として機能する。
共通点として、従業員一人ひとりに対して個別化された体験が提供されること。
従業員に対する新たな任務・職責や、プロジェクト等のレコメンド
キャリア開発プログラムのレコメンド
研修プログラムやラーニングコンテンツのレコメンド
メンタリング、コーチング、キャリアアドバイス等
ITに関連するサポート
その他、人事上の様々なサポート
タレント・インテリジェンスの構成要素として、スキル・データベース(世界通用性のある「スキル」の名称やその意味合い等がリスト化され体系化されたデータベース)が必要。
スキル体系というものは想像以上に複雑
自社のスキル体系、さらにはジョブ体系、組織体系を定義するにあたっては、以下のものをうまく活用して組み合わせていくことになる。
外部からコンテンツとして購入するスキルライブラリー
代表的なベンダー:Lightcast
採用管理システムの中で構築されたスキルモデル
ジョブサーチや候補者追跡を行う中で生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:Eightfold Avature iCIMS
コンテンツベンダーによって構築されたスキルモデル
ラーニングコンテンツ提供事業者がサービス提供を行う中で生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:LinkedIn Skillsoft Udemy
ラーニングソリューション(LXP, LMS)のベンダーによって構築されたスキルモデル
ラーニングエクスペリエンスプラットフォームのサービス提供事業者がサービス提供を行う中、あるいは、そのユーザ企業の従業員のラーニングアクティビティを通じて生成・整備されてきたスキル体系
代表的なベンダー:CornerstoneOnDemand(CSOD)
自社の様々なビジネスファンクション領域で構築された、それぞれの業務上求められるスキルモデル
自社のリーダー層や経営幹部、あるいは営業部門・製造部門・サービス部門等において求められるスキルが体系化されていったもの
タレント・インテリジェンスの進化
レベル1:業務としての(単なる)レポーティング
(「人事データ分析」と呼ばれた)
人事データの統合
データ統合ツール、ETLツール(社内外に散在するデータを活用しやすくするためにデータの収集(Extract)、加工(Transform)、送出(Load)を行うためのツール)の活用
レベル2:戦略的分析
(「ピープル・アナリティクス」と呼ばれ始めた)
標準レポート・定型レポートの作成、測定指標のダッシュボード化
分析ツールの活用
レベル3:予測分析
(「ピープル・アナリティクス」の成熟)
社外のビジネスデータと社内のビジネスデータの統合
AIとビッグデータの活用
レベル4:タレントインテリジェンス
(「タレントインテリジェンス」への進化)
時系列予測の情報も分析対象とし、判断の助けとする
一般的なデータ以外にも、地理情報、労働市場のデータ、公開データ等も幅広く活用
採用(人材獲得)の進化過程
採用(人材獲得)においてもAIの活用が本格化してきてはいるが、やはり「人が中心」の営みといえる。
レベル1:受け身かつ断片化
あくまでも必要に応じて行われる、旧来型の採用活動。
極めて「取引型」(トランザクショナル)。(やるべきことが決まっていて、それに従って淡々とこなすイメージ。)
プロセス重視。
体験(エクスペリエンス)は重視していない。
事業(ビジネス戦略)との結びつきは極めて弱い。
レベル2:標準化かつ構造化
プロセスが明確に定義されている。
採用活動を監督するためのガバナンスが効いている。
採用活動全般におけるライフサイクルを支えるために、その組織内におけるグローバルスタンダードが適用される。
内部異動については、このような仕組みが基本的なアプローチとなる。
レベル3:能動的かつ個別化
個別化された応募者体験に、より一層フォーカス。
採用担当者に対して注意を払う。
採用ブランディングと従業員に対する価値提案につき、多大な投資を行う。
レベル4:クリエイティブかつ「人が中心」
競争優位性維持のための採用。
事業(ビジネス戦略)と密接不可分。
従来の実務慣行も打ち破る、大胆な実験。
テクノロジーの戦略的活用。
タレント・マーケットプレイスは、単なる機能ではなくプラットフォーム
人材の異動(流動性を高める)ことについての圧倒的な需要の高まり
人材開発、リーダーシップ開発は、より計画的に行う。
スキルと経験に基づき
在籍期間や、属性、能力、特性に基づき
アセスメントの結果に基づき
人材獲得(採用)、配置は、よりアジャイルに行う。
いかなるときにも可変的
本人の興味や保有スキルに基づき
「スキル体系」が役立つ
そして、事業計画上のニーズ、人材開発上のニーズに応じて「ストレッチアサイン」も行いながら人材の異動(流動性)をさらに促進させていく。
タレント・マーケットプレイスが、タレント・マネジメントに取って代わる。
「新たな従業員体験のあり方」として、タレント・マーケットプレイスは下記の局面で活用される。
採用活動
プロジェクトメンバーの登用
人員計画
報奨と報酬
人事考課
後継者計画
LXP・LMS(ラーニングシステム)の活用
組織能力の体系化
コーチング
人脈形成
兼ね備える機能、役割、情報は以下の通り。
「スキル」を共通言語とした評価やマッチング
ジョブやメンターとのマッチング
「スキル」をベースとしたフィードバック
異動パターンの提示
需要のあるジョブ一覧
空きポジションの提示
ジョブ体系
プロジェクト、コーチ、メンターの一覧
後継者計画
ラーニングメニュー
オンボーディング
ジョブ毎の人材要件
キャリアパス
アセスメント
付録 「2023年 人事のトレンド予測」レポート
多様性、高齢化、労働力不足が進む
業界の融合による、ジョブとキャリアの再定義
真摯かつ現実的な、「スキル」に関する取り組みの進展
ハイブリッドな働き方のもとでの、「従業員体験」の追求
「従業員体験」を超えた、「持続可能な人材」への取り組み
「リーダーシップモデル」の再考
「パフォーマンス管理」の新たなモデル
給与・報酬戦略の真摯な見直し
CEOとCHROによる、ウェルビーイングへの関心の高まり
「生産性」が、「従業員の成功」を測る重要な尺度
コーポレートラーニング(企業研修)の新たな焦点は、「仕事を通じての成長」
採用担当者の役割がますます重要に
ピープル・アナリティクスがタレント・インテリジェンスへと進化
1. 多様性、高齢化、労働力不足が進む
2. 業界の融合による、ジョブとキャリアの再定義
3. 真摯かつ現実的な、「スキル」に関する取り組みの進展
4. ハイブリッドな働き方のもとでの、「従業員体験」の追求
5. 「従業員体験」を超えた、「持続可能な人材」への取り組み
6. 「リーダーシップモデル」の再考
7. 「パフォーマンス管理」の新たなモデル
8. 給与・報酬戦略の真摯な見直し
9. CEOとCHROによる、ウェルビーイングへの関心の高まり
10. 「生産性」が、「従業員の成功」を測る重要な尺度
11. コーポレートラーニング(企業研修)の新たな焦点は、「仕事を通じての成長」
12. 採用担当者の役割がますます重要に
13. ピープル・アナリティクスがタレント・インテリジェンスへと進化
最後に、「スキルの可視化」や「キャリア自律支援」に役立つソリューションを紹介する。
このentomoの活用により、
・レジュメ(職務経歴書)を読み込ませるだけで、自分でも気づかなかったスキルをAIが抽出して明示
・4万件以上のスキルDBからキーワード検索等により、保有していそうなスキルを追加登録
・保有スキルの情報に基づき、将来就ける「ジョブ」の選択肢をAIが提示
・将来的に狙いたい「ジョブ」や「ポジション」(Moonshot Job Role)との間の「スキルギャップ」をAIが提示
・「スキルギャップ」を埋めるために最適なラーニングメニューをAIがレコメンド
が可能になり、誰もが自分の希望する「ジョブ」を目指したキャリア自律を実現し、我が国全体の「キャリアの民主化」に貢献していく。
以上のようなトレンド情報の紹介以外に、親身になって日本企業の「人的資本開示」の支援を行なっていると自負している。
それが、株式会社SP総研の「『人的資本開示』対応コンサルティングサービス」である。
コンサルティングファームを始めすでに各社同様のサービスを展開していると思われるが、当社のサービスの特徴としては(おそらく日本で唯一)「スキルの可視化」の支援まで行なっていることを挙げることができる。
仮に他社でも同様のサービスを行なっていたとしても、そのための手法として「セルフジョブ定義」を用いている点も加味すれば、「日本で唯一のサービス」といえる。
現場主導型の、日本企業にもマッチしやすい手法を用いながら、無理のない「人的資本開示」を目指して支援している。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?