101_『ミッテランの帽子』 / アントワーヌ・ローラン
Antoineはフランス語では "アントワーヌ" と読むと、冷静になって考えれば分かるはずなのに、すっかり女性だと思っていたアントワーヌ・ローラン。
フランスの大統領と言うと、日本のメディアでは相撲の愛好家として知られたシラクの顔が先行するイメージがあるけれど、文人としての才能も知られ、ルーブル美術館のピラミッド設置を含む「パリ大改造計画」を指揮したミッテランの存在の大きさは、推し量って知るべし。
そのミッテランが大統領に就任していた1980年代。とある日の夜、ミッテランがブラッスリーに忘れてしまった帽子が、それを手に取った人の人生に幸運をもたらすという話。
これぞフランスのエスプリ、を宿す小説。
1980年という時代の、今とは違った激動の中で生きる人々。政治や、文学、ブラッスリーでサーブされるワイン、そしてタバコの銘柄まで、フランス色に染まった世界に思わずにんまりとしてしまう。
代わる代わるにに帽子を手に取ることになる人の、それぞれの立ち振る舞いも面白く、そして最後に登場するミッテランの存在感。そこに立ち上がってくる情景が実体を持つようで、とても面白い。
少しの偶然は小説においては常套でも、その一つ一つが連鎖してしまうと途端にフィクショナルに感じられてしまうものだけれど、1980年代の時代の熱量のようなものが肌に訴えかけてくるというか、いつの間にか物語にすっかり取り込まれてしまう。
フランス文学と言えば、サルトルやバルザック、ジッドやサガン、カミュやプルーストと、思わず圧を感じてしまうけれど、現代のフランス文学もそれらに通底する軽快さのようなものがあって、とても楽しい読書体験でした。
ミッテランの帽子
著者:アントワーヌ・ローラン
出版社:新潮社
ページ数:182P