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その日はどうも疲れ切っていた。 理不尽に怒られた。 水の量を間違えて不味いご飯が炊けた。 大皿を落として割った。 作った麻婆豆腐は洗剤の味がした。 こんな日は早く寝るに限る。 いつも通り、寝る前にコップ一杯の水を飲もうとした。 その瞬間、ふと手が止まり、驚愕した。 コップに並々注がれていたのは水ではなく洗剤だったのである。 そう、私は全く無意識でコップに洗剤を注いでいた。 もし、もしもである。 気づかずに飲んでしまっていたとしたら。 私は死んで
九月上旬の午後七時を過ぎた頃だった。 移り行く街の景色は容赦なく、今年の夏も残り僅かと喚く。 秋の虫が鳴いている。 どこからともなく金木犀が薫っている。 もうすぐ夏が終わってしまうという特に謂れのない焦りが胸中を支配する。 徒に流れる時間の速さに焦燥し、 自身の進歩の無さに憔悴する。 でも、まだ夏は終わっていない。 未だ厳しい残暑を盾に、私は醜く夏に執着する。 コンビニで弁当を買って、 大学に戻るところだった。 信号が青に変わり、横断歩道を渡る。 横断歩道の半
土を舐めるという表現について。 地元の個人病院にいったときのこと。 インフルエンザの予防接種でいつもお世話になっている小さな個人病院にいった。60過ぎのおじさん一人と3人くらいの看護婦さんで回しているため、回転効率は悪いのだが、人当たりがよく、勉強熱心で、腕がいいので毎日たくさんの人が訪れる。 その日も例にもれず1時間半程度待たされた。 待ち時間はいつも待合室に置いてあるバガボンドを読み進めるのだが、流石に途中で集中力が切れてしまうため、待合室の婆様たちの会話に耳を傾