2023年ベスト本特集(物語9選): 感情をかき乱す書物オデッセイ
すぐれた物語との出会いは、感情の波乱を呼ぶもの。
ページをめくるたびに、心のなかで感情が交錯し、思わず深呼吸してしまう瞬間があります。
登場人物たちのよろこびや苦悩、葛藤に共感。
それらを自分の人生に照らしあわせる瞬間は、まるで鏡を見ているかのよう。
そんなすぐれた物語に、今年も出会うことができました。
本日は、2023年に読んだ本のなかで、「小説、エッセイ、絵本」のジャンルの「ベスト本Top3」をご紹介します。
小説
1. 『人間失格』
日本文学の名著。
時間を忘れるほどおもしろく、中学や高校時代に読まなかったことを悔やむほど。
太宰治の流麗な文章と、主人公の内省的な語りが強烈。
これらが忘れがたい読書体験を生みだしています。
物語は主人公の一人称ですすみ、彼のうちなる葛藤や、社会との断絶が描かれます。
文体は優雅でありながらも、ある種の「不気味さ」をふくみ、主人公がアイデンティティを探求するようすをうまく表現。
作品の中心的なテーマは、人が「本来の自己」と「社会の期待にあわせるための仮面」との緊張関係であり、絶望や孤立がふかく掘りさげられています。
本書は日本社会への厳しい批判もふくみ、アイデンティティの複雑さにむきあわせる深遠な小説。
2. 『カラマーゾフの兄弟』
魂の探求と、哲学的な問いかけがからみあった、心に残る作品。
そして、善悪のたたかいや道徳、信仰について語られています。
物語はカラマーゾフ一家の波瀾万丈な生活を核にすすみます。
作者のドストエフスキーは、複雑で異なるキャラクターをつうじて、人の内面を探求。
とくに次男イワンの「大審問官」の章は、「人間の自由」と「宗教の理想」についてふかい考察を提供し、読者に自己の信念や疑念にむきあうよう促しています。
大学生のときに挫折したカラマーゾフでしたが、光文社古典新訳文庫版でついに読了することができました。
3. 『死のドレスを花婿に』
衝撃的な展開にうならされる一冊。
驚きと興奮が交錯するフランス発のサスペンス。
引き込まれるストーリーテリングで、心理的なスリルを求める読者や、深層心理に興味がある人にぴったり。
とくに逃亡者の緊迫感あふれる物語は、読者に強烈な印象を残します。
物語はたんなるスリラーにとどまらず、人間の「心の闇」と向き合っています。
人間の心理を深く描いた作品で、予測不能な展開に引きこまれるはず。
エッセイ
1. 『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』
タイトルどおりのとんでもない本(いい意味で)。
「そうそう!こういうのが読みたかったたんだよ!」と琴線にふれまくりの一冊です。
映画「Police, Adjective」をきっかけにルーマニア語に魅了され著者。
独学でルーマニア語を学び、Facebookを活用して言語を習得。
ここまでで十分すごいのですが、そこからさらに、ルーマニア文芸界に足跡を刻む姿が描かれています。
著者の熱意がつたわる疾走感のある文章で、さいごまで一気に読まされました。
成長物語としてだけではなく、語学習得本としても読める本です。
2. 『あやうく一生懸命生きるところだった』
韓国発のベストセラーエッセイ。
「一生懸命生きない」ことを選んだ著者が、自身の価値観にもとづいた人生を模索する物語。
著者は40歳で会社を辞め、自分らしく生きる道をえらびました。
死ぬ運命ならば、苦しむより楽しく生きるべきだとの哲学を説いています。
「やる気がなくても仕事はできる」という読者をはげましてくれ、いい意味で「あきらめの境地」にいたること間違いなし。
自己肯定感がひくい人や、人生の意味を模索する読者にオススメです。
3. 『いつか別れる。でもそれは今日ではない』
身のまわりのことへの解析度をあげてくれる本。
男性の視点からの率直な意見がもりだくさん。
失恋経験者や、現在恋愛中の読者にピッタリです。
筆致は詩的かつ現実的であり、多岐にわたるテーマが取りあげられています。
とくに「女子力を死語にしましょう」や、「都合の良い女と悪い女の違い」が秀逸でした。
さらに本書は自己啓発書としてもつかえます。
たとえば、きらいな人と縁をきる重要性や、人間関係の失敗回避法、読書の体系的なアプローチが示唆されています。
社会へのふかい洞察を提供し、よんだあとは、周囲を新しい視点で理解できます。
絵本
1. 『きみがしらないひみつの三人』
人生と体について、いろいろと考えさせられる絵本。
物語は、赤ちゃんが生まれたところからはじまります。
すると、「頭博士、ハートおばさん、胃袋おじさん」という三人が、赤ちゃんの体内ではたらきはじめるという展開。
この三人の関係は、体調や病気にも影響をあたえます。
日常のありふれた幸せを描いており、さいごには、「人生が終わったあとに残るもの」についても考えさせられます。
深いメッセージをシンプルな言葉で伝えている作品です。
2. 『ごろごろにゃーん』
個人的には最強のナンセンス本。
さすがは長新太さん。
ユーモラスでシニカルなストーリーで、猫たちが飛行機でさまざまな冒険を繰りひろげるストーリーです。
猫たちの表情がツボで、魚をくわえる嬉しそうな顔や、ニタ~と笑う様子がたまりません。
何度も読むと、遊び心が隠された細かいディテールを見つけることができ、ほっこりとした癒しを感じます。
大人でもたのしめる不思議な魅力をもつ絵本。
3. 『おばけパーティ』
シンプルな絵柄がすてきな絵本。
巧みなストーリーテリングと優しいオバケの絵が魅力的です。
白いオバケのアンリが友達を招待し、飲んだカクテルや食べた料理でオバケたちの色や形が変化する楽しい展開があります。
最後にはみんな透明になり、結末にユーモアもあります。
この絵本は子供でも理解しやすく、シンプルで飽きない内容です。
おわりに
本との出会いがもたらす未知の冒険は、たまらなく楽しいもの。
今年もまた、書店のとびらをくぐり、良い本との出会いに恵まれました。
よい物語は心をうついっぽうで、登場人物たちの人間味あふれる姿にふれ、自分の心を見つめなおす瞬間になります。
来年のあらたな出会いが楽しみです。
先日は、2023年の「実用書」のベスト本も紹介しましたので、ご参考までに。