土を舐める
土を舐めるという表現について。
地元の個人病院にいったときのこと。
インフルエンザの予防接種でいつもお世話になっている小さな個人病院にいった。60過ぎのおじさん一人と3人くらいの看護婦さんで回しているため、回転効率は悪いのだが、人当たりがよく、勉強熱心で、腕がいいので毎日たくさんの人が訪れる。
その日も例にもれず1時間半程度待たされた。
待ち時間はいつも待合室に置いてあるバガボンドを読み進めるのだが、流石に途中で集中力が切れてしまうため、待合室の婆様たちの会話に耳を傾けてみた。
前後の会話は全く覚えていないのだが、この一言だけが強烈に印象に残った。
あっごん婆さんばすっかり腰さ曲がっぢまって、土舐めでっがらよ、云々
日本語に直すと、「あそこの婆さんはすっかり腰が曲がってしまって、土を舐めている(ようだ)けれども」云々。
「土を舐める」
年を取りすぎて腰が曲がりすぎた人の形容、或いは比喩のようだ。
言いえて妙だ。
確かにいる。
土を舐めるくらい腰が曲がってる婆様。
やや差別的な意味合いを含んでいるかもしれないが、どうして的確で味がある表現だ。この「土を舐める」という言葉、なかなか気に入ってしまった。
しかしこの言葉、googleで検索しても一件も引っかからない。
少なくとも全国一般的に流通している慣用句ではないようだ。
まさか、あの婆さんのオリジナル表現ということもあるまい。
無駄にセンスがありすぎる。
結局この「土を舐める」という言葉はいまだに謎のままだ。
地元では一般的な表現なのだろうか。
次、実家に帰った時にばあちゃんに聞いてみようと思う。
——終わり
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