固定観念の枠をちょっと広げる?近畿大学と武蔵大学が実践する、プレスリリースの新たな使い方
日々、大学のプレスリリースを見ていると、内容もさることながら、その切り口や投げかけ方に面白さを感じるものがあります。今回はここ最近目にした、こういう発信方法もあるのか!と思ったものを2つピックアップしてご紹介します。
報道機関と対話する?信頼関係から生まれる新たな打ち出し方
まず取り上げたいのは、近畿大学の卒業式の開催を告げるプレスリリースです。近畿大学の卒業式というと、ゲストスピーカーにホリエモンやキングコング西野、故・安倍元首相、元サッカー日本代表の本田圭佑選手などなど、あっと驚く著名人が登場することで、以前からニュースでもよく取り上げられていました。
今回のプレスリリースは、今年度の卒業式の告知なのですが、面白いのはゲストスピーカーが伏せられているんですね。プレスリリース自体、報道機関に向けた公文書なわけで、これを記事にしてもらったり、これをきっかけに取材してもらうことが主目的です。なので、できるだけニュースバリューの高い情報を載せることが求められます。そういったなか、注目が最も集まるであろうゲストスピーカーをあえて隠しているわけです。
単純にゲストスピーカーがまだ決まってないからでは?と思う方もいるかもしれません。でも、リリースが出されたのは3月18日で、開催が22日です。この段階で不確定要素があるなら、リリースにまず載せません。であれば、なぜ、あえてゲストスピーカーが書かなかったのか?これって、たぶん理由が二つあって、一つはこれから卒業する学生たちに大きなサプライズを提供したかったから。もう一つは、書かないほうが報道関係者からの注目が増すだろうと踏んだから……ではないかと思います。
ゲストスピーカーを書かないほうが報道関係者が注目するだろうと考え、このリリースを配信しているとしたら、なかなかやり口として面白い。プレスリリースの基本は、過不足なく報道機関が求める情報を伝えることなわけで、そこと大きくズレています。それで、ズレた方がより注目を集めるだろうと判断するのって、報道機関は近大が過去に伝えてきた情報を把握していて、それと同じかそれ以上のゲストを連れてくるだろうと思ってくれているだろう、そういったある種の確信があったということを意味します。
プレスリリースというのは一方通行の情報発信だと捉えていたのですが、大学と報道機関の間に信頼関係があると、伝え方も変わってくるのかもしれません。言葉のない対話というか、情報発信に長けている近大ならではのリリースの打ち出し方なのかなと感じました。
プレスリリースの役割とは何か?原点に立ち戻ったアプローチ
今回はさらにもう一つ、取り上げたいプレスリリースがあります。
これは武蔵大学のゼミブログの投稿数が900本を超えた!というリリースです。多くの場合、リリースは、何かをはじめたとか、何かをやる、やった、評価された、みたいな内容が中心です。でも、この武蔵大学のリリースはどれにも該当しないんです。さらに、厳し目なことをいうと、記事が900本を超えた、ということに、そこまでニュースバリューはないと思うんですよね。この数が多いのか少ないのか判断つかないし、多い場合、社会にとってどういう意味があるのか、直感的にイメージが湧きません。
ある意味で、プレスリリースらしくないプレスリリースと言えるかもしれません。でも、こういう情報をプレスリリースで伝えるのって、けっこう意味があるんじゃないかと思うんです。というのも、プレスリリースは、おそらく最もストレートな報道機関に向けた情報発信方法です。そこでニュースにしてもらえそうな情報を伝えることも大事ですが、ニュースにしてもらえそうな情報を発信する”情報源”を伝えるというのも、実は長期的に見て有効だと思うのです。
武蔵大学は、これと同じような発想で、毎年1月ごろになるとウェブマガジン「きじキジ」という自大学のメディアの告知をプレスリリースで行っています。
この「きじキジ」のリリースはもっとストレートというか、何かしらの節目だから出しているわけではなく、単なるメディアの紹介です。とはいえ、大学が伝えたい情報をいかにして伝えるか、報道機関にとって有益な情報をいかにして届けるか、そういった視点に立ち戻るなら、”情報源”の紹介はとても適切なやり方のように思います。
近畿大学しかり、武蔵大学しかり、プレスリリースはこうでなければいけないという枠からちょっとはみ出した取り組みです。プレスリリースは大学の情報発信のなかで、かなり頻度の高いものになるので、考え方の枠を広げたり、意味づけを少し変えたりできると、広報全体のパフォーマンスが上がる可能性があります。両大学の取り組みは、そのためのヒントになるかもしれません。
<追伸>
今日(3/23)が近大の卒業式だったのでネット検索してみたところ、ゲストスピーカーはエグザイルのHIROさんでした。「近畿大学」と検索画面に打ち込むと「卒業式 ゲストスピーカー」というサジェストが出るし、検索結果を見ると、ヤフーニュースやスポーツ報知の記事が出てくる。近大の狙い通りというか、ゲストスピーカーの名前を隠していても(隠しているからこそ?)、しっかり注目されていたことがわかり、近大広報のやり口のうまさをあらためて感じました。