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創作に役立つ用語辞典『国境』

今でこそ国境は当たり前なものとなり、地球上のほぼ全土が国境で区切られている。現在も世界各地に国境を巡る国家間の争いは絶えないが、少し前まで国境はそれほど厳密なものではなかった。

現代のような国境の概念ができたのは17世紀、神聖ローマ帝国を舞台とした30年戦争を経た西欧でのこと。1648年のウェストファリア(ヴェストファーレン)条約によって現代に通ずる主権国家の形が作られ、国家の領域が明確化され始めた。最後の宗教戦争と呼ばれた30年戦争で疲弊したヨーロッパでは、主権国家の理念を尊重して他国に(あまり)干渉しない主権国家体制が確立されていった。

ヨーロッパで生まれた国家・国境の概念はその後、帝国主義の広がりによる侵略・紛争とその終焉を経てアジアや他の地域にも適用されていく。しかしその運用には曖昧さも残り、特に有用でなければ国境が明確にされないこともあった。

例えば「アラスカ・パンハンドル」と呼ばれるアラスカ南東部の"尻尾"のような約800kmに及ぶ地域について、アメリカとカナダの国境が明確になったのは20世紀初頭、1903年のこと。アメリカは1867年にロシアからアラスカを購入した(記事末尾のリンク参照)が、このときも国境は明確化されていなかった。

ところが1897年にアラスカと接するカナダのユーコン地方に金鉱が見つかると、事態は一変。急遽、金鉱へアクセスするためのルートを巡って国境の明確化が必要となり、アメリカとカナダによる争いが起きる。

当時のアメリカ大統領ルーズベルトは米軍を近隣地域へと派遣して緊張を高めたが、その後国際法廷への付託に同意する。とはいえアメリカは仲裁をおとなしく待ったわけではなく、武力行使を背景とした脅しをかけて勝利をもぎ取った。

国境を巡る争いは様々あり、その解決方法も様々だ。戦争による争奪もそのひとつに含まれるが、あくまで選択肢のひとつ。軍の派遣が"即、開戦"という単純なシナリオに帰結するわけではないことは覚えておくべきだろう。

なお、人類初の国家(の原型)は勢力圏の衝突がきっかけで生まれたとされている。

紀元前3100年ごろのエジプトでは、ナイル川流域の都市国家が発展して人口が増加し、勢力圏が拡大。都市国家同士の勢力圏が重なり合うようになると、灌漑などを巡る問題が発生し、都市国家間の"調整"の必要が出てきた。

そして当時のナイル川デルタ地帯の都市国家と、デルタ地帯南部の都市国家が統合され、これが人類の歴史上はじめての「国家」と呼べる体制となったと言われる。

それから5000年が経過。現代の国境・領土問題においては、権力者が決して譲らず、強硬姿勢を取り続けることで事態の解消が難しくなっている。強硬姿勢を崩せない最大の理由はそう簡単に戦争など起こせないことによるが、国民主権の浸透がその背景にある。

絶対君主制の国であれば総合的な利益を重視して土地を売ったり、資源を共有する選択を有無を言わさずに実行しやすいが、国民のプライドを気にすると一部でもマイナス要素のある決断は難しくなる。急激に情報伝達技術が発展したおかげで、事態が国民に伝わりやすく、国民による批判も広まりやすくなっていることも強く影響しているだろう。

また、当事国同士が簡単には動けないことで国内の支持を得る道具として使われている側面もある。

フィクションにおいては、物語の舞台となる国家・勢力の持つ支配力が遠方にも及ぶか、国家がそれぞれの地域の価値を見い出しているか、権力者が国民の反応を意識する必要があるか、といった要素を考えることで「国境や勢力圏の衝突の解法について、何が自然で何が不自然か」を導き出せるだろう。

また、物語の舞台となる地域の地図を描く機会があるなら、現代の感覚で明確な国境線を引くのは待った方がいいだろう。大国同士が隣接しない世界であれば中間地帯が存在する方が自然だし、逆にビッシリ国境が定まっているなら"その世界ならではの理由"があると期待される。

もちろんフィクションの中で起きる事象について現実の歴史を踏襲しなければならないわけではないが、読者やユーザーが何に意外性を覚えるかは彼ら自身の知識に左右されるのは間違いない。できればその意外性は、良い意味で裏切りたいところだ。

なおタイトル画像はリアルタイム戦略シミュレーションゲーム『Age of Empires Definitive Edition』のキャンペーンシナリオ"エジプトの隆盛"より。

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