見出し画像

あやとり家族⑦

ももちゃんのところには来ないサンタ

毎年、クリスマスの時期になるとなぜかお母さんが、「ももちゃんは欲しいものある?」って聞いてきていた。きっとすずちゃんにも聞いていたんだと思う。
子どもが欲しいものなんて大体流行っているテレビアニメからで、変身シリーズの女の子が持っているオモチャ。本当に変身できると思い込んでいたからそれはそれは欲しくてたまらない。絶対にサンタさんがくれるって楽しみに待っていた。

サンタさんがくる前夜。いろんな靴下を用意して、その中でも1番大きいのを選んで(プレゼントが入らないと困るって考えてた)お母さんに、この靴下で大丈夫かどうか確認したりして。枕の横に置いてみたり、お布団の頭側に置いてみたり置く場所さえも考えて色々と動かす。

兄と私はいつも2段ベットに寝ていたが、クリスマスの日だけはお布団を床に敷いて寝るのが習慣だった。お兄ちゃんも靴下を用意して隣で寝ている。いつもはすぐに眠れるのに、楽しみで楽しみでなかなか寝られない。お兄ちゃんもまだ起きているか確認しながらやっと目を開けている状態。そしていつの間にか寝てしまう。

待ちに待ったクリスマスの日の朝。はっとして起きるいつもの朝とは違う感覚。
すぐに靴下を見る。
靴下は昨夜置いておいたところのそのままの形で置かれている。その横には何もない。
お兄ちゃんの靴下の横には、何かラッピングされたものが置いてある。
ももちゃんのところには何もなかった。
なんで、サンタさん来なかったんだろう、プレゼント置いていってくれなかったんだろうって涙が出た。サンタさんを信じたい気持ちと、来なかったんだって事実と寂しい気持ちとで揺れ動いていた。その横では、お兄ちゃんがラッピングを外し念願のオモチャを手に大喜びしている。

ももちゃんはプレゼントがないという現実を受け入れてお母さんに尋ねる。
「サンタさん来なかった、ももちゃんのところプレゼントないもん」
お母さんは言った。「すずちゃんのところにあると思うわよ、行ってみなさい」

すぐにすずちゃんのところに行く。すずちゃんはサンタさんからもらったオモチャで既に遊び始めていた。
「すずちゃん、貸して」
「ダメ、今私が遊んでるの」
「ちょっとだけでいいから」
「まだダメ」
こんなことを繰り返していたら、お母さんが来て「すずちゃん、それはサンタさんがすずちゃんとももちゃんにくれたプレゼントだから仲良く遊びなさい」って。

ひとつしかないオモチャを二人で使うことはできない。双子ってカテゴライズしただけで、ひとりひとりの個体。要は2つの個体であるわけで、なんでオモチャを2つプレゼントしなかったのか。”1つのものを2人で使いなさい”はここから始まった。この先ずっと続く地獄の始まり。

後にも先にも、ももちゃんのところにはサンタさんは来なかった。
いつもすずちゃんのところに行っていた。すずちゃんがお姉ちゃんだったからかな。

いいなと思ったら応援しよう!