エネルギーの出どころ

ワインを飲みました。するとなんとも言えない創作エネルギーが沸いてきて、普段寒いので出たくないバルコニーにいそいそと出て、ストックしてあるベニ板を一つ選び、踊るように下地塗りを仕上げました。

やらなくちゃいけない、取り掛かり始めれば大したことはない、しかし何となくやりたくない仕事、だれしも一つや二つ常に意識の中にあるのではないでしょうか。

そんなとき、少しの義母とのおしゃべりだとか、一杯のワインだとか、たばこを一服だとか、ひとかけのチョコレートが謎の唐突なお祭り気分をもたらし、めんどくさい用事も難なくこなせてしまう、そんな経験はだれしも一度ならずあると思います。

このプチおまつり状態は、またの名をアドレナリンラッシュともいい、何らかの外的な刺激が脳内のモルヒネ物質を誘引して起こるハイ状態だということは、最近は情報化によってたくさんの人がご存じのことかと思います。

画家として、また競争意識の高い個人として、私はこれまでの人生26年間、何度もこのラッシュに助けられて素敵な創作活動を成し遂げてきました。

しかし、今回この記事でお伝えしたいのは、こうしたアドレナリンラッシュは、長期的にみてアーティストをはじめとする多くのクリエイティブな仕事によくない影響を与えるよ、ということなのです。

最初に伝えたように、刺激物質(たばこ、薬物、アルコール、砂糖、カフェイン)はごく短期的に見て意欲やプロダクティビティを挙げるとてもよい起爆剤化に見えます。副作用を考慮しても、まあアーティストは危険を冒してなんぼとか、たしなむ程度なら毒も薬になるべとか、そういう風に考える人は多いかと思います。

私は口を大にして言いたい。愛する全人類のために、面倒くさがられることを覚悟で言いたい。毒は毒である!毒は薬にはならないのです。


体は刺激物質に慣れて、より多量を必要とするようになります。そうなると、その刺激物質の中毒から抜け出すために、相当な意志力を消費して元の生活に戻す努力が必要になります。そうすると、楽して創作性を得ようとしたのが反って余計な年月をリカバリーに費やすことになるのです。


私の話をすると、ロンドン留学中、私は世界で最も歴史的に批判精神の強い素晴らしい私立学校に通っていました。世界中から集まった優秀で意識の高い学生たちは当然競争意識も高く、なんだか日本よりも自由な世界が待っている気がするなどというぼんやりとした希望を胸に到着した私。そこでは、私のようなお花畑人間なぞは1秒も正気を保てないような目まぐるしい政治的イデオロギー的カオスが渦巻いていたのです。そこで、私はロンドンの誇るコーヒー文化に癒しと眠気覚ましと現実逃避と意欲喚起をもとめ、どっぷりと中毒症状にはまり、毎日フラットワイト(エスプレッソが2ショット入った強いカフェラテのようなもの)を三倍以上消費しないではいられないという風になってしまいました。常にカフェインのせいで手指はわずかに震えていたし、なんだかいつもとても不安な気持ちで、おなかは下しっぱなし。そんな地獄のような状況でも、カフェインのせいで寝不足だったために、翌朝はまたコーヒーが必要というような、完全な負の連鎖に陥っていました。

心も体もバランスを崩し、破れかぶれでロンドンを去ったあと、彼氏の実家のバルセロナに短期的にお世話になります。そこは締め切りも競争相手もいない、ビーチとスケートとアートの日々。

気が付いたら、健康よりお財布より大事だと思っていたコーヒーを一切のまずに3週間が過ぎていました。だれにも頼まれてない、需要のない、純粋に描きたいものを描く。楽しめるようになるまで数か月かかりました。今まで、誰かのためにとか、課題の回答としてとか、そういう風に取り掛かってきた美術との関係が、久しぶりに、いたずら書きと同じ自由度で、心ゆくままに描くという風なものに戻すのにはやはり少し時間が必要でした。

でもコーヒーは必要なかった。

急ぐ必要も、何か描くための理由付けも必要なかった。

とても大切な人が、数年ぶりに私のもとへ戻ってきてくれたような、不思議な開放感と安心感に満たされたのを今でもよく覚えています。


何が言いたいのか少しわかりにくくなってしまったかもしれません。まとめると、インスピレーションは、私たちの体内時計を刺激物質で速めることで得られるほど簡単にはいきません。あきらめて待ちましょう。しっかり心と体の声を聴いて、「今、ここ」私たちの心身が本当に必要とするものを与えてあげましょう。もしあなたが何か創作意欲があって、でもなんでか次のステップを踏めないのであれば、焦らずにその気持ちを受け入れて、そっとしておきましょう。その間、メディテーションやヨガを通して自分ときちんと対話をし、自分の感情や体調の世話をしっかりするのが大事だと思います。


今晩は、パートナーにインスパイアされて禁酒していたところ、久しぶりにお酒を飲んで、「ああ体が化学物質の影響を受けているなあ」と深く実感しました。それで、この私の経験的学習を誰かにぜひ共有したいなと思ったので思い立ってノートに記録しました。

ご意見いただければ幸いです!また、インスタグラムアカウントで私のドローイングを紹介しているのでぜひのぞいていただければ幸いです!

インスタグラムアカウント;    hotaru.kawaguchi

それではよい一日をおすごしください

ほたる

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