天才は、本当にいた!『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』レビュー
話題の本は、みんなが読んでいるため、基本的には避けています。
そして、その熱が冷めたころに、ふと手に取ってみる本も。
今回紹介する『オードリー・タン』も、そんな一冊。
コロナ期に話題になった本です。
台湾のデジタル担当政務委員であるオードリー・タン氏の半生と、デジタルやテクノロジーの未来についての考察が語られています。
今回は、本書からの3つの学びをまとめます。
建設的に考えよう
オードリー・タン氏が好きな言葉は、カナダのシンガーソングライターで詩人でもある、レナード・コーエン「Anthem」の一節。
何か怒りや焦りを感じているのなら、それを建設的なエネルギーに変えることが重要。
「こんなことが二度と起こらないために、私は社会に対して何ができるだろうか?」と自分に問うことで、前向きな新しい未来づくりがはじまります。
完璧ではないこの世界で、欠陥や問題点を見つけ、それに対して真摯に取り組むことこそが、人類が存在している理由であると語られています。
なんというか、自分という枠をこえて、おおきくモノが考えられる人なんだなぁと、本の節々から感じました。
自分の興味・好奇心にしたがって突き進んでいくと、直面する課題。
そんな課題にたいしてポジティブにとらえ、それをなんとか解決することで、より多くの人の役にたつようにしている、というストーリーが、幼少期からてんこ盛りで驚かされます。
ウィトゲンシュタインと柄谷行人
著者が影響を受けたのが、ウィトゲンシュタインと柄谷行人さん。
著者がウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を読んだのは、なんと中学生のころ!
天才って本当にいるんだなと驚かされました。
ウィトゲンシュタインから学んだのは、絵を描くように、世界の真実の状態を表していくような「言葉の使い方」と語ります。
また、『論理哲学論考』には推論の基本が書かれてあります。
そして、推論の基本的な原理は、「真理表」と呼ばれる表を何枚も描く必要があります。
これを手で描くのは面倒だったため、著者はすべてコンピューターに作業させることに。
そこから、コンピューターが、数学者の証明を手助けできることに気づき、AI推論にハマっていくことになったそうです。
また、柄谷行人さんからの強い影響も語られています。
とくに影響を受けたのが『トランスクリティーク』と『世界史の構造』。
著者がしようとしているものは、柄谷行人さんが提唱する「交換モデルX」を、デジタル力で実現させること。
「交換モデルX」とは、簡単にいうと、「見知らない人」に対して「見返りを求めず」に助けることを指します。
社会の在り方
日本に対して、「政治の新しい方向性を導き出すのは、若者たちである」ということが、一般的な考えになっていないと語る著者。
そして若者の側も、「公益の実現に対して積極的に行動する」という意識が足りないと、耳の痛い指摘がなされています。
また本書では、以下のような台湾の新型コロナウイルス対策の詳細が語られています。
・ウイルスの正体が明らかになる前から、中央感染症指揮センターを設立
・スマートフォンを活用した感染経路の追跡
・警告メールの送信
・民間企業によるマスク増産
これらにより、ロックダウンや休校、飲食店の強制休業を回避。
日常生活を維持しながら感染拡大を抑えることに成功し、GDPのプラス成長を実現しました。
ここで重要なのが、「デジタル技術」を活用するということ。
そして、「政府はデジタルで社会の方向性を変えようとしているのではない。」と語っているのが印象的。
あくまでも政府は、国民と同じ方向をむきつつ、たとえば「手を洗いましょう」というメッセージをデジタルにを使い、より広く、早く伝えようとしているだけ、と言います。
そのためのデジタル技術は、「誰もが使うことができる」ということが重要。
誰もが使えるゆえに、社会のイノベーションにつながります。
まとめ
本書は、オードリー・タン氏に対して、20時間以上にわたるインタビューをもとに作られた本。
オードリーさんん語り口の柔らかさから、優しい人柄が伝わってくる興味深い一冊。
テクノロジーが世の中をどのように変えるか、またテクノロジーに対してどのように向き合って活用していけばいいのかの考えをまとめています。
なんだろう、この読後感。
著者の、抱いた興味・問題意識、それらを形にするスピード感・行動力に圧倒されます。
お金のためとか、そういった俗っぽい考えはいったん捨て、「自分に素直になる」ことや、「社会のためにできることは何か?」を考えるといった著者の思考・行動をつうじて、より大きな視点を手に入れられる気がします。