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戦慄のドイツ映画『カールと共に』

ひさびさに背筋が凍る映画をみたのでご紹介。

ドイツ映画でタイトルは『カールと共に』。

NETFLIXで見ることができる。

一言でいうと、現代の差別主義の恐ろしさを描き出している。

ヨーロッパを取り巻く「差別主義の高まり」と「分断」といった社会問題に関心がある人にオススメ。

ネタバレを含むので、ご注意を。

ストーリー

物語の主人公・マキシは、爆破テロで家族を失った(母親と幼い弟2人)若い女性。

葬儀が終わり、生き残った父親とともに新しい住まいでの暮らしが始まる。

意気消沈して暗い部屋に座り込み、スマホで「イスラム過激派テロ」を調べる。

そして、自分の母と弟たちを奪ったテロはイスラム過激派のせいだと思いはじめる。

後日、爆破現場を訪れたマキシを、マスコミらしき男女が執拗に追いかける。

すると若い男性がマキシに変装用の上着を着せてくれ、そのまま恋人のふりをして逃げることに成功。

その男性の名前は「カール」で、一緒に喫茶店で時間を過ごし、マキシは彼に好印象を持つ。

事情を知ったカールは「現実逃避になる」と、プラハで行われるとあるイベントにマキシを招待。

カールはそのイベントで基調講演をする予定。

そのイベントの紹介動画では「RE/GENERATION EUROPE」運動をかかげ、「新しいヨーロッパ」を若者たちが力強くうたっていた。

マキシはイベントに参加し、カールのステージを見守る。

カールはまずは「追悼しよう」と皆に呼びかけ、テロ犠牲者を悔やむ。

そして政府の責任を追及し、「欧州を蘇らせよう! 知識の革命を! 我々が未来だ!」と主張。

聴衆の若者たちはヒートアップし、団結を深めた。

その光景にマキシは圧倒されつつも高揚感を覚え、彼らの活動についていくことに。

しかし、このカールの活動団体にはマキシも知らない裏の顔が。

実は、難民や移民はヨーロッパの脅威と考えており、人種混合を終わらせて「正しい」ヨーロッパの姿を取り戻すために活動していた。

自分の野望のためならばいかなる手段も選ばない団体で、マキシの家族の命を奪った爆弾テロの実行犯もカール自身であり、イスラム過激派の犯行に思わせるべく仕組んだもの。

そして、カールはマキシを尾行し、接触の機会を伺っており、出会い自体も偶然ではなかった。

最終的には、テロの被害者であるマキシをステージに上げ、活動団体の「広告塔」として利用しはじめる。

物語の最後には、カール自身が組織の別の仲間に撃たれ、命を奪われることで、それをイスラム過激派の犯行のように演出。

自作自演だが、気づく人はいない。

若きリーダーの死をきっかけに、ヨーロッパ各地で移民や難民排斥の暴動が発生する。

モデルとなったアイデンティタリアン運動

カールたちの活動にはモデルになったものが存在し、それは「アイデンティタリアン運動」。

極右および白人ナショナリスト系の運動であり、とくにヨーロッパでの活動が活発だ。

『カールと共に』にて描かれるカールの組織は、表向きはとても健全に見える。

彼らは「優秀な知識階級の白人」という特権を使いこなし、インターネットを駆使した広報も得意としている。

一般の人からみると、未来志向であり、一見「知的な活動」のようだ。

しかし、そのイメージこそが彼らの狙いで、差別主義を隠すためのカモフラージュにすぎず、本質はかつてのナチスと変わらない。

現代の「賢い」差別主義者というのは、巧妙に存在しているのだと驚かされる。

差別主義者の姿

爆弾テロで家族を失った主人公が、その爆弾テロを実行した組織に、知らず知らずのうちに惹かれていってしまうという部分に戦慄。

人生をズタズタにされた主人公だからこそ、なにかにすがりたかったのだろう。

主人公の心のキズにつけ込むように、彼女を広告塔として取り込んでいく活動団体やカールの手口に恐ろしさ感じた。

本作をみれば、現在の「差別主義者の姿」がどんなものか、一つの側面がわかる。

そして、ぼくたちの中にある「自分は差別主義者になるわけがない」という安心感について、ゼロベースで考えざるを得なくなる。

それほど外面がよい「差別主義」は現代に潜む身近な存在であり、一歩まちがえれば、だれもが簡単に差別主義者になりうる。

ルックスの良さや、爆発的な拡散力に騙されないことが重要といえる。

「アイデンティタリアン運動」についてもっと詳しく知りたいと思い、つぎは『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』を読んでみようと思う。

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