あやとり家族⑧
ke-kiももちゃんの誕生日ケーキは来年買ってあげる
ももちゃんは、一人で遊ぶかじーちゃんの肩たたきをすることにハマっていた時期がある。じーちゃんは肩を叩くと小銭をくれた。ももちゃんはそれを貯めて、じーちゃんがいつも舐めている飴を買いに行っていた。お金の計算をどうしていたのかは覚えていないけど、じーちゃんが相手にしてくれて嬉しくて、何か返したかったのだと思う。子どもだから自分のお菓子だって買えたはずだけど、そんなこと一切考えていなかった。
何かをすれば喜んでもらえる。一人で遊んでいるのも楽しいけど飽きることもあって、そんな時はお母さんに「ももちゃん何かできる?」って聞いては手伝いをすることも覚え始めた。
毎日のように大人のところに行っては用事を探す。「遊んでていいわよ」って言われたって、モーテルの方は行ってはいけない、ボイラー室もあってそこにも行ってはいけない。探検したいところは全部行きつくしてしまっていた。
まだ、小さかったから一人で公園に行くことも許されず、オモチャで遊びたくてもいつすずちゃんが帰ってくるかわからないから、「ダメ!」って言われるのが怖くて手を出せなかった。オモチャで遊びたい時はすずちゃんに了承を得てからというようにいつしかなっていた。このことで何回も喧嘩していたから学習してしまっていたようで、お母さんは「貸してあげなさい」ってすずちゃんに言うけどその後の仕返しもついてくるから、お母さんはそこまで知っっていたのかもわからない。自分で育てることができないから、やっぱりすずちゃんよりな考えになっていたと思っている。
そんな我慢する毎日。一年に一度の誕生日。お母さんとすずちゃんとももちゃんでケーキを買いに行ったことがある。これは一生忘れない。
「どのケーキにしようか?すずちゃんどれがいい?」
「これ!」っとショートケーキを指差す。
「ももちゃんは?」
「これ!」っとチーズケーキを指差す。
お母さんは悩んだ挙句に小さな声でももちゃんに言った。
「ももちゃん、今年はすずちゃんが言ったケーキにしましょう。ももちゃんのは来年買ってあげるから我慢してね、ごめんね」
「うん」
やっぱり、すずちゃんの言う通りになる。ももちゃんの言うことは通らない。
とても悲しかったけど、駄々をこねるとお母さんが困ると思ってまた我慢した。
チーズケーキだって、本当はお母さんが好きなケーキだって知っていたから喜んで欲しくて選んだだけだった。正直自分でどのケーキが食べたいのか選べることができなくなっていた。だって言っても聞いてもらえないことを覚えてしまって、心のアンテナが既に外へ向いてしまっている状態になっていたから。
そして今でも”来年買ってあげる”ももちゃんのケーキは届いていない。