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5歳に求婚された話。/恋は、日本の国技だと思う。

君が思い出になる前に もう一度笑ってみせて
優しいふりだっていいから 子供の目で僕を困らせて
   ースピッツ「君が思い出になる前に」
    作詞:草野正宗

皆さんは〝恋〟してますか?
私は最近していないです。残念ながら。笑
時間がなくてね。なーんて。。。

でも、恋ってすごいなと思う。
その人のためなら何だってできる。
普段の自分以上の力を、勇気を、振り絞れる。
だから生涯を通して、人は恋をすべきだと思う。
もちろん無理せず、できる範囲で。
対象は何だっていい。人でもモノでも。
それが自分の力となるならば。

古より、人は恋をしていた。

人類は地球が誕生した時から、
交わり、愛し合い、子孫を繁栄させてきた。
太古の歴史より、記録には残らずとも、
記憶に深く深く刻み付けられる
多くのストーリー・ドラマがそれぞれにあったはずだ。

学者によって見解は異なるが、
世界最古の恋愛長編小説は「源氏物語」である。

この小説では、千年程前の恋物語が描写されている。
登場する主人公「光源氏」は多くの女性と様々な恋愛を繰り広げる。
ある時は義母に、ある時は兄嫁に、
またある時は庶民と身分違いの恋をしたり・・・
またある時は10歳の少女を見初めて育成したり・・・
こうして見ると、結構〝えぐい〟。

ただ一つ言えることは、
「古より、人は恋をしていた。」

源氏物語でも、主人公は様々な人に恋い焦がれ、
その度に必死に闘い、もがき苦しんだ。
小説はもちろん空想の世界である。
しかしそこで体現された世界は、
その時代の作者の〝想い〟が詰まっている。
正に世相を映す鏡であろう。
同じ時代を生きた者ならば、
例え名も知れぬ一般人であったとしても、
誰かに恋い焦がれ、必死に闘い、
もがき苦しんだことは、想像に難くない。

そんな〝恋〟をしている人は、
純粋に〝かっこいい〟と思うし、
その姿勢は茶化すものではない。
尊重すべきものである。

純粋な君の瞳に私は

そんな自分には最近、
〝気になる女性〟がいる。
家の近所に住む
ゆうちゃん(仮名)
である。

ゆうちゃんは5歳の女の子だ。
私の家の近所に住んでおり、よく挨拶してくれる。
そしてとても活発でフレンドリーで、
休日には一緒に遊んだりもする。

非常に仲が良いのだが、
時折〝大人〟な一面を見せる。

『気になる男の子がいる。』
だとか、
『〇〇くんと手を繋いだ。』
だとか。

恋い焦がれる純粋な彼女の瞳に、
私は忘れかけていた恋を思い出しそうになった。

そして「やっぱり最近の子は大人っぽいな」とも思った。
この情報化社会、以前に比べ、
あらゆる情報にアクセスするスピードが速い。
多くの小学生が具体的な職業を志し、
YouTuberやプログラミングの学校に通う時代である。
人生は短い。
だから、一年一年より濃い時間を過ごすべきである。
だから、大人へのスピードを加速、
これには大賛成である。

とはいえ、そのベクトルがまさか自分に向けられるとは、
さすがに予想していなかった。

『一緒に住もう。』

その日もゆうちゃん(5)とキャッチボールをしていた。
師走も終わりに差し掛かり、
風が吹き荒れていたことを、今でも覚えている。
小一時間ずっとキャッチボールしたっけ。
小さな子の体力は本当にすごい。
思わずギブアップして小休憩。
「自分は小さい頃こんなんだっけ?」などと考えながら、
ゆうちゃんママに出してもらった温かいココアを飲みつつ、
二人で一息ついていた。

そうしたら彼女が話し掛けてくる。
『ねえねえ、お兄ちゃんは付き合ってる人いるの?』
「うーん、今はいないよ。」
いや今も昔もクソもねえだろと思いながら回答した。
『ふーん・・・そうなんだ・・・』
何だかちょっと嬉しそうな彼女の表情。
少し不思議には感じたが、最近の子はよくわからない。
「まあ好奇心から来た質問だろう」と解釈して、
ココアをもう一口啜った。

そうして、一瞬間が空いた。
私がココアを飲んだからかもしれないし、
彼女が決心を固めるために、
必要な時間だったのかもしれない。

『ねえお兄ちゃん・・・』
恥ずかしそうに、彼女が口を開いた。
「どうしたの?」
その表情は、普段の元気なゆうちゃん(5)のものではなかった。
だから私は、思わず真面目に問い掛けてしまった。

また一瞬間が空き、彼女から出てきた言葉は、
『あのね・・・一緒に住もう・・・』
という信じられないものだった。

なかなか大胆なプロポーズである。
正直驚いた。だけど、純粋に嬉しかった。
自分に好感を持ってくれたことだけでなく、
彼女が恋をしていること。
勇気を振り絞ったこと。
純粋に〝かっこいい〟と思った。

しかし私の思考は、そこで現実に戻される。
いや待てと、さすがに5歳と25歳の恋愛は犯罪やろうと。
源氏物語の時代なら良かったかもしれないが、
いやあるいはその時代でも御法度ではあったかもしれない。

だが目の前にはゆうちゃん(5)の純粋な瞳がある。
裏切れない。できるだけ尊重したい。
でも法律には従いたい。
私は人生の岐路に立たされていた。

恋は、日本の国技だと思う。

私は、恋は日本の国技だと思っている。
古より、美しい恋愛小説が描かれ、
多くの名も無き人々がその文化を紡いできた。
もちろん他国でも、それぞれのストーリーがあっただろうし、
それぞれの国に、それぞれの国技たる恋が存在していると思う。

彼女もその国技をこれから形作っていく張本人であり、
文化を形成していく一員である。
だが法律の壁は厚い。
私は彼女に対し、丁重に断りを入れることにした。

「ゆうちゃん・・・気持ちはとても嬉しい。」
「だけど、日本では少し早すぎると思う。」
「ゆうちゃんはこれから大人になるまで、いろんな人に出会うと思う。」
「だからいろんな経験をして、他に素敵な人を探してほしい。」

少し残酷だったかもしれない。
でも断るしかなかった。
これが日本の現実である。

しかし、伝えた後の彼女からは予想外の言葉が返ってきた。
『お兄ちゃん!住もう!!!!!』
伝わらなかったのかな。。。

私がもう一度簡単に説明しようとすると、
彼女は私に馬乗りになってきた。
なるほど、実力行使か。
この子は肉食系だな。。。

傍から見ると奇妙な体勢になった私達だが、
そんなことお構いなしに、彼女は叫ぶ。
『お兄ちゃん!相撲!どすこーい!!!』

その時私は気づいた。
「これは日本の国技だ・・・」と。

お後がよろしいようで。









※このnoteはフィクションかも・・・しれません。

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