穂積愛愛

ふとした永遠

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『春』

 穏やかな黄金色の空気がたっぷりと部屋に満ちている。傍らには先程まで読んでいた本が突っ伏されている。 「あ、よだれ」  桜色のカバーの一部が桃色に変わっている。袖でよだれを拭き取ると二つのピンクが曖昧に滲んだ。  時計の針は二時四十分を指している。お昼ご飯を食べて本を読んでいたらいつの間にか寝てしまっていたみたいだ。  なんで昼寝をするとよだれが垂れるんだろうなあ。しっかり寝ようと思って寝るときは垂れないのに、なんて寝起きの頭でぼんやりと思う。  喉が渇いていたので珈琲

    • 『花束を編む | making a bouquet』Laura day romance

      「お花ってね、ひとの悲しみとか、寂しさとか、そういう心の暗がりを吸い取ってくれるから、枯れちゃうんだって」  美鈴はヘッドボードに寄りかかり、カーテンが閉じられた出窓に飾られているピンク色のチューリップをみながら、ゆっくりと呟いた。  陽は彼女の横顔を観ながらその小さな唇から発された言葉の意味と温度を正確に感じ取ろうと、呟きの後の静寂までをしっかりと聴きとり、 「優しいんだね」  と、チューリップに視線を移し答えた。  先月、美鈴のおじいさんが病気で亡くなった。すこし変わ