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伸びしろいっぱい、でも難易度激高!北海道科学大学の「ほくかだい辞典」から考える、子供向けメディアの育て方

研究成果をはじめ、ひとことで伝えられないことばかりの大学にとって、記事等のコンテンツで丁寧にユーザーに情報を伝えるオウンドメディアは、とても相性がいい情報発信方法です。こういったメディアの開発&運営は、以前から増加傾向ではあったのですが、コロナ禍でさらに加速したように思います。今回、見つけた北海道科学大学のプレスリリースも、そんなオウンドメディアを新たにはじめたというもの。よくある話かと思いきや、けっこう特徴があるんです。今回はこのオウンドメディアを取り上げたいと思います。

大学による子供をターゲットにしたオウンドメディア

今回、取り上げるオウンドメディアの名前は「ほくかだい辞典」。カラフルな色合いのデザインで、どことなくおもちゃ箱やNHK教育番組といった印象を感じさせます。プレスリリースに、対象は「小中高校生、科学に興味のある一般の方」だと書かれていますが、ひらがなを象徴的に使ったサイト名やデザインのテイストを見ていると、おそらくこれら対象のなかでも、小学生、中学生あたりを重視しているのかなと感じました。

カラフルな色合いが印象的な「ほくかだい辞典」のトップページ

サイトには、身近なテーマについてその分野に精通する教員たちが監修した記事が掲載されており、どの記事も基礎の基礎からわかりやすく書かれていました。文体もやさしく話しかけるようなものになっており、すごくとっつきやすかったです。また、記事の終わりに監修した教員の所属する学科と、全記事ではないものの出前授業紹介ページへの誘導がついています。関連学科の紹介はそこまでめずらしくないものの、出前授業を案内するというのは、だいぶとユニークです。とはいえ、出前授業のオファーを出すのは小中高校の教員であって小中高生ではありません。ここらへんにターゲットのねじれがあるようにも思えたので、少し気になるところではありました。

子供をターゲットにすることで生まれるメリットの数々

大学のオウンドメディアのなかには、社会全般に広く大学の価値を伝えることを目的に運営しているものが多くあります。今回の「ほくかだい辞典」も広い意味ではこういったタイプのオウンドメディアだと思うのですが、従来型のものと比べたとき、だいぶとポテンシャルがあるように感じました。

まず、大学が社会全般に記事(=読み物)を伝えるとなると、大学の学術・研究知にかかわるものというのが鉄板になります。大学の日々の動きであれば公式HPのお知らせのほうが適しているし、教育にかかわる情報であれば、受験生やその保護者でもなければ興味を持ってくれない。大学と縁もゆかりもない人が興味をもってくれ、なおかつ大学が定期的に記事化して発信できるものとして、教員の専門性や研究活動を源泉にした記事というのは、まあ当然の帰結なのでしょう。

それで、こういった学術・研究の情報を、社会人が満足できるレベルでまとめるとなると、やっぱりそれなりに労力がかかるわけです。でも、小中高生を対象に基礎的な内容をまとめるのであれば、わかりやすくする工夫は必要ですが、比較的制作に費やすカロリーは抑えられるはずです。

もうひとつ魅力を感じたのは、社会に大学の価値を伝え、それが大学の成長に寄与するというのは、ものすごくロングスパンな取り組みになります。でも、小中高生がメインターゲットであれば、大学の価値を社会に伝えつつ、数年後に受験生になる子供たちに大学の存在を印象づけることができる。つまり、長期的なブランディング活動と、中期的な入試広報を兼ねることができるわけです。

これらに加えて、他大学との差別化がしやすいというのも利点なように思います。社会全般をターゲットにした大学のメディアって、実はかなりたくさんあるんですよね。そういったなか、他大学とターゲットを明確に変えることによって、存在感を際立たせることができます。

とにかく育てるのが難しい、ハードモードなメディア

大学のオウンドメディアのターゲットを、小中高生にするのは良いことづくめのように書きましたが、実は大きな問題があります。それは、小中高生、とくに小学生・中学生にメディアの存在を伝え、ファンを増やすのって、すっごく難しいんです。

受験生向けであれば、受験生は能動的に大学の情報を取得しようと動くので、そこまでコストをかけずともメディアや記事を見つけてくれます。社会向けであれば、時事性の高い話題と研究者の専門分野をかけ合わせることで、ある程度検索してもらいやすい記事を予想してつくることができます。さらに、卒業生をはじめ、大学関係者のほとんどが社会人なので、一定数リーチしやすいターゲット層となる人たちがいて、そこからじわじわと認知を広げていくことが可能です。

しかし、小学生・中学生の場合、どうしても基礎的なテーマを扱わざる得ないため、話題性や検索を意識した記事づくりがしにくい。さらにリーチしやすい小学生・中学生を確保するというのは、附属校でも持っていない限り至難の業です。加えて記事が届いたとしても、大学がつくるコンテンツなので、やはり勉強のイメージが強いし、内容も広い意味では“学び“になる。そうなると、たとえ内容が面白くても、自分から率先して読もうとしない小学生・中学生が相当数いるだろうと予想できます。そして、これだけハードルが多いなか、なんとかファンになってくれたとしても、彼ら彼女らは数年で成長してしまい、ターゲット層から外れてしまうんですね…。

うーん…切ない…。文字にしてみると、大学の子供向けメディアを成長させることが、いかにハードモードなのかがよくわかります。

子供向けメディアの真のターゲットは子供じゃない!?

メリットはあるものの、やたらと育てにくい大学の子供向けメディア。これをどのように運営し、成長させるのが正解なのでしょうか。答えはわからないのですが、最後にヒントになりそうなサイトがあるので、こちらを紹介して今回は締めくくりたいと思います。紹介したいサイトは、お茶の水女子大学の「理科自由研究データベース」です。

そもそもオウンドメディアではないんですが、ここには夏休みの自由研究で発表された内容がデータベース化されており、自由に検索することができます。このサイトの素敵なところはいろいろとあるのですが、とくにイケているのは、自由研究にテーマを絞っているところと、子供だけでなく教員もターゲットにしているところです。

理科自由研究データベース」のトップページには、「小学生(しょうがくせい)のみなさんへ」と「中学生、高校生、教員、一般のみなさんへ」と書かれた2つの検索入口がある

自由研究をテーマにすることで、どんなときにどのように使うのかが明確になり、ターゲットに教員が入っていることで、教員がこのサイトの存在を知り、子供たちに自由研究の参考サイトとして紹介する、という導線が生まれます。これが素晴らしい。身も蓋もない話ですが、子供たちに利用してもらいたいなら、教員(や保護者)に、子供にとって有用なサイトだと認知してもらい案内してもらうのが、一番手っ取り早いと思うんです。これであれば、子供たちは能動的にサイトを探す必要もないし、本人に強い思いがなくてもとりあえずサイトを見ます。さらにいうと、子供はすぐに成長してサイトから離れていきますが、教員は長期にわたって利用してくれるうえ、毎年サイトを子供たちに紹介してくれる可能性だってあるわけです。

どうでしょう?先の章で挙げた課題のほとんどを、これであればクリアできるのではないでしょうか。今回、冒頭で取り上げた「ほくかだい辞典」も、「辞典」と銘打っているので利用シーンをある程度想定しているのかなと感じました。この利用シーンを、子供たちだけでなく、教員(や保護者)も具体的にイメージでき、なおかつ有用だと判断してもらえるような伝え方やプロモーションができると、より多くの小中高生に利用してもらえる状況をつくり出せるのではないか、そんなことを勝手に思ったりしています。若年層にオンラインで大学の知を伝える取り組みはまだまだ少ないので、ぜひうまく発展していって欲しいものです。

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