DQXでドラクエ社会学に挑戦!?(後編)
社会や経済を探ろうと、妙な視点で始めたDQX初心者の旅の後編です。
今回のテーマはDQX初心者として感じた労働者マインドについてになりますが、端的に言うと「DQXへの永久就職を求める圧を感じる」という話になります。ひとが集まるところには、時代や環境に応じてそれぞれの文化が生まれるのはなんともおもしろい、という話を無駄に難しくやっていきます。
神々をこの目で見た!?
今回の記事タイトルにした画像は、DQXを始めて、一番驚いたの場面です。1ヵ所に妙に人が集まって、しかもみんなで同じ方向を見ているのは何……? イースター島なの?(※モアイは揃って海の方向を向いている) と思ったら、なんとニコニコ動画やYouTubeで配信中のネット番組『超ドラゴンクエストXTV』がゲーム内の中空に浮く巨大モニターにリアルタイムで放送れていたんです。
スタジオの出演者(DQXの開発者など)がDQXに対する要望に答えている場面を当のDQXのなかで観るのは「すごいメタだな~」と思うと同時に、「はたして、どっちがメタバースなのか?」という疑問もわいてきます。ま、ネットゲームのプレイヤーにとって開発者は神のようなものですから、一種の宗教イベントだと見ればこれはこれでおかしくないのかもしれません。
これはおもしろい! DQXの開発者がプレイヤーの声に耳を傾けることは評判が良く、もともと神が隠遁しがちなFF11プレイヤーからすると、とてもうらやましく思います。
2010年9月に初期のFF"14"が大失敗をしてから日本でも開発者がプレイヤーの前に出てくるスタイルが一般的になり、FF14大失敗の2年後、2012年8月にスタートしたDQXも同じ流れのなかにあったのですが、FF14以前と以後でのMMORPGにおける「マスコミュニケーション」の変遷はなかなか興味深いものがあります。
変遷したMMORPGのマスコミュニケーション
この場合のマスコミュニケーションは、TVや新聞などのメディアを指して呼ばれる「マスコミ」のことではなく、すべての関わる人々による「全体の交流」と思ってください。MMORPGの最初のMは"Massive"(マス、大きな塊)ですからね。個々のMMORPGにおける"全体会議"はどこで行なわれるか、ということです。
時代を遡って比較すると、古代MMORPGであるFF11は2002年の運営開始なのでYouTubeもなければニコニコ動画もない、SNSどころかブログもない時代にスタートしたので、「全体の交流」の中心地は「2ちゃんねる」などの匿名掲示板でした。匿名で遠慮なく本音が語られる場所で醸成される"常識"の力は強力です。ただ、デマの流布など卑劣な用途に使われることから「匿名掲示板に参加すること自体が不適切」と言われて"いかがわしいもの"とされた時代ですから、その「匿名掲示板の常識」に染まりすぎると逆に"痛いヤツ扱い"される側面もありました。
一方、TwitterなどのSNSが台頭してからスタートした現世代MMORPGであるDQXやFFXIV(新生後)は、SNSが"禁忌のもの"ではないこともあり、その常識は受け入れられやすく、単一の常識が浸透しやすくなっています。また、SNSに連動してYouTubeなど個人メディア(の意見)が権威化しやすいのも特徴のひとつです。ただ、SNSにしてもYouTubeにしても匿名性が低いため、2ちゃんねるなどに比べれば意見はかなり弱めになります。
旧世代(匿名掲示板)の常識はキツく、しかし浸透しにくい。現世代(SNSなど)の常識は甘めではあるが浸透しやすい、という感じです。
また、あわせて現世代のMMORPGではサーバー間を(比較的)自由に行き来できるのが当たり前になっており、そのおかげで良くも悪くも常識が全体に浸透しやすくなっています。一方の旧世代、FF11はサーバーを(気軽には)移動できないので、それぞれのサーバーごとに違う常識が確立されました。FF11自体はネットゲームではあったけど、「プレイヤー自体はネットワークされていない」という状況だったのです。
この、背景としてマスコミュニケーション環境の違いは、それぞれのMMORPGプレイヤー心理に大きく影響していることがうかがい知れます。
求められる都市の担い手
YouTubeでそれぞれのMMORPGについて"初心者"で検索すると、作品ごとの文化の違いが簡単にわかります。FF11では「初心者によるプレイ動画」が比較的多くヒットするのですが、FFXIVやDQXでは「初心者へのアドバイス」が劇的に多くなっています。
そしてそのアドバイスの内容は、初心者の将来を心配して「早めにこれをやっておくといい」というものと「こうすればお金を稼げる」というものに寄りがちです。
気持ちは、わかります。
MMORPGのベテランプレイヤーはその作品をずっと続けることが当たり前になってくる一方、長いプレイ期間の間にほとんどの現役プレイヤーは、一緒に遊ぶ仲間を失う経験をしてきています。直球で言えば、どのMMORPGでもベテランプレイヤー側にはエンドコンテンツを一緒に遊ぶ仲間を確保したいという気持ちがあります。
一方、初心者側にも「選択に失敗したくない」「あとで後悔したくない」「コスパ良く遊びたい」という気持ちもあるでしょうから、結果的に「初心者へのアドバイス動画」はヒット数を稼ぎやすく、検索結果の上位にピックアップされやすいわけです。
実際に、DQX開始前後にそれらの動画をいくつも観たのですが、正直言って初心者向けとは思えない内容が大半でした。他のことに例えるなら、会社見学に来た学生に「10年働けば一人前になれる、昔は25年は必要だった」と言うようなものです。
DQXは近世のMMORPGか
ただ、ぼくとしては一見さんではないつもりなのでとても勉強になったのも確かです。そして、良くも悪くもDQXには「隙がない」印象を受けました。FF11のような旧世代のMMORPGを見直して再設計したものがDQXであるとすれば「隙」はなくされて当然です。見た目はDQXの方がより軽いものの、MMORPGとして進化しており、ゲーム内のサービスや遊びは経済を通じて有機的につながっています。
古いものを見直し、再設計すれば隙はなくなり、精度が高まります。それは現実の社会も同じことで、DQXとFF11の社会構造を歴史上の時代にあてはめて考えると、FF11は中世かそれ以前の古代にあたり、DQXは近世にあたると言えます。
ただ、「隙」というのはある程度あった方がよく、DQXの現役プレイヤーは旧世代のMMORPGのプレイヤーよりも息苦しさを感じやすいようにも思えます。例えばFF7のゲームバランスは良くも悪くも隙が多い作品で、悪く言えば大味なのですが「うまくやれば、すごいことができる」のが楽しい名作です。ドラクエシリーズはいつも「バランスが良い」ことを称賛されますが、それは時には欠点にもなりえます。
良いか悪いか、好きか嫌いかは個人の好みによりますが、DQXは単一の経済思想が全体に行き届いており、幅広く様々なものを金銭的に評価しやすい傾向があります。そして、その経済の仕組みは「最初に出費があること」が前提になる近世の資本主義経済に近くなっています。
この「最初の出費」とは、つまり「税」のことです。ただ生きていくだけで税を納めなければいけない、そのためにお金が必要なので労働する、という仕組み。MMORPGの世界でインフレを起こさないためには貨幣回収手段として税金のような仕組みを導入することは必須ですが、それが間近に、そして頻繁に見えると当然プレッシャーが働きます。
初心者に伝えるべきことは?
もちろん初心者にやさしくするために、今はかなり手軽にゲーム序盤から手軽にお金を稼ぐ手段が用意されています。ただ、実はこれが多肢に渡るのがちょっとした問題だと思われます。
以前ベーシックインカムの記事で書いたように、FF11にもベーシックインカム的な仕組みはありますが、種類は少なく、どれも手間は少なめです。一方、DQXは初心者のための"お金を得る機会"が方々にに散りばめられるため、YouTubeの初心者ガイドでもそれらをひととおり紹介する必要があります。
動画を観ている初心者としては「ずいぶん色々やらないといけないんだな」と感じてしまいますし、お金が貰えるからやるコンテンツは、楽しいからやるものに見えません。
仮に、経済活動に組み込まれているものを「遊び」ではなく「労働」とみなした場合、DQXには遊びの要素がかなり少ないように見えてしまうのです。あるいはDQXは、この世界において「まじめな大人として暮らすことが求められるMMORPG」と言えるかもしれません。
初心者に、本当に伝えるべきことは「ただ、続けて遊んでくれたらうれしい」「楽しく、続けられるよ」ということなのではないかと思います。
ここまで遊んだ実感として、ストーリーは思っていたよりずっとよくできているし、便利なサービスも豊富。贅沢したりペースを上げようとすればお金が必要になるけど、そうでなければ余りそう。ぼくは、ゆっくり遊んでいこうと思います。
できるだけ、大人らしくなく。