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クマの夢 〜マワリテメグル 循環する いのち〜

北の大地 北海道では森に住むクマの気配に
東北の旅では 黄金色に染まる 稲穂たちの
美しい田園風景に 道すがら沢山 出会いました。

かつて浅間山麓に暮らしていた頃に
書き記したクマと お米作りに まつわる文章を
初めての方も増えてきたので
久しぶりにシェアしてみようと思います。

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『マワリテメグル 〜循環する いのち〜 』

〜クマの夢の章・北軽井沢編〜

クマの肉を いただいたことがある。
その頃、私は浅間山麓の北軽井沢に暮らしていた。浅間山麓の森が 秋から冬へと装いを変える頃、当時の仕事先の同僚が 地元の猟を趣味とする男性からクマの肉をわけていただいたのだ。
クマの肉をいだたくのは 一緒に居合わせた4人皆にとって初めてのことだった。

わたしたちはクマ鍋にして クマの肉をいただくことにした。鍋を囲み時間をかけて じっくりと煮込む。街のスーパーで手に入る市販の牛や豚の肉とは異なり、野生の森を生きたクマの肉は 柔らかくはなく食べやすいものではなかった。よくよく噛んで 噛みしめ 味わいながら私たちはクマの命をいただいた。

それから、しばらくしてからのことだった。
私は、これまで体験したことのない不思議な感覚の中にいた。そこらにある机や椅子を片手で軽々と持ち上げヒョイと投げ出してしまいたい衝動を感じていた。まるで子供の遊びのような無邪気な調子で いつもより格段と力持ちになった心地だった。そして、いつもに増して 一緒に食卓を囲む仲間たちの存在を 愛おしく感じている自分がいた。深い安心と連帯感。ゆったりとした時間の流れが、そこにはあった。どうやらクマの肉をいただいたことが 私にクマの意識の一端を体験させているようだった。

このような体験は初めてのことだった。感じていることを 居合わせた仲間たちに話をしてみると、面白いことに全員が同じような感覚と体験を共有しているようだった。人のカタチをしたクマが4人仲良く食卓を囲んでいる。それはそれは平和で牧歌的で なんとも愉快な夜だった。

その夜、私は夢をみた。

湖がある。四方は森で囲まれている。湖面からは昇り龍の如く水流が空に向かって勢いよく噴き出している。何かしら地殻変動が起きている様子だ。森は燃え盛り、真っ赤に炎上している。山火事だ。湖の南側や、北側の森は炎に包まれている。東側や、西側の森まで着実に火の手が広がっている。炎から逃れようと私は試みる。しかし、四方を炎で 隈なく包まれた森を 観て悟る。もう逃げ道はないと。

そこにはもう悲しみや怖れはない。ああ、これで最後だという宿命を受け入れた 静かで透明な諦めがあった。ああ、これはクマの夢ではないかと私は直観した。人である私にクマの見せた夢。

翌朝、夢のことを仲間たちに話をすると、また彼らも印象的な夢をみていた。ある友は、蜂の巣の 蜂の子を食べる夢を。ある友は親子で一本道を歩いていく夢を。死に逝くために歩いていく。悲しみも怖れもなく重い印象はなかったと云う。訪れる死を受け入れ 覚悟して歩いていく。それは私が見た夢で感じた印象と共通しているようだった。私たちが命をいただいたクマは もしかしたら予め捕えられる前から 自らの死を覚悟していたのかもしれない。

森に生きたクマの命は『食べる』という行為を通じて私たち人間に受け継がれて、私たちの一部となったような氣がした。クマの力強さや、優しさや暖かさはカタチを変えて私たちの中に生きつづけるのかもしれないと思えた。

それから時々ふと私は クマのことを思い出す。今年は森で食べることに困っていないだろうか。幸せに暮らしているだろうか。テレビのニュースが長野駅や金沢駅などの街中にクマが出現したと知らせるたびに、クマの運んできた 私たち人間へのメッセージは何なのだろうと 自然と私は心の声に耳を澄ませるのだ。(文章 2014年)

田園の夢の章・小諸編へ つづく

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