見出し画像

お稽古場探訪④【川瀬隆士 先生】芝礧荘

宝生流能楽師の先生とお弟子さんに
能を「習うこと」の魅力をお話いただきます。

能を習ってみたいけど、誰に習ったら良いか分からない。
先生の雰囲気を知りたい。
稽古場の情報を教えてほしい。

という方はぜひご参考にどうぞ!

第4回目は
川瀬隆士(かわせたかし)先生です。
芝礧荘でのお稽古についてお話を伺いました。

▪️川瀬隆士 Kawase Takashi
シテ方宝生流能楽師
1984年、新潟県三条市生まれ。
2002年に入門。19代宗家宝生英照、20代宗家宝生和英に師事。初舞台「右近」ツレ(2005年)。初シテ「生田敦盛」(2013年)。


──川瀬先生の稽古場情報を教えてください。
こちらは佐野登先生が現在所有されております「芝礧荘(しらいそう)」という舞台です。(※)
宝生能楽堂の上にあるマンションの一室です。
書や掛け軸など素晴らしいものが多く飾られています。

「五雲深處」と十六世宗家宝生九郎知栄先生が書かれた
掛け軸だそうです。

※芝礧荘について

私はこの芝礧荘をお借りして、月に3回お稽古しております。
お稽古日は基本的には火曜日が多いですが、お勤めの方が来やすいように、なるべく月に1回は土日にお稽古できればと思っております。時間帯は昼過ぎから夜の8時頃までです。

お稽古場には椅子もございます。

対面だけでなく、リモートでのお稽古も受け付けています。Zoomを使ってのお稽古が多いですが、場合によっては録音テープをお互いに郵送しあって、録音・添削して返すこともあります。音声ファイルをメールで送ることも可能です。

また、私は新潟県の三条市でもお稽古しているのですが、三条では月に1度のお稽古になるので、日数的に足りないということもあり、東京の稽古日に合わせてリモートでお稽古することもあります。

今、3か月間のお試しコースをやろうかなと考えておりますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせいただければと思います。

✨お問い合せはこちら✨
office159hongo@hosho.or.jp

──川瀬先生のお稽古で大切にされていることは何ですか。
「見るのも見られるのも稽古の一つです」とお伝えしています。自分のお稽古じゃないときも人のお稽古を見て、人にお稽古を見られて、というのをおすすめしています。
私自身が素人の稽古のなかで育ってきたものですから、雑多な環境でも集中するというのは修練になるかなと思います。
お稽古の制度について決まったことは何もなく、お弟子さん個人に合わせてやりやすいように相談していく形でやっています。
楽しく和気あいあいとやるのがモットーですね。


──リモートでのお稽古はどのような感じですか。
対面でのお稽古とあまり変わらないようにしていますが、やはりタイムラグがあるので、例えば、一句ずつの鸚鵡返し、あるいは、ご自身で一気に謡っていただいて、聞いて直すという感じでやっています。
お稽古で大事なことは回数だと私は思っておりまして、ご自宅でも場所を選ばずに何度もお稽古できるのがリモートの良さですかね。

謡うだけではなくて、その物語を読み解いていくことも大切だと思ってお稽古しています。謡本を読むだけでは窺い知れない演出などがあるので、この場面ではこういうことをやっていますよ、ここは敢えて淡々と謡ってください、といったように、物語の造詣を深めていただくことを心掛けています。


──先生のお弟子さんだけの発表会はございますか。
「賀隆会(かりゅうかい)」という名前で年に1回、秋ごろにやっています。私の師匠の渡邊荀之助の本名、「他賀男(たかお)」の、「賀」の字をいただきました。
ゴールを設けることは非常に大切なことだと思うので、日々の修練の成果を発表会で発揮していただいています。
舞台って緊張するじゃないですか。でも、緊張した後のお酒って美味しいじゃないですか(笑)。そんな楽しみも含めて発表会をやっています。


──先生の公演情報を教えてください。
4月の月浪能特別会では、大曲「石橋」のシテを披かせていただきます。(※披キとは特別な曲を初めて演じること)

公演情報誌の「能LIFE」で寄稿させていただいたんですけども、私は上京して今年でざっくり20年目になるんです。
あの文章だけでは書ききれなかったのでこちらで補足させていただくと、20年という節目を迎えて初めてシテとしての披キの演目を勤めさせていただくことになりましたが、20年って能の世界においてはまだまだ若手なんですよね。能楽師の家に生まれた方は、みなさん生まれたころから能に触れているじゃないですか。
なので私が20年と書いたのは、身体はもうすぐ40歳を迎えますが、気持ちは20歳のまま。まだまだこれからという気持ちでやっていきたいなと思っております。ぜひ皆様にご覧いただければ幸いです。

🌸4月 月浪能特別会チケットはこちら🌸

──これから能を習ってみたいと考えている方にメッセージをお願いします。
迷ったらやってみればいいと思います。ハードルが高い、敷居が高いと言われますけど、お稽古事として考えるならば決して高い値段設定ではない気がします。バレエやピアノを習いに行くのと比べてもそんなに差はありません。
能の素晴らしさのひとつは、発表会ではプロと同じ能楽堂の舞台に立てるんです。それができるのがピアノやバレエとは違うかなと思います。(編集部補足:プロの公演にお弟子さんが出ることはありません)
タイミングさえ合えばお家元と共演することもできますし、実際に能装束や能面をつけることもできますから。やって楽しい、見て楽しい。知れば知るほど倍になります。

【おまけ】
川瀬先生が「受け継いできたもの」についてご紹介しているこちらの記事も併せてどうぞ!


川瀬先生のお弟子さんにインタビュー

■今回お話を伺ったお弟子さん
「大人の休日倶楽部ジパング謡曲講座」での川瀬先生の講座をきかっけに、約10年ほど川瀬先生のもとでお稽古を続けていらっしゃる方。

──お稽古を始められたきっかけを教えてください。
JR東日本「大人の休日倶楽部ジパング謡曲講座」(※)に参加したときの先生が川瀬先生でした。ちょうど今くらいの春の時期ですかね。先生が花粉症なのか鼻をむずむずされていて、人間味があって安心できたのを覚えています(笑)。
実際に習ってみると、川瀬先生は声が大きいんですね。それが心地良くて、若者らしくていいなと思ったので個人稽古を川瀬先生にお願いすることにしました。

※JR東日本「大人の休日倶楽部ジパング謡曲講座」
宝生流の若手能楽師が交代で講師を勤め、宝生能楽堂の稽古舞台にて集団稽古を行っています。

──川瀬先生のもとで個人稽古を始められたのは、能を好きになったからですか。
いえ、能が好き、とまでいかなかったんですね。まだ分からない状態でした。ジパングで集団で教わっているときというのは、自分ひとりが声が出ていなくても目立たなくて、ちゃんと謡っていることにはならなかったんです。自分ひとりでも謡いたいなと思ったので個人稽古を始めました。
もともと洋楽が好きだったのですが、謡はなぜこんなに難しいんだろうと思って、もうちょっとチャレンジしてみようと思ったんです。

──お稽古をされていて良かったと感じることは何ですか。
私は結婚して、しばらく海外に住むことがあったのですが、海外の方にとって日本文化というのはお茶や侘び寂び。歌舞伎を知っている人もいますが、能についてはなかなか出てこないんですよ。
私もそのころは能について知っていたわけではありませんでした。ちゃんと日本のことを伝えたいなという気持ちがあったのに、私は知らなかったんですよね。知らないと伝えられないからと思って気になってはいたんですけど、そのままになってしまっていて。能を毛嫌いしていたというか、眠くなっちゃうだけのイメージでした。日本に帰って来て、こういった能の謡教室で習い始めると、だんだん能を好きになって観るようにもなりました。

全く能の知識がない状態で始めたので、習うことはとても新鮮に感じます。ここに来るときは違う世界にぽんっと入ったような気がするんです。
自宅のマンションでは謡の練習をしようと思っても大きな声を出せないですが、お稽古場に来ますと先生が面と向かって大きな声で謡ってくださるので、負けないように大きな声で謡おうとするとすごく気持ちがいいんですよね。
仕舞は舞台で練習ができるので恵まれた環境だと思います。家では壁や家具にぶつかってしまうので練習がうまくできないんです。いろいろな先生がいらっしゃいますが、練習の場所がここ(芝礧荘)であるというのも大きな魅力です。

──普段からお稽古には着物でいらっしゃっていますか。
今日は特別に頑張って着てきました(笑)。最初は着物で毎回来ていたんです。日本文化の一つとしてね。着物を着られるようになったので、じゃあ、着られる場所はどこかな、ということで、能を着物で観に行っているうちに、お稽古も着物で行けるかなと思って最初はずっと着物で来ていたんですけど、仕舞の練習になると着物では動きにくくてやめちゃいました。

──川瀬先生のお稽古はどのような感じですか。
先生は怒らないのですごく安心感があります。自分に自信のないことをちょっとでも言われてしまうと、私の場合は引いてしまうんですよね。
だからといって、先生はベタ褒めはしないです。そのまんまの感じ。それが居心地がいいんです。

──川瀬先生の舞台を観に行かれることはございますか。
ここで能をされるときは観ていますし、新潟の三条や金沢にも行ったことがあります。いろいろな舞台を観に行けることが面白いです。能を観に行って、ついでに美味しいものを堪能したりしています。
ただ、一緒に能を観に行ける人がなかなかいないんですよね。能を習う人の人口が増えたらもっと楽しいのになと思います。
お茶やお花をするのと同じように、選択肢の一つとして仕舞や謡を習う感じになっていったらいいですよね。

──習っていると舞台の楽しみ方は変わりましたか。
前回まで「竹生島」の謡と仕舞を数ヵ月習っていまして、ちょうど今年の1月と2月に上演されていたので観に行けました。習った部分を舞台で観ることができ、全く素人では分からなかったことが少しずつ分かるようになってきたのが嬉しいですね。

──初めて発表会に参加されたときはいかがでしたか。
思い出したくないんです…(笑)。面白いのが、2回目の発表会のときは、1回目のことは忘れたいんですよ。少しでも良くなったと思いたいから。3回目のときには2回目も忘れたくて。自分では上手くできていると思っていても、実際の自分をビデオで見ると違っているんですよね。
発表会が重なるうちに過去のことは忘れて今の自分と次の目標は何かと、後ろを見ていてはだめだと思いました。発表会がないと普段のお稽古も頑張れないです。

先生が工夫して、いろいろな場所で発表会を開催してくださっているんですよ。普通であればとても舞台には上がれないような金沢の舞台でもできましたし、新潟でもありました。今年は神楽坂にある矢来能楽堂で舞えるので、それだけでもすごくテンションが上がっています。
変化があった方が気持ちも変わって楽しみが増えます。後でその場所に能を観に行くと、私はあそこにいたんだなあと、嬉しくなりますね。

他のお弟子さんとは普段、接点はあまりありませんが、発表会でお会いしたときはすごく刺激を受けます。8月に佐渡で合同の浴衣会がある予定でして、他の先生方のお弟子さんたちの発表が今からすごく楽しみです。

──周りで能を習ってみようかと悩まれている方がいたらどのようにお声がけされますか。
私は最初、能を習うことは敷居が高いと思って、すごく不安でしたが、実際に始めたら何もいらないんですよね。扇1本は必要にはなってきますが、最初は無くてもお借りすることができます。大きな声を出して動く機会がなかなかないと思うので、とりあえずボイストレーニングや立ち居振る舞いの見直しと思って参加したらいいんじゃないでしょうか。
来て体験してみなければ分からないんですよね。だからどんどん見学に来てくださる方が増えたらいいなと思います。


インタビューにご協力いただきありがとうございました!

インタビュー日時:3月7日(水)、芝礧荘にて。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?