あやとり家族16
小学校の道具は、すずちゃんのは手書き。ももちゃんのは判子
小学校の入学式、なぜか洋服は色違いではなくお揃いだった。
こういうところが親のわからないところ。
普段は色違いで選ばせて喧嘩の原因作るくせに。
入学式の後、自分のクラスが発表された紙が貼られている。
珍しくお父さんとお母さんが両方来ていた。
なぜなら色々と説明があるから。
今はわからないけれど、当時双子は必ず別のクラスにすることが決まりだった。
親子揃って教室に入り、何を準備するのかとか自分の机の場所などが説明された。
私の方についてきたのはお父さん。
本当はお母さんがよかった、あんなに嫌な思いをさせられているのに今日だけは一緒にいられるんだと楽しみにしていた。
だけど、お母さんはすずちゃんのクラスに入って行った。普段自分で子育てができていない分、母親らしいことをしたかったんだと思う。
また、”ももちゃんの大事なものをとられた”そんな気分だった。
お父さんと私は先生の説明を一緒に聞いていて、わからないことがあったからお父さんに聞いたが「お父さんもよくわからないよ、お母さんがすずちゃんのところで同じ説明聞いているだろうから大丈夫だよ」って。
そりゃそうだよな。お父さんは入学式が終わるとさっさと仕事に行ってしまった。
ただの人数合わせで来ただけ。
結局何をしていいのかわからないまま。説明は終わって帰ることになった。
家に着いたらお母さんが私たちの勉強道具を広げて、ひとつづつ学年と組と名前を書いている。どうやら明日までに仕上げなくてはならないらしい。
これもまた、すずちゃんの方から始める。
私は自分の持ち物に名前が入っていくのが楽しくてずっと見ていた。
すずちゃんのノートに名前を書いたら次はももちゃんのノートに名前が入る。
そして最後の砦。おはじきセット。
花柄で色々な色がついていて、とても小さいがそのひとつひとつに名前を書かなければいけない。大層な量がある。2人分だから。
やはりすずちゃんの方から始める。
”うえだすず”って黒い細いマジックでシール一枚一枚大事に書いている。
おはじきが小さいからシールもとても小さくて大変そうだった。
次はももちゃんのおはじきのシールだとウキウキして見ていたらいつの間にか寝てしまった。
翌朝、ハッとして起きた。ももちゃんのおはじき!
急いで蓋を開けて確認したら、ももちゃんの名前が書いてあるシールが貼られていた。
ただ、すずちゃんのとは違っていた。
”上田”っていう小さい赤い訂正印が押されていてその横に”もも”ってマジックで書かれていた。
「お母さん!なんでももちゃんの書いてくれなかったの?」
とても悲しくて思わず聞いた。「面倒くさくなっちゃって、いっぱいあったから」
だって。それでおしまい。
学校に入るって、私にとっては始めての経験だから本当に楽しみにしていた。
なぜ”平等に”といいながら不平等なことをするのか。
私の我慢はこういうためじゃない。お母さんを喜ばせるためなのに。
何をしてもこうやって傷つけられる、それでもお母さんの機嫌をとって楽しくいてもらいたかった。なのに…。
また私は我慢した。本当は書き直してもらいたかった。
今、私は一枚の下敷きを持っている。小学校に入った時に買ってもらったもの。
それには唯一、お母さんの手書きで”うえだもも”と書かれている。
薄くなってはその字を上からなぞり今でも捨てられないでいる。