伊藤調さん「ミュゲ書房」を読むとちいさな本屋さんに行きたくなる
――そこは、人も物語も再生する本屋さん(ミュゲ書房帯コピーより)
伊藤調先生の「ミュゲ書房」(角川書店)を拝読しました。
本屋さんにこの装画が並んでいたら、絶対手に取りたくなる…!とまず思いました。装丁イラスト担当は、私の著書「金沢洋食屋ななかまど物語」の装丁イラストも手掛けてくださったくじょう先生です。
そんなご縁を感じながらも、夕方入手して、帯などから物語のあらすじを知ると、夜までには先が気になり過ぎて読み切ってしまっていました。
あらすじ
小説投稿サイトで大賞をとった新人作家、広川蒼汰をうまく書籍化デビューさせられなかったことで、責任を感じ、丸山出版を退職した二十代の若手編集者、宮本章。折しも章の祖父がそのころ亡くなり、章は祖父が経営していた北海道A市のちいさな書店「ミュゲ書房」をなりゆきで継ぐことになった。
章は、本が大好きで幅広い知識を持つ女子高生の永瀬桃や、頼りになるA市の副市長山田、ミュゲ書房でときどきカフェを開く大学生の池田、祖父もお世話になっていた中年女性の菅沼らに囲まれながら、ミュゲ書房の経営を軌道に乗せていく。
書店仕事のかたわら、小説投稿サイトからもアカウントが消えた広川蒼汰のこと、そして書籍化できなかった蒼汰の作品「リベンジ」のことがどうしても気になる章。
ミュゲ書房は編集・出版業も手掛けることとなり、A市市長の原稿『A市再生プロジェクト』や副市長の自伝の原稿なども抱えながら、奮闘する章。はたして、ミュゲ書房はこの先うまくやっていけるのか――?そして、広川蒼汰はいまどこで何をしているのか――?
本を愛する人なら、この物語を楽しめることは請け合いです。
一気に読み切ってしまって、でももう一度初めからページを開きたくなる、とても魅力的な物語でした!
個人書店業界や出版業界の裏側がのぞける面白さが肝である本作品ですが、物語を貫く「書籍化できず消えた新人作家、広川蒼汰」はいまどこに、という謎にひっぱられて、ページを繰る手が止まりませんでした。
小説「ミュゲ書房」のなかには、たくさんの「これ、読んでみたいなあ」という本がちりばめられていますが、本の最後に「参考文献」として一覧で見ることができるリストもついております。親切……!
そして、私が何よりもこの物語で面白いと思ったのは、広川蒼汰の謎と正体はもちろんのことですが、個性的な蒼汰の「リベンジ」という小説原稿を「カタルシスある王道のラスト」に修正させたい丸山出版の後藤編集長と「それでは広川蒼汰の個性が損なわれる」と反論する章の攻防でした。
小説を商業出版するということは、やはり売れ行きという結果を度外視して決められるものではありません。
ただ、乱暴な改稿を求められて、作品が死んでしまうようでは、元も子もありません。
その微妙で難しいやりとりを、詳細に描いておられて本当に読んでいて、一読者としてはどきどきはらはらしました。(自分のことも省みて、手に汗握りました)
物語のラスト、広川蒼汰の作品は、果たして無事世に出るのか。そのあたりの展開も、とっても面白くなっておりますので、どうぞお楽しみに。
出版するって、編集するって、どういうことか?
作家側は、何を覚悟して、どんな意志を持って書き続ければいいのか?
そのようなことをすごく考えさせられました。
文章もすごく読みやすく、ごくごく飲める水のように体に入っていきます。
「ミュゲ書房」とても面白い作品だったので、ぜひお手にとってみてください。
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