籠城するは我にあり/将棋
「囲う」ということ
玉将の守りを固める
将棋は「囲い」なくして成り立たず――。
そう言えるほど、将棋を指すうえでは重要な要素である。
「囲う」とは、
玉将の付近に自駒を配置して守りを固めること、
すなわち、守備のことである。
将棋の駒は、一つの目安として、
飛車・角行・銀将・桂馬が攻めを担い、
金将2枚と銀将1枚で守りを固めると安定するといわれる。
玉将の守りは金銀3枚が基本である。
ただし、やみくもに玉将の周りに駒を集めるだけでは、
堅い守りとは言えず、真に「囲い」とは言えない。
「囲い」にもさまざまなパターンがあり、
ある程度定跡のようになっている。
チェスとの違い
少し話は脱線するが、
チェスは条件さえ整えば、
わずか一手でキングを安全な場所に配置することのできる、
キャスリングというルールが存在する。
一方で、次項から見ていく将棋の「囲い」のパターンは、
10手以上かかってやっと組みあがるものもある。
また、チェスはエンドゲームに向かうにつれ、
キング自らが前線へ赴いて攻め駒として果敢に突撃していく。
これは、チェスのルールの性質上、
盤上のピースが少なくなっていき、攻め駒が不足していくためである。
一方の将棋は、
そのような事態が起こりにくいため、
基本的に玉将の守りを固め、自陣に籠城させるのがベストとされる。
チェスと将棋という比較されやすい2つのゲームだが、
”守備”という点だけを見ても案外異なる考え方が根付いているのだ。
代表的な「囲い」のパターン
金矢倉
金矢倉は以下の手順で組み上げられる。
完成形に到るまで標準で13手ほどかかるが、
非常にバランスが良く戦いやすいため選択されることが多い。
便宜上、手順は先手のみとする。
1.☗7六歩 角の道を開ける
2.☗6八銀 銀将を前進させる
3.☗7八金 金将を前進させる
4.☗5六歩 先鋭の歩兵を高く積み上げる
5.☗6九玉 玉将を矢倉の中へと入れる
6.☗5八金 右の金将を寄せる
7.☗7七銀 銀将をさらに前進させ積み上げる
8.☗7九角 角行の効きを最大限生かすための下準備
9.☗6六歩 先鋭の歩兵を高く積み上げる
10.☗6七金右 歩兵のいたスペースを金将で埋める
11.☗6八角 角行の効きを生かす
12.☗7九玉 玉将をさらに中へと入れる
13.☗8八玉 矢倉へ入城完了
前項で見た通り、
「囲い」の原則である”金銀3枚で守る”がなされている。
金矢倉の長所として、
金将・銀将が前へ出ている形となっているため、
前方からの攻撃に非常に強いことが挙げられる。
<第1図>~<第2図>のように、
前方から歩兵が迫ってきたとしても、
☗同歩→☖同銀から、いましがた取った歩を打って、
☗6六歩とすれば、銀将を追い返すことができる。
一方で、金矢倉は横方向からの攻撃には弱い。
<第3図>のように、
守りの7八の金将を狙われると意外に脆い。
金矢倉に対抗するには、
前方からの攻撃ではなく、
玉将の脇を守っている金将を攻めることがカギとなる。
美濃囲い
美濃囲いは通常「振り飛車」の戦法をとるときに用いられる。
飛車を左側に動かし、その位置に玉将を移動させて組み上げる。
基本例ではあるが、通常7手ほどで完成する。
1.☗6八飛 「振り飛車」を選択する
2.☗4八玉 玉将を右側へと入城させていく
3.☗3八銀 守りの駒である銀将を前進させる
4.☗3九玉 玉将を飛車がいたスペースに向かわせる
5.☗5八金左 金将を囲い位置へ寄せる
6.☗2八玉 飛車がいたスペースへと入城完了
7.☗1六歩 歩兵を前進させる
美濃囲いの長所として、
手数がかからないこと、側面からの攻撃に強いことが挙げられる。
<第4図>のように、
竜が横からにらみを利かせていたとしても、
金銀3枚がその攻撃を見事にブロックしている。
一方で、美濃囲いは前方からの攻撃と角行のラインに弱い。
「囲い」は健在であるにもかかわらず、
<第5図>では、☖3六桂で詰みである。
1八、3九のどちらに逃げても☖2八金で詰みとなる。
また、6四の角行のラインが非常に厳しく、
たとえ詰みまではいかなくとも、
3六に歩を打たれるだけで一気に崩壊してしまう。
美濃囲いには他にもさまざまなバリエーションがあり、
次の記事で詳しくみていくこととする。
さいごに
「囲い」は将棋の真髄である。
「囲い」の種類は変化を含めると100以上にものぼり、
相手の出方によって柔軟な対応と発想が求められる。
それぞれの「囲い」の特徴や長所・短所を踏まえたうえで、
実際に組んでみることが有効である。
将棋は籠城戦。
籠城するは我にあり。
―B.―
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