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映画を作る映画③ サマーフィルムにのって

『劇場版「SHIROBAKO」』、『ビューティフルドリーマー』に続く3作品目の"映画を作る映画"は、『サマーフィルムにのって』です。

『サマーフィルムにのって』の公開は2021年8月。監督は松本壮史さん、脚本は三浦直之さん、主演は伊藤万理華さんです。

伊藤万理華さんは元乃木坂46という経歴をお持ちですが、当時をまったく知らないので信じられません。乃木坂特有のコピペガールズ感はなく、熱い、体当たりの演技が光ります。

むしろ「元乃木坂」というラベルは、伊藤さんの出演作が「どうせアイドル映画でしょ」と思われてしまうマイナス要因になるのでは? とお父さんは心配だよ(謎)。仮面ライダーの過去を捨てたことで有名なオダギリジョーさんのように歴史修正主義を発動した方がいいんじゃないかと思いましたが、公式プロフィールに『仮面ライダー クウガ』の出演歴載ってますね。あれ、デマだったの!?

まあオダギリジョーさんは本作に出演していませんので、さておき。

本作『サマーフィルムにのって』は、「映画部では恋愛映画ばかりを撮っていて自分が好きな時代劇を撮れない。そこで、自分たちで仲間を集めて撮る!」というものです。映画を作る映画ではありますが、量産型の青春部活劇ではなくヒネリが効いた独自性の強い作品です。

映画作りに限らず"部活モノ"は、意外と一般の個人より機材などが揃っていることで等身大の物語になりにくいのですが、本作は恋愛映画を撮っている映画部本体とは別行動での映画作りとなるため、撮影もスマホでするし、照明も……という感じで悪く言えばチープ、良く言えば「応援したくなる」手作り感で形作られています。意図的かどうかはともかく日本映画が置かれている状況そのものを表していて、日本映画を差別しない派の一員としてはもちろんポジティブに受け止めています。

ここで個人的な評価を言ってしまうと、これまで観た日本映画の中で1・2を争う好印象です。どの日本映画が一番良いか、なんてことを考えたことはなかったので確定1位ではありませんが、そういうことを考えさせられるきっかけになったこと自体が嬉しくてたまりません。

ただ、だからといってベタ褒めしてばかりでは気持ち悪いですよね。すでに脳内お父さんがうっかり登場してしまってかなり気恥ずかしいので、ここからは気を引き締めていきます。

本作の論点となるのは、"無駄と思わせるシーン"、"幕の内弁当"、"ラストシーン"です。

論点① 無駄と思わせるシーン

本作鑑賞中、ちょこちょこと「このシーンいるんかいな」と思うことがあります。結果から言えば、実際にはちっとも無駄ではなくあとにつながる"伏線"になっているのですが、露骨なやつではなく予測不能なやつなので、初見時に「いるんかいな」と思うのは仕方ありません。

伏線を露骨にすればバカバカしく見られ、予測不能にすれば無駄と思われたり気付かれないジレンマ。本作は劇場映画なので(席を立つほどでなければ)無駄と誤解されることも許されるため、"予測不能"を選ぶのが正解とは思いますが、TV放送されたり、ネット配信で観ると「みるのやめちゃう」リスクになるかもしれません。まあ、ほんとは無駄なシーンなんて、なかなかないんですけどね。意味に気付きにくいだけで。

論点② 幕の内弁当

前述の説明ではあえて省きましたが、公式サイトや予告編動画を観ればわかるように、本作はSF・タイムトラベル要素が含まれます。「いろいろ楽しめますよ」という意味での"幕の内弁当"であることは作品のベースとしては意義があるとは思うのですが、特に時代劇とタイムトラベルはかなり尖った要素であることと、両者をヘタに融合させた悪しき前例が思いつきやすいこともあり、鑑賞前に不安になります。

実際にはそんな"ヘタな融合"は行なわれておらず、特に心配なタイムトラベル要素は、ある意味"裏方"のように本作を支える存在で……具体的に「○○しない」という言い方もネタバレ回避のためには使えませんが、物語を"非化学化"するようなチート要素ではありませんし、歴史修正主義の物語でもありません(オダギリジョーの伏線回収)。

逆に言えば、前項と同じく「SF要素いるんかいな」とも言え、SF要素を排除しても「青春映画作り物語」としては成立します。とはいえSF要素に存在意義がないわけではなく、かけがえのない名脇役のような位置づけにあります。

一方、時代劇要素は渋みと活劇、そして映画界のノスタルジー、反主流派の絆として効果的に活用されています。また、冒頭でも懸念したようにアイドル映画的なものと誤解されない消臭剤の役割も果たしています。

論点③ ラストシーン

ラストシーンにはビックリさせられます。ました。

充分な伏線を踏まえてのことですが、少し長めなこともあってぼくはかなりソワソワしました。単純にネガティブに捉えれば「なぜこのシーン作った……しかも長い」となるのですが、落ち着いてポジティブに見れば、長いからこそ「なぜ」を考える時間が与えられていると言えます。ここ大切。

実際に描かれるシーンとはある意味裏腹に、這い上がることが不可能に思えるほど深くて暗い大穴に転落する感覚。ずっと軽快なストーリーとして描かれてきたとはいえ、主人公の創作の苦悩は決して隠されてはおらず、忘れられたり捨て置かれただけかもしれない。それを思い出す時間。ポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるか、その微妙な角度の違いによって本作の評価は大きくわかれることでしょう。

まとめ

良し悪し評価は別として、本作最大の存在意義はイマドキの時流に乗らないことかと思います。

現代人はショート動画に慣れ切っているからと映画の内容を無理に圧縮して尺を短くしたり、TV放送やネット配信を重視して映画ならではの利点を捨ててテレビ的な作りにしたり、宣伝の都合で不要な登場人物を増やしたり、といった"お約束"が本作にはありません。

また、「いまどきの若者は苦労を嫌うから」と言って主人公が不利な情勢に置かれることを避けたり、強力すぎる援軍などのチート要素を盛り込むこともありません。いまどきの若者論は彼らを見下す一種の差別だとぼくは思いますが、とはいえ作り手だけでなく観衆の側にまで"共有"されてしまっている「イマドキノジョーシキ」を黙って飲み込まないことは"イマドキ"ではなかなか難しいものです。

監督の松本さんや、脚本の三浦さんのお名前はこれまで知らなかったのですが、本作の制作者のみなさんが関わる、他の作品もぜひ観てみようと思います。

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