今年読んでおもしろかった本
今年は88冊しか読めなかった。しかもお勉強として読んだ本も多いので、個人的に大切になった本がけっこう少ない。読書ライフとしては数も質もちょっと物足りない一年でした。
それでも印象に残った本を数えてみると、意外と6冊も。簡単に紹介します。
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○ 平野啓一郎「ある男」
自分の人生はなんなのか、ではなく、なん「だった」のかと、過去形で問うてくる物語。己の意志で歩いた道と、意志と無関係に負わされた境遇。「自分」を捨てた男との出会いによって、主人公は自分の人生に本当の意味で向き合いはじめる。40歳くらいの人の感想を聞いてみたい作品。
○ 西加奈子「サラバ」
とても個人的な意味で主人公に共感しどっぷり感情移入してしまった作品。それゆえこの先こそを知りたいのだという気持ちと、それでもそう簡単に納得できるかという気持ちが今でも残っている。外国の風に人間賛歌を乗せてくるいつもの西加奈子節。
○ レイモンド・カーヴァー「大聖堂」
どれだけタグをつけても、何億人いるSNSに投下しても、すくい取られない感情があるはず。それをすくってみせるのが文学のひとつの役割だとするなら、カーヴァーは最後の最後にひっそりと待ち構える小さくて目の細かい網だ。短編集なので読みやすいからよく人に薦めている。
○ 高橋源一郎「さようなら、ギャングたち」
名前がある、ということに疲れていたのだと、この小説は教えてくれた。肩書きなどではなく自分の名前そのもの、自分を人間たらしめるものに。それが外されたときに、人ははじめて己の純粋な魂を感じ取れるのかもしれない。言語による非言語的な物語。
○ シェリー「フランケンシュタイン」
あまりにも有名すぎるがゆえに実はよく知らない作品ってけっこうある。作者が女性、しかも執筆時19歳、フランケンシュタインは怪物の名前ではないーー。意外だったのはそれだけではなくて、怪物が博士に向けるものは、憎悪でもあるけども愛情、しかも親子のそれであるということ。
○ 呉明益「歩道橋の魔術師」
誰かの影響を受けていても、本家と同等、あるいはそれ以上のものが書けたなら、それはもう本家とは違うオリジナリティだ。村上春樹テイストでここまで真なるものははじめてだったし、描きたいもののためにこのテイストを採用したのだと読み終わって確信した。
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という感じでした。来年もいい本に出会えますように。