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大学ブランディングの新たな挑戦!?びわこ成蹊スポーツ大学の”香り”を使ったアプローチのポテンシャルを考える

大学の広報活動に答えなんてものはないのですが、なかでも難しいのはブランディングではないでしょうか。入試広報なら、伝えるべき相手も内容もそれなりに見えています。研究広報は、対象にどうリーチさせるかの難易度は高いものの、伝えたい内容はそれなりにハッキリしています。でも、ことブランディングになると、何を価値とするか、それを誰に伝えるかが、非常に曖昧で、また多様なんですね。

全部がブランディングだと言えばブランディングである一方、これぞ王道!みたいな手法は存在しません。今回、見つけた取り組みも、そんなブランディングの多様さと奥深さを感じさせてくれるものでした。こういう手法もまたブランディングなんです。

新たな視点、”香り”によるブランディング

紹介するのは、びわこ成蹊スポーツ大学の”香り”によるブランディング。株式会社コードミーとオリジナルフレグランスを開発して取り組むようです。

ちなみにオリジナルフレグランスは、同大学の学生や教職員にアンケート調査を行うなどして、関連するテキストデータを収集。それをもとにコードミー社の独自AIで分析を行い、キーワードやイメージカラー、イメージ画像を生成し、これらをもとにフレグランスを複数調香し、学内関係者の投票によって決めたようです。

大学のブランディングは学内のコンセンサスと納得感がないと、すぐに霧散してしまいます。とくに今回の取り組みは“香り”なので、個々人の感性に左右されるところが大きく、何をもってびわこ成蹊スポーツ大学の香りとするのかが難しそうです。学生だけでなく教職員も巻き込んで丁寧にプロセスを踏んだのは、フレグランス開発のためだけでなく、ブランディングを行うための地盤づくりという側面もあったのかなと感じました。

ブランディングに”香り”は有効か?

では、”香り”によるブランディングというのは、はたして本当に有効なのでしょうか。プレスリリースには、その有効性を示す3つのポイントが書かれていました。

●香りによるブランディングのポイント
1. 記憶への定着
 嗅覚は他の五感と比べて、記憶との結びつきが強いことが科学的に証明されている。大学独自の香りを導入することで、在学生や保護者、関係者にとって、びわこ成蹊スポーツ大学を記憶しやすくすることができる。
2. 情緒への訴求
 香りには、感情を揺さぶる力がある。びわこ成蹊スポーツ大学のイメージに合った香りを導入することで、在学生や保護者に活気、爽快感、安心感などのポジティブな感情を喚起し、大学への愛着や帰属意識を高めることができる。
3. 差別化
 近年、大学間の競争が激化している。香りによるブランディングは、他の大学との差別化を図る有効な手段となる。他大学にはないユニークな香りを導入することで、在学生や保護者の記憶に残り、びわこ成蹊スポーツ大学への興味関心を高めることができる。

びわこ成蹊スポーツ大学プレスリリースより

どうでしょう?書いていることは、まあわかります。でも、これらポイントがあったとしても、大学のブランディングに香りは不向きなように感じました。というのも、どこかでこのフレグランスを嗅いで、いい匂いだなあと思うだけでは、大学のブランディングには一ミリも寄与しないからです。

”香り”によるブランディングを成立させる大前提として、香りと大学が結びついていることが必要です。でもこれって、けっこうハードルが高いと思うんですね。

メッセージやビジュアル、ムービーであれば、メディアを使って広く届けられますが、香りはそうはいきません。また、何かしらの機会があって嗅いだとしても、保存しておくことができないので、別のシーンで嗅いだとき、その香りがこの香りだと確信が持てないということも出てきます。

音や映像のように、遠方に匂いや味を届ける研究も行われているので、いつかは香りを手軽に社会に届けられるようになるかも知れません。でも現段階だと、香りを使って大学のイメージを社会に届けるのは、その他の一般的な手法より手間とコストがかかりそうです。

インナーにこそ生きる”香り”の特性

現代のテクノロジーでは、ブランディングに香りを使うのは非効率的かもしれない。でもこれはあくまで、広く届ける、という観点に立った場合です。深く、身近な人たちに、つまりはインナーブランディングで使うなら評価は変わってきそうです。

インナーブランディングを大雑把に言うなら、自分たちの価値やめざす方向性を関係者で理解し共感しあうことで、より強い組織をつくる、といった活動です。これと香りの相性はすごくいいと思うんです。

まず学内にいる関係者であれば、この香りが大学の香りだと伝えやすいし、そもそもキャンパスでこの香りを頻繁に嗅いでいたら、説明を聞かずともつながります。また、今回のびわこ成蹊スポーツ大学の場合、多くの関係者が開発に関わっていたわけで、“大学の香り”であるとともに“私たちの香り”なわけです。香りに対する愛着もひとしおなのではないでしょうか。

ブランディングでは弱点だった、広く届けにくいというのも、インナーにとっては必ずしもマイナスにはなりません。自分たちだけわかるというのは、ある種の仲間意識を刺激するからです。学園祭などで学生たちが同じ柄のオリジナルTシャツを着て盛り上がることがあります。大学オリジナルのフレグランスも、これと同じようなことを、もっと気軽に、もっとさり気なく、しかも教職員でも恥ずかしがることなくやることができる。そういった結束を確かめ、盛り上がるためのツールとして、フレグランスは最適だと感じました。

さらに、先ほど引用した「香りによるブランディングのポイント」の「1. 記憶への定着」と「2. 情緒への訴求」の内容は、社会に向けたブランディングよりも、インナーブランディングにこそ役立つポイントなのではないでしょうか。

キービジュアルも、タグラインも、コンセプトムービーも、開発したらそれで終わりではなく、これらをどう使うかこそが、ブランディングの真骨頂です。今回のびわこ成蹊スポーツ大学の”香り”によるブランディングも、フレグランスの開発がスタートラインで、ここからが本番なのだと思います。

“香り”という特性がもっとも効果的に発揮されるのは、誰なのか、また“香り”を通じて何を伝え、どうなってもらったら成功なのか。起点が通り一遍のものでない分、考えるのが面白そうです。どのように発展していくのか、とても楽しみです。

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