台湾に恋して
社会人になる前に、どうしてもやりたかったことがある。
それは、「台湾」の地に飛び込むことだった。
本記事は、大学生活の終わりに訪れた、9日間の台湾旅の記録だ。
旧正月
2018年2月11日。
私は一人台湾へと向かっていた。
深夜に日本を出発して、台湾桃園空港に到着。
空港にあるモニュメントを見て、今が特別な時期であることに気がつく。そう、この時期は旧正月だったのだ。
最初の洗礼は、入国審査での一コマ。
滞在先の住所を尋ねられたものの、住所が分からず、入国審査にしばし引っかかる。電波がないため、調べることも叶わない。旅の幕開けにして、すでに怪しい雲行きだ。
無事審査を通過して、次に向かうは両替カウンター。一万円を台湾ドルに換えると、手元には2500元。大体4倍で計算すると、日本円でいくらかがわかってくる。
空腹のお腹を抱えながら、さっそく地下鉄へ向かう。空港から台北市内までの運賃は160元。日本円にして約640円だ。
地下鉄の車内は清潔感たっぷりで現代的なのだが、座席は固いプラスチック製。クッションの座席とは異なり、座ると凍てつくような寒さを感じる。
長距離フライトで疲れたお尻を、冷気が更に刺激する。
寒さに震えながらも、ようやく台北に到着。その瞬間、ふと過去に訪れたフィリピンのセブ島が頭をよぎった。
台北はすっきり整った交通網に、どこか落ち着いた街並み。誰もが整然とした秩序を守っている。
でも、セブのカオスな魅力も少し恋しい。
そんな余韻もつかの間。
どこかで温かいものを…とさまよいながら、駅近くで「黒糖タピオカ」の看板を発見。見た瞬間、足が勝手にそちらへ向かっていた。
ストローを刺して一口飲めば、思わずひとりうなずいてしまう。
温かな甘さが心までほぐしてくれるのを感じていると、次なる獲物が目に入った。そう、「パクチー入りの肉まん」だ。
思い切って一口。…その瞬間、思わず唸った。肉汁と混ざり合ったパクチーの香りが絶妙で、今までの若干の苦手意識が崩れ落ちていく。
その後もいくつかのグルメを食べ漁る。
その後は今回の滞在先のホストと合流。
以下の記事に詳しいが、この台湾の旅もカウチサーフィンというサービスを使い、ホストの家に無料で泊めてもらうことになっていた。
旅の交通費は往復2万円以下。滞在費はタダという旅だ。
滞在していたのは台北という場所。
心優しくもてなしてくれたホストには感謝してもしきれない。
初対面のため、お互いのことについて話しながら、近所のコンビニで夜ご飯を食べた。
緑のベール
その後は、ホストと次なる目的地へと向かう。
次の目的地は猫空(マオコン)
この場所は今でも忘れられないスポットの一つだ。
暗くて写真を撮影できなかったため、記憶を頼りに画像などを再現してみることにする。
ほとんど誰もいない夜にゴンドラに乗ったこと。台湾初日だったこと。初めましてのホストに案内してもらったことなど、非日常感も印象的だったのだろう。
しかし、最も自分の記憶に刻み込まれたのは、この猫空全体が纏う緑のベールだ。
ゴンドラの中から、鮮やかに広がる緑の山肌がゆっくりと近づいてくる。
都会の喧騒が遠ざかり、静寂の海が広がり始める。
その時ふと、かすかな茶葉の香りが、風に乗って漂い始めた。
茶畑の広がる山頂へと到着すると、そこはまるで別世界。
茶の香りを纏った、緑のベールで満たされている。
深く息を吸い込むたびに、空気となった茶畑が体の奥に染み込んでいく。
柔らかな香りが深い安らぎを与えてくれる。
全身が緑で満たされ、心の奥深くがゆっくりとほどけていくようだ。
こんなにも深呼吸が心地良い場所を、自分は他に知らない。
二つの軍儀
翌朝は寝坊してしまい、遅めの起床。
起床後、ホストと共に台湾の伝統的な朝食を食べた。
どちらも非常に食べやすく、朝食にぴったりだ。
ホストが食べる前に、何やら箸を擦り合わせている。箸を使うときには、バクテリアを取り除くために、箸同士を擦るのが台湾流らしい。
台湾の人々はこうした小さな習慣を大切にしている。
食事も旅の楽しみだが、こうした小さな文化の違いなども面白い。
ホストとはここで一旦別れ、市内の観光へと向かう。
英語圏とは異なり、バスに乗るのも一苦労。どのバス停で降りれば良いのかかなり迷った。
余談だが、台湾のバスは異常に揺れる。まるでジェットコースターのように急発進と急停車を繰り返す。
周りの人は当たり前のように乗っている。
台湾の人たちのフィジカルレベルと体幹は相当なものだ。
無事市内中心部に到着。
台北には例えば以下のような観光スポットがある。
初日は中正紀念堂のエリアを中心に観光。
内部では衛兵の方達が、軍の儀式のようなものをしている。
一方、中正紀念堂の周囲では、人々が集いボードゲームなどをしている。ハンターハンターの架空のゲーム「軍儀」に似ており、興味をそそられた。
人が自然と集う場には、何とも言えない幸福感がある。
おそらくこのゲームは、「象棋」(シャンチー)と呼ばれる中国版の将棋のようなものだと思う。
周囲の庭園は自然と動物、人が調和し、とても和やかだ。
夜は市内の繁華街のような場所を散策。
勝手に台湾の原宿と命名させていただいた。
ここで感動したのが、確かフカヒレスープだったか。寒い体に染み渡る美味しさだったことを覚えている。
十と九
翌日は、台北市内から少し離れた観光スポットへ向かう。
十份(シーフェン / Shifen)と九份(ジウフェン / Jiufen)と呼ばれる有名な観光スポットだ。
まずは十份(シーフェン / Shifen)から。
有名な「十份滝」も見に行った。雄大な自然に囲まれたその滝は、台湾のナイアガラとも呼ばれている。
次に向かったのは九份(ジウフェン / Jiufen)
夜になると徐々に明かりが灯され、映画のワンシーンに飛び込んだかのような不思議な感覚になる。
途中で地元のお茶屋さんに立ち寄り、緑茶を試飲。すっきりとした味わいが喉を潤す。
日が完全に暮れた時、目の前に広がる景色は絶景だ。
一度も来たことがない異国の地のはずなのに、どこか懐かしく、なぜか心惹かれる。
音のない世界
翌日は台北市内から移動し、少し離れたエリアへと向かう。
朝早くからバスステーションへ向かい、チケットを購入。相変わらず交通費が安くて助かる。
観光ガイドでおすすめされていた登山と温泉が目的だったのだが、駅に到着すると人がほとんどいない。
駅から離れて山を目指していると、人の気配、物音も減ってくる。
静まり返った温泉街を歩くのもまた一興だと思いつつ、目的地の登山エリアに到着。そこからはひたすら山頂を目指す。
今振り返ると、一体自分は何をしていたんだろうと思う。
目的などはなく、ただひたすらに山頂を目指していた。そういう時期だったのだ。
周囲には誰もいない。
山頂に近づくに連れて、次第に音がなくなっていく。登山をする度に思うのだが、音のない山頂付近に辿り着くと、まるで異世界に迷い込んだような感覚になる。
山頂付近に聖母山荘と呼ばれる場所があったが、日本でも古くから山を神聖なものとして扱っているのは納得がいく。
そしてついに、山頂へと辿り着いた。
山肌も美しく、神々しささえ覚える。
何かがここに宿っているのではないか。
音のない世界は、そう思わせるのに充分だった。
祈りの文化
人が祈っている姿に美しさを感じる。
なぜそう感じるのかはわからないが、昔からそうした感覚があった。
この日は「関渡宮(Guandu Temple)」という寺院があるエリアを訪れた。
周囲には大きな川が流れ、風が気持ちの良いエリアだ。
鳥たちがこの寺院の壁で羽を休めており、その数が凄まじい。
鳥たちもこの寺院に居心地の良さを感じたり、何かを感じ取っているのだろうか。
財運のご利益があるとのことで、早速寺院と、その内部の洞窟に足を踏み入れてみる。
黄金色に輝く洞窟は本当に見事で、財運のご利益があると言われるのも納得だ。洞窟を通り抜けると、さらに寺院は続いている。
旧正月ということもあり、たくさんの人たちが参拝している。
寺院の装飾、建築ももちろん美しいのだが、それと同じくらい人々が祈る姿が美しい。
黄金水岸
「関渡宮(Guandu Temple)」を観光した後は、近隣エリアの淡水(タンシュイ / Tamsui)を訪れることに。
このエリアまで川沿いを自転車でサイクリングすると気持ちが良いとのことだったので、その通りにした。
川沿いを自転車で走るのは確かに気持ちが良い。
淡水エリアには台湾ならではのグルメなども多く、日本の鎌倉に似た雰囲気がある。勝手に台湾の鎌倉と命名させていただいた。
そうこうしていると、金色水岸と呼ばれるエリアに辿り着く。
一体どこが金色なのだろうと思っていたのだが、日が暮れるにつれてその理由がわかった。
海が次第に金色に彩られていく。人々が静かに集ってくる。
まるで太陽に金色の橋がかかったかのようだ。
人々はこれを見て名前をつけ、この海に神聖さを覚えたのだろう。
士林夜市
翌日以降は、台湾の旧正月を体感するため、様々な場所に足を運んだ。
士林夜市(シーリンイエシ)と呼ばれる有名な夜市も訪れ、夜の賑わいを体感した。ここでは、さまざまな屋台でローカルフードや新鮮なフルーツを楽しむことができる。
宙を舞う台湾茶や、バーナーで炙る肉料理など、目の前でパフォーマンスしながら調理される料理は、まさにエンターテイメントそのもの。
料理が完成する瞬間には、まるでショーを見ているかのような感動があった。
そんな時ふと気になったのが、寺院や道端などで、人々が金色の紙を燃やしていることだ。
これは、金紙(きんし)や紙銭と呼ばれるもので、「金箔」や「銀箔」が貼られた紙らしい。これらは故人や神々への供え物として燃やされ、特に旧正月や特定の祭日、先祖の命日などに行われる習慣があるとのこと。
こうした異国の文化に触れるのは貴重な機会だ。
偶然だが、改めて旧正月に台湾を訪れて良かったと感じる。
別日には台北市内のパワースポット、龍山寺(ロンシャンスー)を訪れる。旧正月だったということもあり、参拝者が絶えない。
正面から撮影した写真に、偶然日本のバラエティ番組のロケ隊が映り込んでいたりもした。(後から気づいた)
他にも台湾茶を体験したり、グルメを食べたり、台湾のあらゆる文化に徹底的に触れ続けた。
今では台湾の子どもたちと仕事で関わったり、台湾の友人ができたため、こうした徹底的な体験が活かされている。
国立故宮博物院
台湾に来たら、多くの人が訪れるであろうスポットが、国立故宮博物院だ。
この博物館は本当に素晴らしかった。写真撮影と掲載も一部可能とのことで、特に印象に残った美術品を載せてみる。
陶磁器などが好きということもあるのだが、展示されていた見事な美術品に心から魅了された。
ちなみに、この展示には清の時代のものが多い。世界史の教科書で強烈な印象を残す乾隆帝をはじめ、当時の有名な皇帝のコレクションが並ぶ。
その理由は以下の通りだ。
王朝の権力や美意識を象徴するものとして、こうした美術品が集められるのは納得がいく。そう思わされるほど、洗練されていて美しい。
またいつか行きたい場所だ。
北投温泉
旅の終盤、訪れたのは台湾の有名な温泉地「北投温泉」(Beitou Hot Springs)
台北市内からMRTで約30分ほどの場所にあり、アクセスがとても便利だ。このエリアは硫黄泉で有名で、豊かな温泉文化が台湾でも指折りの観光地となっている。
ただ、自分は近隣エリアを散策してから向かうことに。
近場の国立公園?のような場所を散策していたのだが、案の定道に迷い、かつ移動手段がないことに気づく。
すると、困り果てている自分を見かねたご夫婦が、昼食をご馳走してくれ、さらに車で北投温泉にまで連れて行ってくれた。
北投温泉は、かつて日本統治時代に開発された歴史を持ち、今でもその伝統が息づいている。
この歴史については色々な意見があると思うし、簡単に触れられるテーマではないため、ここでは触れない。
この場所について更に深ぼると、以下のような歴史もあるそうだ。
大航海時代、日露戦争、そして以前訪れた士林などがダイナミックに繋がっていく。
ちなみに、玉川温泉にも行ったことがあるのだが、この玉川温泉と田沢湖、クニマスのストーリーは本当に素晴らしい。
いつか記事にしてまとめてみたいと思う。
話が逸れたが、温泉街に一歩足を踏み入れると、温泉特有の硫黄の香りが漂う。町には川や池、温泉施設が点在している。
折角なので、最後は温泉に浸かろうと決める。
いくつかの選択肢がある中で、今回は個室貸し切りの温泉を利用することに。300元(約1200円)で借りられるという安さに驚きながら、しばらくお湯に浸かる。
外の喧騒が遠ざかり、温かいお湯が体の芯まで染み渡る。
温泉に浸かりながら思い出すのは、台湾の豊かな自然と文化。
旅の締めくくりにふさわしい静かな時間だ。
施設を後にして、駅へと向かう。
湯上がりの風ほど心地良いものはない。
懐かしさを覚える温泉街の風景、旅で訪れた様々な台湾の景色は、どことなく哀愁を感じさせ、不思議と心に残り続けるのであった。
※記事内の画像は全て、筆者が撮影したものか、生成AIを使って生成しています。
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