あやとり家族二十三
マザコンの父、それを知らないまま結婚した母。
父は、女手一つで祖母に育てられた。途中から偽物のじーちゃんが加わりその生活がどのように変わっていったのか今ではわからない。
祖母は自分が私生児として育ち、自分の子どもには恥ずかしくないようにと付属の小学校へ父を入学させた。祖母の愛情というのはとても深かったようでそれを受けて育った父がマザコンになるのも自然の流れだった。
早く祖母を楽にさせようと、大学を中退し寿司屋に転職する。父は魚を釣るのも得意だったし捌くのも上手だった。それも、途中でやめて今度は四男と一緒に中華料理屋を開店させた。
四男とは離れて暮らしていたが、連絡を取っていた。四男は自分には兄弟がいて別に暮らしていることはわかっていたようだ。昔のこと、詳細が掴めないが、養子先で虐待にあっていてどうしようもなく兄弟に救いを求め、助けに行ったらしい。
その中華料理屋も兄弟喧嘩で店をたたむこととなり、父は一度就職するが”人に使われていることが苦痛”と自分で事業を始めた。
そんな頃だ、私の母と出会ったのは。父は言っていた”この人なら将来祖母の面倒を見てくれるだろう”
それが結婚の決め手。母は看護師の仕事についていたが、実父が議員をやっており”うぐいす嬢をやれ”との一言で職場をやめさせられ地元に戻って来させられていた。
母の兄が喫茶店を経営していて、うぐいす嬢の仕事がない時はその喫茶店の手伝いをしていて、そこに偶然お客さんとして来たのが父である。
優しそうな笑顔の母の白衣の天使の写真が一枚ある。
後に父はそれを見て”この顔に騙された”と幼い私に伝えた。
父は母を愛したのではなく、祖母の世話ができそうな女性を探していた。
バツイチだった父の元妻はとても容姿端麗で誰もが羨む存在だった。その間に産まれたのが長姉だ。ただ、この人はとてもだらしのない人だったらしく、父が嫌気をさして離別したとのこと。
そんなだらしない人では祖母の面倒は見られないだろう。
父は子どもを引き取り、祖母に面倒を見させ自分は仕事に明け暮れていた。
父の方から母にアプローチを開け、既に子どもがいること祖母と同居することも全て打ち明け結婚することになった。
父の洋服はデパートで祖母が買ってきてはそれを着せる。
父は洋服のセンスがなかった。
次はこういう大きな仕事が入っていると聞けば、それに合わせた洋服を買ってくる。もちろんデパートに買いに行くときはすずちゃんを連れて。
そんなこんなで、プレハブに住んでいた私の家では夜になると明日の衣装あわせが始まる。
母の顔はいつも何か言いたそうな歪んだ顔。
”お金がない”と言っているのに、父の服は新調されていく。
父と母その両方の気持ちが私の中に入ってくる。
父は父で、仕事のために頑張っている、それをこういう形で世話してくれる祖母がいる。早く祖母を楽にさせたい。
母は母で、マザコンなのは理解済みで自分の意見は通らない。こんなお金あるなら、、、。
こういう日は必ず喧嘩が始まるから、本当に嫌だった。
だから始まりそうになると「お父さん似合ってるよ」と洋服のことを言ってみたり、「お母さんこの本読んで」と話を逸らしてみたり、とにかく喧嘩が始まらないように気を使っていた。
ピエロの始まりだ