アーティストと認められる前、絵師はかつてイラストレーターだった。 #リスクと版元
今日は、北斎という絵師が「職人ではなく、アーティストとして認められる2つ目の条件」についてお話ししたいと思います。
前回、アーティストとして認められるには3つの自立に関する条件についてお話ししました。
1.作品の表現つまり画題と画法を自身で決められる「自立」
2.生活のための収入が自足していて制作を続けられる「自立」
3.以上の2つの条件を可能にする社会環境がある「自立」
です。
今日は、この2番目「生活のための収入が自足していて制作を続けられる自立」についてのお話です。
アーティストが自立した仕事として認められてようになったのは近代からです。
そもそも近代社会はヨーロッパに始まりました。
フランスの市民革命とイギリスの産業革命により市民社会が産まれ、人々は自身の価値つまり職業選択の権利を国家によって保証されます。
この職業選択の自由が近代資本主義の原動力となりました。
我が国では、江戸の中期に武士階級の役割が少なくなり、町人たち民衆の経済活動が社会を支えます。
革命はありませんでしたが、この頃すでに資本主義への過渡期に入っていました。旧態の支配構造のままでしたが、豊かになった町人らは歌舞伎や旅行などのエンターテイメントを中心に新しい文化を創ります。出版物が宣伝媒体となり、浮世絵は大きな役割はを担いました。
視ることが欲望を喚起させるのは、私の対談本「コレクションと資本主義」で確認してください。
文化のマーケットは量産を促し、資本家の出版元が分業体制を組み、木版の浮世絵を量産しました。版元が人気のあるコンテンツを発注するのですから、リスクはあくまでも版元にあり絵師はただのイラストレーターにすぎません。つまり、職人であり、アーティストではないということです。
人気の絵師は収入が安定すると版元の注文に応じるばかりではなく、自身のリスクで自己表現をするようになります。北斎は多くの浮世絵師に比べ、もっともオリジナルな表現を追究したアーティストです。前回のブログでお話したように、視ることから始めたからこそです。北斎は当時のメインカルチャーであった狩野派や海外の唐絵や西洋画など様々な画を見てそれらの技法を学んでいます。
自由な表現は、生活の自立があればこそでした。西洋開花以前に我が国は資本主義的社会が産まれつつあった、そのことを北斎の表現が示しているのです。アートは資本主義の行方を予言しています。
次は、3番目の条件を見ていくことにしましょう。
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