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ペット禁止ルールの廃止を要求してみた(後編)/マンション・団地で猫を飼おう計画

ペット禁止ルールの廃止を求めてみた報告に続き、今回は、要求する際にいろいろ調べた結果として、厳密には「ペット禁止」とは言い切れないのではないかという疑いについて考えていきます。

なお前回と今回のタイトル写真は、どちらも近所の賃貸団地にURが立てたものです。自分の懐再生大臣・甘利明(自民党)に賄賂を渡しているURこそ「めいわくですから」法で裁かないなら、関係者は保健所の檻のなかへ収容してほしいところです。

飼育強行はダメ、訴えられれば負け。

さて本題に入る前に少し長い前置きがあります。

今回のテーマは、古い集合住宅における規約や協約には「穴がある」という話になります。ただし、ルールの穴を探るのは、ルール改正すら拒まれる場合の交渉材料とすることが主目的です。穴があるからといってペット飼育を強行するのは悪手ですし、強行して敗訴した判例が山積みにされているので、訴訟を起こされれば負けると思ってください。

「穴があるのに、訴えられば負けるとは納得いかない」という人も多いと思います。でも、日本はそういう国なんです。例えば、理不尽ないわゆる「ブラック校則」が有効と判断されることがあるのは広く知られていますよね。あれと同様です。

ただ、報道が注目するポイントや世間の関心には、少しおかしいところがあります。"校内"での振る舞い等については、学校側に(ある程度までは)決める権利があって当然です。なぜなら、この「学校側」には本来生徒(や保護者)が含まれるからです。おかしなことになっている原因は、生徒が"学校側"から除外されている(校則を定める権利を奪われている)ことにあります。

そして本当に理不尽なのは、生徒の「芸能活動禁止」とか「アルバイト禁止」とか「男女交際禁止」といった、"校外"の行ないまで制限する校則と、そのような校則の無効を訴えても普通に有効との裁定が下されることです(無効とされる場合もあるので、それについては後述します)。

このあたりの詳しいことは別の機会に話そうと思いますが、これには背景があります。日本の裁判でどうにも理不尽な判決が下されるのは、日本の司法は"部分社会論"という、「自律的な部分社会の内部規律について司法審査の適用外とする考え」に基づいて判断しているからです。誤解を恐れず簡単に言うと、そもそも「介入すべきではない」という前提があり、結果的に人権が侵害されようと知ったことではなく、「いやなら出ていけ」というスタンスなのです。

ただし「いやなら出ていけ」もまた、一概には否定しきれません。部分社会論が成り立つのは、"選択の自由"の余地が(一応)あるからです。

とはいえ、いくらルールは有効でも実害が及ぶと賠償責任が生じることはあります。ルールが有効か無効かの裁定と、そのほかの争点は別なのです。

これまでのペット関連訴訟では、敗訴しておとなしく転居していく人もいたのですが、なかには事後的に規約を変更されたケースもあってなかなかの理不尽さに満ちています。いくら規約を有効とする判断が下っても、選択の機会なく転居を求められた場合には費用を請求することくらいはできたでしょうし、規約に落ち度があればなおさら、ではないでしょうか。

訴訟の怖さは(お互いに)知っておくべき

ペット関連訴訟は過去にいくつもあり、なかには住民側の勝訴もあります。しかし逆に、住民側が負け、組合側が勝っていることがよく知られていることもあって、組合側は判例を元に自信をもってペット飼育者を訴えてきます。また、「ルールに背いた住民のせいで訴訟が必要になった」という理由で、組合側はその訴訟費用を損害賠償として住民に支払うよう求めてきます。これはなかなか怖いことです。

でも、ルールに穴があったとしたらどうでしょう?

例えルールが有効だとして組合側の訴えが認められても、訴訟費用は組合側の自腹とされたり、転居費用などを求めて住民から反訴されるおそれが出てくるとも考えられるわけです。もちろん実際の訴訟でどうなるかはわかりませんが、ここでは訴訟することを前提にしてはいませんし、オープンな場所に書くことでもないのでそこはどうでもいいんです。

ただし、組合側が訴訟に費やすお金は住民全体の積み立てによって賄われているものですから、回収し損ねて金銭的な損害を負う"おそれ"があるのは住民全体だということは重要です。そもそも「迷惑が及ぶ"おそれ"があるから」という理由でペット飼育の全面禁止を支持する差別的な人たちの思考の弱点はここにあります。

損する"おそれ"を住民たちが知れば、容易には「訴えるべし」という考えには至らないでしょう。そして、そもそも組合の規約は「組合員の共同の利益」のためにあるので、それに反する行為はそれこそ規約違反になりかねません。

ペット飼育者を訴えるか否か決めるのは理事会の業務でしょうから、組合員の議決によって止めることはできないと思いますが、たいていの規約では業務を通じて理事個人が訴えられた際の免責や、理事個人の訴訟費用を理事会が肩代わりすることを定めていないので、そのことも訴訟回避に有利に働きます。

むしろ、規約には「役員がその任務に背き組合に損害を与えたときは、その役員は、組合に対し損害賠償の責を負う」とあるくらいです。この規約との相性が悪いので、理事個人の訴訟費用を肩代わりするようなルールは作れないという側面もあるかもしれませんね。

というわけで、ルールに穴があるや、訴訟の怖さを知ることは、"リーガルバトル"という名の安易な訴訟をお互いに起こさせない抑止力となります。そして、それはペット禁止ルールをそのまま放置させずに規約や協約の変更について議論を始めさせる動機になりえるのではないでしょうか。

大切なのは、単純に「穴を塞ごう」という方向に持っていかせないことです。議論はポジティブに展開する必要があり、穴があるからといってペット飼育を強行するのは逆効果になるので絶対にやってはいけません。

本題:ルールの穴はどこか

やっと本題に入ります。では、ルールの穴はどこにあるのでしょうか?

いろいろ細かく指摘していきたいところですが、オープンな場所にあまり具体的なことを書いて穴を塞がれたくはないので、ここでは「いかにダメか」がわかる部分を紹介していきます。

例えばうちの団地でペット禁止ルールに当たると"思われる"のは、以下の部分です。

『共同生活の秩序維持に関する協定』
(略)
(禁止事項)
組合員等は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
(略)
小鳥及び魚類以外の動物を飼育すること(ただし身体障害者補助犬法に規定する身体障害者補助犬≪盲導犬、介助犬及び聴導犬≫を除く。)

まず最初の大穴は「共同生活」という言葉ですね。個人が所有する住宅内は共同生活の場ではありませんから、これだけでもルールの範囲外だと考えることができます。

条文の本文では、その"場所"を明文化していないのが致命的な欠陥です。この条文を文字通りに遵守した場合は、逆に団地敷地内の公園などで小鳥を飼育(餌付け)しても良いことになります。池や噴水があれば、魚もOKです。

また、意地悪な解釈になりますが、動物員の飼育員さんはガッツリ動物を飼育しているので、この団地には暮らせません。「いやいや、勤め先の動物園は共同生活の敷地外だし効果は及ばないでしょう?」と思うかもしれませんが、アルバイト禁止の校則ように校外の活動について束縛しても有効とされる場合があります。水族館に転職すればセーフですが、ただしイルカやカニ、イカ、カメなどは魚類ではないので飼育できません。

なお、前出のうちの団地の協約は平成17年(2005年)に施行されています。規約本体は昭和45年(1970年)の施行なので、2005年に規約から分離して協約化したのだと思われます。経緯が気になったので、同時期にできたお隣の団地(分譲)を調べてみたところ、協約ではなく、規約(※その後も改正はされている)のなかにペット禁止ルール"らしきもの"が記されていました。その条文は次のとおりです。

組合員又はその所有する住宅に居住する者が団地における共同生活の秩序を乱す次の各号の掲げる行為を行ったときは、 理事長は理事会の決議に基き当該組合員又はその所有する住宅に居住する者に対して共同生活の秩序の保持に関する勧告を行うことができる。

一 小鳥及び魚類以外の動物を飼育すること
(以下続く)

注目すべきは「共同生活の秩序を乱す次の各号の掲げる行為を行ったとき」と明記されていることですね。これは「その行為自体を丸ごと、秩序を乱すこと」として断じているようにも、「秩序を乱す場合だけ」を限定しているようにも読める、曖昧で"争点が残る表現"になっています。

おそらく、うちの団地ではこのような曖昧さをなくそうとして協約化の際に前後の文脈を無視してコピペし、よけい曖昧にして穴を広げてしまったのではないでしょうか。

ただ、この"お隣団地"は「勧告」しかできない欠点もあります。秩序を乱すと叱られ、改善を求められるだけですから、これは事実上「ペットOK」と考えて良いのかもしれません。なにせお隣だし、引っ越そうかしらとちょっと悩んでしまいます。

まあ、ベランダで餌付けしたスズメのせいで干している布団がフンだらけにされても何も言えないのは困るでしょうから、これはこれで規約を修正した方がよさそうですけどね。

このように、集合住宅の規約にはここではナイショにしているものも含めて様々な"穴"が開いている場合があります。前後の文脈が変化することを考えずに単純にコピペしているから悪いとしか言いようがないのですが、正すチャンスがあることはありがたいことだと思っておくことにします。

と、これを書いていたところ副理事長さんから電話があり、「話をしたい」とご自宅に招かれました。週明けに伺うことになったので、お話しして、後日また報告します!

(つづく)


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