初めて吸ったタバコとお酒|16歳の【初体験】
校則が自由だった高校に入学した私は
高校生らしさがない大人びた
茶髪ボブが私のトレードマークだった。
当時はスエットにキティーちゃんの
健康サンダルを履くのが流行っていたが
私はそれが少し理解できなかった。
私は洋服好きでスキニーが似合う
細い脚と華奢な体は自慢だった。
通学路の途中の駅裏に細い道路がある。
いつも先輩達が毎朝そこを通っていた。
そこを通っても学校には
辿り着かないのに何故毎朝通るのか。
当時は不思議でならなかった。
入学して学校生活に慣れてきた8月。
いつも通り学校が終わって、
電車から降りたとき、
「すいません。同じ高校ですよね?」
後ろから小走りで走ってきた
身長180cm位のモデル体形、
顔はSS級の美男子に突然声を掛けられた。
でもどこかで見たことがある顔だった。
「突然ごめんね。いつも学校で見かけてて、すごいおしゃれだなと思って声掛けちゃった。
これ、俺のメールアドレスだからよかったら」
毎朝、駅裏の細い道路に入っていく
先輩集団の1人。同じ高校の先輩だった。
先輩はメールアドレスが書かかれた小さなメモを私に渡して手を振って帰った。
こんな形で声を掛けてもらったのは
人生で初めてだった。
先輩の見た目は高校生には見えなく、
大人びていて一瞬だったが甘い香りがした。
当時、スマートフォンはまだ普及しておらず
メアド交換は今で言うLINE交換のようなもの。
私は帰宅後に先輩にメールを送信。
《はじめまして。今日は声掛けてくれてありがとうございました。よろしくお願いします》
この時はまだ好きでもなかったのに
私は何故が返信が来るまで
ドキドキが止まらなかった。
今では考えられない
“既読”が付かないEメール。
返信が来ないと送信済みBOXを
何度も確認するのが当たり前だった。
《メールしてくれてありがとう。今日は突然声かけてごめんね。もし良かったら明日一緒に学校いかない?》
数時間後、返信がきた。
そして翌日、駅で先輩と待ち合わせをして
一緒に登校した。
お互い少し緊張はしていたものの、
すぐに仲良くなれた。
「名前で呼んで良い?」
「いいですよ」
「敬語やめようよ」
「うん。せめて君付けで呼ぶね」
「わかった。ちょっとこっち来て」
この日から先輩の事は君呼び。
電車を降りると先輩は私の手を引いて、
細い路地裏に入って行った。
そう、ここはこの先進んでも
学校には着かない外れた細い道。
先輩達がここを通る理由がこの時分かった。
「ごめんね。嫌じゃない?」
先輩は右ポケットから、
タバコとジッポを取り吸い始めた。
金髪のヤンキーが吸うタバコと違って、
先輩のタバコ姿はモデルのように
様になっていて見ててかっこいい。
たしかにここなら、誰にも見つからないし、
学校も近いし、灰皿もある。
「嫌ではないけど、タバコ先生に怒られないの?」
「何回も怒られてるよ。あはは」
タバコは小6から吸っていると
言っていた不真面目な先輩とはこの日から
授業が同じ日は一緒に通学するようになった。
でも話しているうちに先輩と
趣味思考が一致する事も多かった。
仲良くなって数日経った
学校帰りに先輩が言った。
「俺と付き合って欲しい」
告白された事に驚きはなかった。
日が落ちて薄暗くなっていく
外のベンチに腰掛けて私は言った。
「先輩の事、もっと知りたいし大事にしたい。でも今はそれと同じくらい大事な事があるんだ」
この時は先輩だけを見ることはできなかった。
今思えば、先輩の事だけ見ていれば
変わっていたのかな。
今から発言する言葉に後悔するとも知らずに
純粋な気持ちをぶつけた。
私は中学卒業後すぐに
芸能事務所に所属していた。
月に2回東京に通い、
モデルのレッスンを受けていた。
所属して、数ヶ月が経つ今も学校、
アルバイト、モデルレッスンや
オーディションの両立が大変な時期だった。
何事も中途半端にするわけにもいかない。
でも先輩と一緒にいることは私の中ですごく大切なものに変わっていった。
先輩にこの事を伝えると、
「実は俺もモデル目指しているんだよね。一緒に夢叶えようよ」
度肝を抜かれた。
そうだ。冷静に考えれば高身長の細身体形、
SS級の美男子高校生が
モデルを目指さない理由はない。
将来の夢が芸能界という、
現実的ではない夢さえ一緒だったことに
この時は運命を感じていんだ。
先輩はそう言って私の頬にキスをした。
そして私たちは照れながら
何度もキスを交わした。
決して長いキスではなかったけど、
愛のあるキスだった。
純粋無垢な高校生の恋愛。
この時は手を繋いだりキスで
愛を確かめ合っていた。
学校をサボって行った昼間のファミレス。
真夜中に行ったカラオケ。
お家デートではいつも先輩の部屋で
音楽をスピーカーで流しながら、
お香を炊いて香りに包まれながら過ごすのが私たちのデートだった。
いつのまにか先輩の好きな音楽も
香りも全部好きになっていた。
先輩と付き合い始めてから、
学校もプライベートも充実していた。
友人より先輩と過ごす事が多かった。
オーディションに落ちても
励ましあいながら順風満帆に過ごしていた。
16歳。冬
クリスマスイブに私たちは
少し離れた街までデートに行く。
先輩行きつけのビンテージショップや
雑貨屋さんで買い物をした後、
おしゃれなレストランでお酒を飲む。
初めて飲んだお酒はカルーアミルクだった。
まだお酒も分からない私に
先輩が甘くて飲みやすい
カルーアミルクを注文してくれた。
目の前でお酒を飲みながらタバコを吸う先輩がすごくかっこよくみえる。
高校生同士なのに
何だか大人にでもなった気分だった。
この幸せがいつまでも続きますように。
毎日そう願っていた。
でも年が明けて、先輩の態度が変わった。
毎日一緒に学校へ行くことも無くなった。
先輩は男友達と一緒にいることが多くなり、
彼女である私を優先しなくなった。
駅や学校ですれ違うときも
顔は合わせてくれなくなった。
なんとなく、自然消滅するのかもしれないと
私は胸が苦しかった。
私の何が気に入らなかったのか、
喧嘩をしたわけでもないのに
突然、態度が変わる理由がわからない。
そんな中、近づくバレンタイン。
“本命”である先輩にチョコを渡していいのか
ずっと悩んだ。
それでも迷惑にならない程度の小さなチョコレートと先輩が好きなブランドのジッポを用意していた。
そんな時、久しぶりに届いた一通のメール。
《最近、一緒に学校行けなくてごめん。気づいてるかもしてないけど友達に戻ろう》
先輩は「別れよう」とは言わなかった。
分かっていたけど悔しくて涙が溢れた。
頭によぎるのは楽しい思い出ばかりで
初めての夜遊びも初めて飲んだお酒も
聞いたことがなかった音楽も
全部全部、先輩が教えてくれた。
先輩の世界観が好きだった。
《わかった。最後に渡したいものがあるから学校帰りにいつもの路地裏で待ってます》
来月で卒業してしまう先輩。
本当に会えなくなる前に一度だけ、
目を見て話したかった。
迷惑かもしれないけど、用意していたチョコレートとジッポを渡しに行った。
「ありがとう。高かったんじゃない?嬉しい」
「ううん。用意しちゃったから、迷惑じゃなかったら受け取って。今までありがとうね」
先輩はいつもと変わらない笑顔で
受け取ってくれた。
どうして。どうして別れる相手の前で
ニコニコしていられるの。
なんでこれでおしまいなの。
「何で私じゃダメなの」そう言いたかった。
縋りたかった。まだ自分は16歳だった。
それでも、大人ぶって必要以上の言葉は掛けず、
別れの理由は聞けないまま去った。
そして、駅のタバコ自動販売機で先輩が
吸っていたハイライトメンソールを買った。
家に着き、自分の部屋に篭った。
共働きだった両親はまだ帰っていなく、
買ったタバコに火を着けた。
タバコの煙は確かに先輩の香りがした。
先輩と同じお香の香りがする部屋で泣いた。
その日は食事ができないほど悲しかった。
先輩と付き合って半年間、
たくさん愛を貰って、笑い合った。
それでも一緒にいるだけで目立つ存在だった私たち。一緒に歩いてるただそれだけが自慢だった。
3月
来月は卒業式。先輩は卒業後、
何をするのだろうか。
そんな事も聞けずに私たちの
関係は終わってしまった。
これが自然消滅だった。
16歳の初恋。失恋。
私たちはセックスはまだしていなかった。
それだけが救いなのか、
それとも心残りなのか。
初体験は先輩としたかった。
先輩が好きだった音楽とバニラの香水は
今でもずっと好きなままだ。
-ほてるちゃん-