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開いたら二度と戻らない同人誌をつくった

この記事は2023年に書きかけたものを掘り出しUpしたものです。

正確には表紙を開く選択をしたら……ですが、色々な意味で二度と戻らない本をつくりました。
(内容のネタバレがありますのでお手に取っていただいてまだ読まれていない方は読んだのちに読んでください)

はじめに

元々構想としては数年前から思いついていたものの、どうしたら形にできるかわからず迷っていました。
2022年11月の福岡のイベントに参加した時に、スペースを通りかかかった印刷所の人に「こんなかんじの本をつくりたいんですよね~」と相談したものの、きっとよく分からない構造なのでその時はあまり理解してもらえてはなかったと思います。
受けプチオンリーが2023年5月のスパコミで開催されるため、そこに合わせてこの本を出したいなと思い、3月のイベント時に来ていた印刷所の方に相談し、図を描いて見せたところでようやく理解していただけました。
が、「今までやったことないのでわからない」という言葉……
「ここに断られたら私本が出せないんです」と泣きつき依頼しました、という感じで出発してます。

コンセプト

「開いたら二度と戻らない(物理的にも物語のエンド的にも)」
という内容をもとに仕掛けを考えました。

・背から開く
・袋とじとは違い、開かないと中が見えないようにする(上下はピッタリ張り付ける)
・開いたら物語の結末が変わる
・開いたら二度と戻らない(物語としても、物理的な形としても)
・開いた部分が袖のように折りたためる

という感じで考えてました。
背開きにこだわったのは、この形はきっと他の人があまりやったことがない形かなということと、羽化(変化)するイメージで造りたかったので背から開け両側を開く構造にしました。

この時点で中身は決まっておらず、タイトルだけがふんわりと決まっている状態でした。

そもそも開いたら二度と戻らない本って?

全体像はこんな感じです。と言ってもわかりにくいかと思いますので、下記に動画を載せます。

表紙1側(正確には表紙2)にお菓子の箱のようにペリペリめくれるジッパー加工をしています。そこを開くと背が取れます。背を取っただけでは中身は見えないので、表紙1(表紙2)、表紙4(表紙3)のミシン目を開くと言う感じです。

サイズ感など
・A6サイズ200P
・表紙一色刷り(表紙1-4と表紙2-3それぞれ別インク)
・本文色替え
・しかけ表紙(シッパー加工多数)
・内側PP加工(開いた際の保管のため)

ジッパー加工の部分にもちゃんとデザインを裏表入れました。
開く前は「Once in a blue moon」という「あり得ないこと」「奇跡は起こらない」というタイトルなので
・開く前のジッパー部分は「奇跡が起こらなかった物語」という英文
・開いた時に見える裏面に「奇跡が起った物語」という英文
をそれぞれ入れています。

取れた背部分裏面にも開いた時に見える背表紙タイトル「A rose named Blue Moon」に使った青いバラの花言葉を記載しました。
(実はしおりとしてつかって欲しいな、という気持ちを込めたのですが、感想でしおりとして使って二回目読みますと言っていただけて本当にうれしかったです)

以下余談ですが

開く前と後の両方に使用したbluemoonですが
・「極めて稀なこと」「決してあり得ないこと」という「Once in a blue moon」
・「夢かなう」や「奇跡」が花言葉に変化した「bluemoon」という名の薔薇の二重の意味を掛けてました。

仕掛けとしては
・表紙を開かなければ奇跡は起きず、切ない話として完結。
・表紙を開けば、二度と戻れない選択(物語的にも、本の形としても)をして奇跡が起こった少し先の未来の話が付け加えられ完結。
という感じでした。

背から開き羽のように両側を開くことにより「決断をして羽化するように成長する」という意味を込めましたが、そこについてはさすがに触れた感想はなかったです。わかりにくかったかと思いますが自分的にはこだわっていた部分なので大満足です。

ちなみに各章のタイトルも全て月に関する慣用句を英文で探すなどしてちゃんと「月」という一貫性を持たせているので、やりたいこと全てを詰め込んだな~と言いきれるぐらいこだわりました。

下からは原稿と闘っている話なので、装丁に興味がある方はここまでで読むのをやめて頂いて大丈夫です。
(若干仕掛け部分の試作品の記載などはあります)

見積もり、試作サンプルの選択

3月イベント後に依頼して、直ぐに試作品が数種類来ました。
製本状態ではなく、平のままなので実際の製本状態とは変わりますが、中々思ったような形が難しいことがわかりました。開き方三種類送ってもらうも迷ってしまいました。
最初、表紙は非塗装のざらざら系を希望していたのですが、製本で折り曲げると切り取り部分が割れる割れる……最終的には希望の紙では難しいとの事で塗装紙になりました。
もはや仕掛け部分を優先することが重要だったので迷いはありませんでしたが、最終的にはかわいかったので安心しました。というか紙は紙であることがすでにかわいいので、上質でもコート紙でもが全てかわいい。

背幅の決定=ページ数決定と迫る締め切り

背幅もある程度欲しかったので150Pにて決定。この時点でもう4月上旬です。つまり、締め切りまであと7日~10日ほどしかなくなってきていました。
ただこの時点で私の原稿文字数は1万字ほど。目標の150Pまで全然ページ数は足りません。おかしい。

おまけに人の表紙もやりたい!と欲張っていたので、とにかく原稿をさっさと終わらせなければいけないのに終わらないプレッシャーがやばかったです。(でも毎日24時~25時には寝ていた偉い)
しかも金曜夜、土日が毎週原稿できないことが確定。焦りを通り越し、一瞬余裕すら生まれそうなくらいにやばい状況。
そんな中、(人さまの表紙をつくった詳細は別の記事に記載してますが)ちゃんと?頼まれたデザインやりながら原稿続けてました。寧ろ楽しかったのでかなり気分転換になって精神衛生面的に良かったです。

結局、表紙のテンプレート作成の関係で少しだけ締め切りが延びたのと、平日に苦しみ苦しみ、最後の最後でブーストがかかったかのように書けたので最終的に200Pを無事入稿することができました。予定より増えてますね。

テンプレートの完成と入稿

ページ数が増えていることを伝えながら、入稿予定日を伝えたところ、入稿予定日前日の夜にテンプレートが送られてきました。
ざっくりと自分で造った簡易テンプレで表紙も組んでいたので、正規テンプレで組み直ししながらデザインして原稿と一緒に入稿しました。朝の3時に。
久しぶりに表紙をつくる前に扉などのデザインや奥付もすべて完成させていたので、表紙だけに専念できたのが悪かった。楽しすぎて色々いじっていたら朝の3時に入稿終えるという事態になってました。最後の最後で徹夜。
そしてその後、再度見積もり依頼し、確定したものがきた……という感じです。イレギュラーすぎる。

後は会場で実物と無事会えるのを祈るだけ

毎回イベント参加していてもちゃんと本があるか不安になることってありませんか?
私は毎回不安です。別に印刷所様を信用していないと言う事ではなく、ただの心配性なだけです。
今回は朝から遅刻して、早く着いていた方に助けていただきながら設営していたので、正直感動とか感じる暇もなく頒布時間になってました。
イベント後、ホテルに戻ってようやく仕掛けを開いて感動を噛み締めていました。ペリペリ剥がしてめちゃくちゃたのしんでました。(1つ目の動画はその時のもの)

さいごに

構想から数年かけて作った本なのでいろんな方の手に渡って感無量です。
仕掛けに驚いてくれた方や、(予想通りに)どうにか仕掛けを開かないで中身をみれないかと奮闘して最終的に開く選択をしてくださった方もいて、にこにこしておりました。また開かないまま保管してくださっている方もいるのかな~と思うと自分が想像しうる限りの楽しみ方をしてもらっているのではと満足です。
中身にも感想で色々言及して頂き、落とし込んだ要素もくみ取っていただけて、本当に最初から最後まで楽しい思い出(苦しみも含めて)になりました。
今までの自分の装丁スキルを生かせたのかな、という気持ちもあり少しだけ成長を感じられたのも良かった点ですし、
何よりも、「5月にどうしてもやりたい装丁ある」と伝えた際に、今回の本に期待して色々応援くださった方々のおかげもあり踏み出せ、作れた本でもあるのでやりきった気持ちも大きいです。ありがとうございました。

今後も仕掛け有り無しにしろ、やりたいことを詰めた様々な装丁の本を作っていきたいな~と思いつつ、次回の本の見積もりを出しています。(2023年下書き時点では……)

現在まで色々出してますが、印象に残る本である1冊で、お手に取っていただいた方からも反響が大きかった本です。(2025年1月追記)

今現在在庫のある同人誌については下記リンクから確認できます。(イベント期間中は閉じてます)

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