#140字小説 が難しい(中編)
さて練習を続けます。前回はアメリカン・ジョーク『ブロンドはバカじゃない』を140字にしてみました。
今回は日本の伝統的な物語から『桃太郎』を140字にしてみます。
お婆さんが川で拾った桃から、赤ん坊が生まれた。その子は桃太郎と名付けられ、やがて鬼退治に赴く。道中出会った犬、猿、雉に、お婆さんが持たせてくれた黍団子を与えて手懐け、家来とする。そして鬼たちの本拠地、鬼ヶ島へ。死闘の末に桃太郎たちは勝利し、鬼たちは滅びた。財宝がうまい。
最後がなにかのCMみたいですが、それはさておき。元がシンプルな話なので、それなりに"展開"できています。
戦争に行くのは若者で、正規兵も与えられずに傭兵を雇い、悪い奴と決めつけて教えられた鬼たちを交渉もなく暴力で襲い、平和を口実とするなら無関係なはずの財宝を奪う……短縮することで、優れた好戦プロパガンダだということがわかりますね(?)。短縮しなくても戦時中のプロパガンダに使われたんでしたっけ。
140字に短縮してみて驚いたのは、おじいさんの存在が完全に消えてしまうこと。桃太郎を拾うのがおばあさんなのは、やはり子を産むことのかわりにされているのでしょうか。男女の非対称性も浮き彫りになり、意図せずフェミニズムの文脈で問題提起することになってしまったかもしれません。
もうひとつ、気になったのは鬼の兵力です。
鬼たちが桃太郎や犬猿雉より強いに決まっているものの、ウクライナへ侵攻でダメっぷりを見せたロシア軍の例もあることですから、仮に同じ強さだと考えます。では「桃太郎軍の兵力4がひとりの戦死者も出さずに勝てるのは?」を『ランチェスターの第二法則』で試算してみましょう。
桃4vs鬼3では桃の戦死者は"1.35"となりますが、桃4vs鬼2のとき戦死者は"0.54"と出ました。この結果から、鬼ヶ島にいた推定鬼数は"2"と考えてよいでしょう。
ちなみに桃太郎は主人公補正で超強いと仮定し、戦力を100(桃太郎軍の合計兵力103)とした場合、戦死者が1を下回るのは鬼14(桃死者0.96)のときです。
鬼ヶ島、意外と小さい? なんて、あれこれバカバカしいことを考えていたら長くなってしまいました。
桃太郎のおかげで話を展開させられる実感は得た気がするので、次回は、借りものではない話を140字にしてみたいと思います。
(つづく)