1か月、飴だけ食す
私の楽し麗し流動食生活が、唐突に停止となった。
蜜月を築いていた愛しのバナナシェイクや野菜のポタージュたち。
彼らに含まれる豊富な食物繊維は、ミキサーや漉し器を持ってしても今の私の小腸にとって負担になっていったのか。
食物繊維に罪はなく、小腸氏が二筋縄三筋縄ではいかなくなったのか。
先月重めのイレウス再燃
→しばらく口から栄養摂るのは無理だね
→中心静脈栄養のポート設置手術
というなかなかの事態になり、長引く入院生活。
お見舞い客が運んできた雨の匂いは、いつの間にか30度超えの熱気にとって変わってしまった。
今年はあじさいもろくに見れず、クチナシのにおいをクンクンすることもできなかった。
今は鎖骨の下あたりにうめこまれたポートに高濃度の輸液を流し込んで絶食生活を維持している。そしてこの管とともに退院して、自宅で点滴を管理していく。
病気持ちになって初めて思い知った「人生で自分が背負う荷物は自分では選べない」。
(以前は漠然と「選べる」と思っていたかもしれない。傲慢だった)
今回また、予定外のお荷物いただきました。
と、ちょっと前置きが長くなったけれど、今日のテーマは
日本の飴はすごい!
この入院絶食生活の中、主治医の「飴なら食べてもいいよ」という言葉を聞いたとき、人生で初めて「飴」の一文字が、ものすごい輝きを放って私に迫ってきた。
非甘党の私は甘いものを買うことはほとんどないが、お腹にもたまらず口の中を甘くするだけの飴なんてなおさら自分で買ったことがない。申し訳ないけれど、飴の存在意義も分からなかった。
が、
飴ちゃんカモーン!!私の飢えた口にいろんな味を運んでちょうだい!
ということで始まった私の飴生活。
院内のコンビニでは、この2つがお気に入り。
沖縄黒飴は深みとコクのある癒しの甘さで、しかも大粒。おやつを食べたかのような満足感。看護師さんにも人気高し。
カフェインレスコーヒーと一緒に頂けば、管だらけの私でも優雅なカフェタイム。
果実のど飴はすごいのね。みんなそんなことはとっくに知ってるんだろうけど、こんなにしっかり果物の味がちゃんとするのね。特に桃、美味しい。
イレウス管がのどを通っているとなぜかとてもフルーツ欲が高まるので、救世主。カンロ様、ありがとう。
私が飴なら食べられると各方面にアピールしたところ、差し入れで素敵な飴ちゃんたちが続々と集合してくれた。
いろいろ味わってみて、ほんとにびっくり。
この小さな一粒の中に込められた味の繊細な再現力。
どれだけの創意工夫と企業努力がこめられているのか。
「私の知らない飴の世界」がこんなふうに存在していたとは。
しばらくは困らないくらいの在庫を抱えたので、アピールは一旦停止。
そして飴ちゃん選手権をやってみる。
選出方法。
①飴のビジュアルは選考基準外。とにかく味。私の飢えた舌に美味しい味を届けてくれること。
②油脂類が含まれていないこと。
③よく分からない添加物がなく、シンプルな原材料だとなお嬉しい。
第1回予選を勝ち抜いた選手たち。
上段左 万象堂 ノンシュガー珈琲あめ
コーヒー味が優しくてほんのり甘くてブレイクタイム感を味わえる
上段中 万象堂 ノンシュガー生姜あめ
生姜のヒリヒリそのまんま。刺激に飢えた私の舌、瞬で活性!
豚肉味の飴とか冷や奴味の飴とかが存在するなら一緒に口に放り込みたい。
上段右 竹製菓 沖縄の黒糖飴
まるで上質なかりんとうのような味で、コンビニ御用達の沖縄黒飴よりも優しい甘さ。おいしくてこれだけ早々に完食してしまい、また手に入れたいところ。
中段左 宮川製菓 塩すいか
ちっちゃいのにこれほんとにすいか。少し塩を振ったすいか。私に夏の味をありがとう!
中段中 紀ノ國屋 ブルーベリー飴
なめたとたん溢れ出すブルーベリーの果汁感がすごい!1袋に7粒しか入ってないから、ものすごく大事に食べてる。
中段右 宮川製菓 塩とまと
旨味と甘みのある当たりのトマトを食べた時のおいしさ。酸味もぜんぜんわざとらしくない。塩すいか同様、ちっちゃくて可愛いビジュアル以上の実力者よな。
母に1粒あげたら、ふだん飴を口にしない母も絶賛。すぐにカルディに買いにいき、私にくれず自宅用に確保したらしい笑。
親友よ、良いものありがとう!
下段左 松屋製菓 生 沖縄黒飴
カフェタイムのごきげんな相棒。ちなみにカンロ「果実のど飴」は、私の日常サポーターなので、選手エントリーしなかった。
下段中 神戸酒心館 酒の飴
福寿という日本酒の蔵元の飴。できればノーベル賞晩餐会で出されたという福寿を飲んでみたいけれど、よくぞ飴を作ってくれました(ひれ伏しながら感謝)。甘みが強いので日本酒というより甘酒のような感じだけれど、とても満足。
下段右 タケサン 小豆島名物しょうゆあめ
日本人の心の味「あまじょっぱい」が詰まった飴。絶食中にこの味覚体験ができるなんてありがたや。で、この味何かを思い出す…と思ったら、「おばあちゃんのぽたぽた焼き」だった。
シンプルな原材料で勝負している選手たちに注目コーナー。
今のところ、全然飽きなくてどんな体調のときもおいしい「塩とまと」が一歩リードしていて、ブルーベリー、黒糖、珈琲、酒が追っている。
この4者に順番はつけられない。。。
私の絶食生活を支える可愛いうえに有能な子たち。
しばらくお世話になるのでよろしくお願いします。
と、病室でひとり日本の飴に深いリスペクトの念を送っていたら、パリ住みの妹から素敵な贈り物が。
とても飴ちゃんなどと馴れ馴れしく呼べる雰囲気じゃないので、マダムボンボンとでもお呼びしようか。
今日は母や娘2人がお見舞いに来てくれるので、ラウンジで女4人で試食会してみましょうかね。
妹の手紙によると、ローズ味は1840年にBoissierが売り出して大人気商品になり、缶で持ち歩くのが大流行したらしい。200年近くたっても、このシンプルな飴の改良を続けているとのこと。古きものが本当にしっかり守られているフランス。
さて、お味はというと。
まずはフルーツ系。想像以上に上品で繊細。
フルーツの味というよりは、フルーツの妖精が砂糖菓子に魔法をかけて香りを閉じ込めたような、そんな感じ。
私はライムが一番好み。
ローズも、薔薇感満載ではなく、バラの精のため息をそのまま飴にしたような。(うまいこと言ってるので、ボアシエさんにそのまま使ってもらいたい)
さすが貴族のおやつ。
この味はきっと、お食事やデザートをいただいた後、満たされた気持ちの中、紅茶かなんかのお供にするのが最適。
上品なさわやかさが、胃袋も上品にリセットしてくれそう。
私のようなたくさんの管と点滴ぶらさげた飢餓状態の者には、妖精の詩的な味はぞんぶんに読み取れない。
ローズなんていただいちゃったら、「管だらけのマリーアントワネット」に束の間なれるかしら、なんて思ったけれどいやいやいやもったいない。
今の状態を脱して、少しお腹が満たされる日がきたら、美味しい紅茶を淹れて楽しむのだ。それまで美しい入れ物の中で待っていてもらおう(見ているだけで気分が上がる)。
以上飴についてのレポート、病床からお送りしました。
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