拝啓、雨隠ギド先生へ
『甘々と稲妻』が遂に最終回を迎えました。全12巻。私はこの作品に出会っていなければ、違った人生を送っていたといっても過言ではありません。
なので、このnoteは、雨隠ギド先生への公開ファンレターの形を取ります。もちろん、後でファンレターも送ります。
プチ絶縁していた母との和解
私は、母と少しの間、プチ絶縁をしていました。
しかし大学を卒業して間もなく、鬱病を抱えながら、たった一人で暮らすというのは無理があり(私の鬱に拍車が掛かった原因が、両親の病気への理解のなさであることは置いておきます)、案の定立ち行かなくなった私は、実家へ戻ることを余儀なくされました。
私としては不本意な形での実家への出戻りでした。母からも、「どう私と向き合っていいか分からない」といったオーラを感じました。
そこで私は、『甘々と稲妻』の力を借りました。
「お母さんの作ったご飯が食べたくなって、戻ってきました」。
手にはもちろん、コミックスの付録のお弁当箱を持って。
母の手料理を食べたくなったのは事実です。
鬱を抱えながら自炊が出来るほど、私は強くありませんでした。
ちょうどアニメ版の放送期間だったこともあり、「皆で食卓を囲む」という行為に飢えていました。
公平さんや小鳥ちゃんが、愛情をたっぷり詰め込んだごはんを、つむぎちゃんがキラキラした瞳で食べている姿を観て、あれほど拒絶していた実家に、「帰りたいな」と思うようになりました。
幸い、母も受け入れてくれました。一緒に『甘々と稲妻』に出てきたメニューを作ることもしました。
今、私と母がなんだかんだありながらも、上手くやっていけているのは、『甘々と稲妻』がなければ有り得ないことでした。切っ掛けを作ってくださったギド先生には、感謝してもしきれません。
初めてのオフ会
私は友人が多い方ではありません。
しかし、この作品を通じて、年齢も住んでいるところもバラバラだけれど、友人が2人も出来ました。
3人で『甘々と稲妻』のアニメイベントに行った後、「夕飯をどこで食べるか」という話になりました。満場一致で、武蔵境が選ばれました。
聖地に降り立った興奮を、今でも忘れることはできません。
3人とも八木ちゃんが大好きだったこともあり、「一番八木ちゃんのお店の雰囲気に近いところで夕飯を食べよう!」と、すきっぷ通りを念入りに探索しました。
武蔵境の図書館も見学しました。そこでカフェコーナーを見つけた私は、「小鳥ちゃんなら、"勉強しにきたんだからここで食べちゃいけない!でも美味しそう!どうしよう"…って迷いますよね?!」とオタク特有の早口で演説をし、見事、共感を得ることが出来ました。
驚いたのは、そのようなやり取りが、後日原作に登場したことです。もしかしたら友人のどちらかが、ギド先生なのではないか?と疑いさえしました。
武蔵境での我々の探検は留まることをしらず、「学生服はここで仕立てられたのだろうか?」、「このコンタクト屋さんで小鳥ちゃんはコンタクトデビューしたに違いない!」など、様々な談義で盛り上がりました。
あの楽しかった日のことを、私は一生忘れません。
そもそも『甘々と稲妻』のどこがそんなに好きなのか
飯田小鳥ちゃんの痛バを自作する私
『甘々と稲妻』が好きな要素はたくさんあります。「飯田小鳥ちゃんがとても可愛いから(おそらく小鳥ちゃんの痛バを持っている人は私しかいないと思います)」、「つむぎちゃんはあんなに幼いのに感情移入が出来てしまうから」、「公平さんを応援せざるを得ないから」…挙げたらキリがありません。
しかし、私の中で一番決定的なのは「敢えて哀しくしない作品である」という点です。
この物語は、「妻を亡くし、男手一つで女の子を育てなくてはならなくなった男性の話」(公平さん)であり、「幼い頃に母親と死別し、多忙な父親に寄り添って暮らす少女の話」(つむぎちゃん)であり、「両親が自分のせいで離婚したと思い、怖くて包丁が握れないけれど、食べることが大好きな女子高生の話」(小鳥ちゃん)であり、「親友と幼馴染みが結婚をし子どもも授かったにも関わらず、幼馴染みが他界してしまい、どう助けたらよいか迷いあぐねている男性の話」(八木ちゃん)でもあります。
彼らは想像力が豊かで、つい、自分のことを後回しにし、他人のことを考えてしまいます。
哀しく描こうと思えば、どれだけでも哀しくできる題材です。しかし、ギド先生はその道を選びませんでした。
「美味しいごはんを皆で作る」、「美味しいごはんを皆で食べる」に焦点を当て、その美しさや大切さを丁寧に紡いでくれました。
哀しい話の方が、共感を呼びやすい世の中に感じます。
「泣ける漫画」、「泣ける小説」、「泣ける音楽」、「泣ける映画」などの言葉が蔓延する時代に、「美味しい」と「楽しい」と「幸せ」で闘ったギド先生の勇気を尊敬しますし、その闘い方に私は感銘を受けました。
「この作品は絶対に最後まで読まなければならない」と心に誓いました。
最後まで読むことができたことを、心の底から嬉しく思います。
物語はここで終わりますが、公平さんやつむぎちゃん、小鳥ちゃん、八木ちゃんたちの人生は、まだまだ続いていきます。
武蔵境に足を運んだとき、中央線に乗ったとき、金沢に行ったとき…ふとした瞬間に、私は皆のことを思い出します。
そして、「今日はどんな夕飯が待っているのだろう」と、我が家の食卓に想いを馳せます。
私は料理が苦手ですが、いつか両親に、「いろいろあったけれど、大切に育ててくれてありがとう!大好きだよ!」のメッセージを込めたフルコースの手料理を作ろうと決めています。そのメニューは、『甘々と稲妻』を参考にさせてください。
こんなにも心が温まり、お腹が空き、前を向いて生きていこうと思わせてくれる作品に出会えた奇跡に感謝をしながら、私も、作品の皆に負けないように、美味しいものをたくさん食べます。
掛け替えのない作品を、ありがとうございます。
【了】
もしこんな公開ファンレターを読んで、作品を読んでみたいという人がいたら、漫画もアニメもレシピ本も全部、手に取ってみてください。後悔はさせません。