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レイア姫の日記

文筆家としてのキャリー・フィッシャーが好きだ。

自らの波乱万丈な人生(なにしろ母親は大人気女優、父親は売れっ子歌手。本人曰く「アメリカン・スウィート・ハートと呼ばれていたカップル」の第一子として生まれたものの、実は底なしのダメ男だった父親がキャリーと弟と母親を捨ててエリザベス・テイラーの元へ走るなど、現実は初っ端からハードモードだった)を
「姐さん、客観的すぎるのでは?」
と、驚くドライさと
「姐さん、ギリギリを攻めすぎでは?」
と、おののくユーモアを交えて書いている。
面白くないわけがない。

ただし、キャリーの英語の癖は強めだし、日本語訳は2冊くらいしか出ていないし、それらも絶版になっている。(古本は高い。)
頑張って英語で読むしかない。

ちなみに父親のダメ男ぶりは、キャリーが友達と薬物にハマっていた時に、娘のところへ説教に行ったくせに、そこで自分も一緒に薬物に浸るというエピソードひとつで伝わると思う……。

☆☆☆

文筆家キャリー・フィッシャーの遺作となった「The Princess Diarist」を読んだ。
これで3回目である。

上述したようにキャリーの英語は癖があるので、私の英語力だと一回読んだくらいでは理解しきれず、3回目でも新しい発見がある。
まあ、そうでなくても、何度読んでも面白い。

例えば、若き日のキャリーはジョージ・ルーカスブライアン・デ・パルマに同時に会って、レイア姫キャリー(キング原作の青春オカルト映画)の両方のオーディションを(私の読み間違いでなければ、同じ日に同じ場所で)受けている。
「もしキャリー役に選ばれていたらキャリーがキャリーでキャリーを演じていた」と自ら書くあたりがキャリー姐さんである。

例えば、レイア姫のあの髪型(2時間かかる)のせいで他の人よりスタジオ入りがダントツで早かったキャリー。
スタイリストに普通の髪型じゃダメな理由って何?的な愚痴をこぼす。
スタイリストの「……outer space(宇宙空間)だから?」というテキトーな返事がうける。
ルークとハン・ソロは普通の髪型ですよね???

あの髪型のネタはテッパンなので、キャリーの筆もノリノリである。
ジョージ・ルーカス達はあのサイズオーバーなシナモンロールパンで私のほっぺを両側から挟むことでブックエンド的な働きを期待したに違いない、とか。
自分の体重は(監督たちに)減量を求められるほどではない、ただその約半分が顔についてるだけで、とか。
いくらでもネタがあるようだ。

まあ、でもこのエピソードがいちばん面白いよね。
そして、あの髪型はとてもiconicになった。

しかし、この本の中でもっとも力が入っているのは、エピソード4撮影中のハリソン・フォードとの3ヶ月の不倫関係についてだろう。

撮影が始まった頃は、ハリソンのことを無口で怖い人のように思っていたキャリーが、彼と恋におちたエピソードは、理想の父親像を拗らせていたであろう19歳のキャリー(だって、実父があれ……)が、不倫と知りつつもクラッシュするのも無理はないと、むしろ同情してしまうものだった。
(19歳のキャリーより15歳以上年上だったハリソンは、大人としてもうちょっと配慮をしたまえ……。)

いや、理想の父親像を拗らせていなくても、相手はあのハン・ソロを演じていた頃のハリソン・フォードなのである。
恋におちない方が難しいのではないだろうか。

その証拠(?)にキャリーが本書で描写している当時のハリソンの姿は、致死量を超えるレベルに罪深くて格好いい
40年間、自分とハリソンだけが知っている秘密として、独り占め(?)してきたのもわかる。

それを最終的に本に書いたのは、文筆家としての性(さが)なのか、虫の知らせ的なことなのか(キャリーはこの本が発売になる直前に急死している。)、エピソード7にハリソンと再び一緒に出演することになって「カミングアウトするなら今だ」と決断したのか……。

まあ、そのどれでもいいんだけど、もっと長生きして、演じたり書いたりして欲しかった。

エピソード4の公開に合わせて全米でキャンペーンをやった時の話(大学で哲学を専攻したハリソンのような巧みな引用をしたくて試行錯誤したものの、結局、諦めた)とか、コミコンの話(You’re my first crush.と言われまくるけど、彼らの初恋はレイア姫であってキャリー・フィッシャーではない)とか、低予算映画だった最初のスターウォーズが世界的に大ヒット作になっていく過程やその後を当事者として綴った話もとても興味深い。
あのギリギリを攻めた筆致で、エピソード7の撮影話とかも書いて欲しかった。
本当に惜しい。

それにしても、スター・ウォーズの中でレイアとハン・ソロのロマンチックなシーンを撮影していた時には、既に二人の関係は終わっていたというのだから、俳優って(いろんな意味で)すごい職業だなと思うのだった。

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