084_『私は幽霊を見ない』 / 藤野可織
怖い話が、怖い。
何故怖いのか。それは想像力。
想像してしまう自分の想像力こそが一番怖いことを知っている。
だから、怖い話は聞きたくないし、ましてや幽霊を見るとか見ないとか、見えるとか見えないとか、できればそういったところから縁遠く生きていきたいと思って生きている。進行形で。
そういった類の人はきっと世の中にはたくさんいて、一方で、幽霊の話を聞き集める人もいる訳で。
藤野可織の『私は幽霊を見ない』という一冊。
色々な人の怪談話にまつわる実体験を聞き集め、有名な心霊スポットを訪問し、幽霊が出ることでお馴染みのホテルに泊まる。幽霊と出会うため、あらゆる接点を模索し、そこに張り付こうとし、結局は見られない著者。
目が悪いらしい。もしかしたら、原因はそれかもしれない。それもまた想像力。
あるいは、積極的に関わりを持とうとする人には、想像の力は及ばないのかもしれない。行動が思想に先行する。実体の無い幽霊には不利だから。
それにしても、自分は本当に怖い話が苦手なので、本書についても、熟読するというよりはスキップするかのように読んでしまった。想像力を掻き立てられる一歩手前で踏みとどまるかのような読書。これは新しいスタイル。
ただ、著者のその立ち位置というか、見えないものが見えないことを知りつつ、それを見ようとする姿勢を偽らないことというか、やはり作家としての矜持を感じる。
そして、これも偶然なのか、この藤野可織も、アイオワでの作家滞在プログラムに参加した作家だった。これで、このプログラムに参加した作家を読むのは、滝口悠生・柴崎友香に引き続き3人目。
偶然とはわかっていても、見えない吸引力を感じてしまう。見えない何か。そう、あるいは、幽霊のような。
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