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Episode 490 摺り合わせないとダメなのです。

点滴をしても目まいがして吐き気がおさまらない母の向こう側で、かかりつけ医の先生が総合病院に連絡を取っている。
時計を見ると…もうすぐお昼だ。
とりあえず、先生が近くの施設が整った病院に紹介状を書いてくれるという。
母の方は、その病院に紹介状を持ってに連れていくとして…問題は父だ。
仮に母をその病院に連れて行っても、症状が一発で改善するような特別な薬が処方されるわけではないだろう。
母がなんとか郷里の家に帰れる状況になったとしても、認知症の父をひとりで迎え入れるのは…キビシイ。
そうは言っても、私が母の代わりをするのもまた、現実的ではない。
今日はこんな感じの対応に追われて仕事を休ませてもらったけど。
夜は父の介護をして、日中は母が自宅介護、それとデイサービスを併用して、私は仕事に行く…なんて、どう考えてもムリでしょ?
そんなことをしたら、今度は私が倒れるって。

泊りの介護サービスを緊急で受け入れてもらわないと…。

5月中旬の「徘徊騒ぎ」の直ぐあと、私は「郷里の家」の玄関に防犯グッズの簡易錠を増設して赤外線センサー式のチャイムを取り付け…父が玄関で鍵を開けようとガチャガチャすれば、人影に反応してチャイムが鳴るように対策を施します。
雨戸があるから、玄関以外の場所から外に出る心配はほぼ無い…というのが救いと言えばそうなのかも。
ただ…当然これは「対処」でしかないワケです。
さてと…問題の本丸は「今後の介護の方向性」というあたり。

担当ケアマネさんに徘徊の話を含む「深夜のこと」を説明して、夜の負担を軽くしたいという話をする一方、母の「父との生活を守りたい」気持ちも伝え、方向性を模索する中で私は「小規模多機能型居宅介護」という施設はどうだろう…と、勧められるのです。
小規模多機能型居宅介護…通称「小多機(しょうたき)」は、同一の介護事業者が「通所(デイサービス)」を中心に「訪問(ホームヘルプ)」や「泊まり(ショートステイ)」を一体的に提供するもの…簡単に言ってしまえば、利用者である父や介護者である母の状況に合わせて、介護サービスの内容を自由に組み替えて選択できるものということです。

今までの父の介護は「デイサービス」…つまり、父には日中に施設へ通ってもらって母の負担を減らそう…という考え方だったワケです。
ところが実際の負荷は日中ではなく夜間にあって、夜間の負荷を減らすとなると父に泊まってもらうしかなくなるワケですよ。
現行の介護サービスには「夜間のみ」という選択肢が無くて、短期の泊りという介護サービスを受けようとすれば「ショートステイ」という選択肢しかなくなるのです。
デイサービスとショートステイを組み合わせて利用することは可能…ですが、デイとショートが組織として違なる都合、当然ながら場所も介護職員も異なることになる…という問題点がありました。
認知症の方の場合、場所や職員が頻繁に変わるということが混乱の原因になることが多いのです。
ただでさえ「覚えていられない」という短期記憶の落ち込みがある中で、あちらこちらで場所や人が変わることが当事者のストレスになるのです。
この「認知症の方に不利」な介護サービスの組み合わせ利用の問題という現実がある上に、泊りのサービス(ショートステイ)への契約に母が後ろ向きであるということが、さらに話を難しくさせていたのです。
担当ケアマネさんは「この実情」を考慮して、環境を変えずに後からショートステイを差し込むことが可能な「小多機」を勧めてきたのです。

「小多機」は基本的に「中学校区に一施設」という基準があるのだそうで、簡単に言えば公立中学校と同じ数だけ施設がある…ということになります。
はじめはデイサービスだけでいい…急に泊りのサービスを使うのではなく、母が疲れて大変な時に「最善の泊りサービス」が可能な場所…という線で説得することにした私は、パートナーの助けも借りて、何とか母の同意を引き出します。
「郷里の家」から通えそうな場所の小多機を幾つか見て回った母は、納得のいきそうな施設の目星を付け、その施設への契約をするのです。

まだ泊りのサービスには難色を示す母ではあるものの、深夜の「警察沙汰」を経験して「万が一」を考える様になったのでしょう。
その一方で…私はと言えば、ここで合理性のゴリ押しではない「ガマン」を選択することになるのです。
施設を変更するからと言ってもデイサービスしか使わないのなら、夜の不安が解消するわけではない…でも。

この期に及んで「ようやく」意見のすりあわせによる妥協に活路を見出した私は、今までの私の身の回りの出来事を振り返り、ASD思考の摺り合わせの難しさがいつも私に付いて廻っていたことを思い知るのです。

改めて、この記事を。


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