死を受け入れる覚悟はあるか。(映画「土を喰らう十二ヵ月」を観て)
高齢の主人公が、心筋梗塞で搬送されたことをきっかけに、死への向き合い方が変わる物語。主人公の静かな覚悟が垣間見える。
「土を喰らう十二ヵ月」
(監督:中江裕司、2022年)
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長野の山荘で暮らす作家のツトム(演:沢田研二)は、山で採れる山菜や畑で育てている野菜を料理し、季節を感じながら日々を過ごしている。恋人は、東京で働く編集者(演:松たか子)で、離れて生活するもたびたびツトムの家を訪れる。ひとつの春夏秋冬を経る中で、季節の移ろいやツトム自身の人生観に変化が生まれる様子を丁寧に描く。
原案は水上勉さんの『土を喰う日々─わが精進十二ヵ月─』、料理は土井善晴さんが担当する。料理や食事のシーンがきちんと撮られているので、小気味良い包丁の音が聴けるだけで楽しい。
特に、沢田研二さんと松たか子さんが、並んでたけのこを食べるシーンが良い。山で採れた大きなたけのこを、粗めにカットする。沢田さんがたけのこを箸で掴むも、つい落としてしまうほどの大きさ。その場面をカットせず、そのまま使ったのは中江監督の粋だろう。
虫が鳴く声や風の揺らぎなど、自然の音色が丁寧に撮/録られている。一見すると昨年末公開の「PERFECT DAYS」と同じ地平にあるように思えるが、現状維持で満足する平山と異なり、本作のツトムは健全な「弱さ」を抱えながら生きている。
ツトムに変化が見られた後半。それまでは「死が怖い」と口にしていたツトムだが、心筋梗塞を患い病院に搬送され、一命を取りとめたツトムは死を「やがてくるもの」と受容できるようになった。夜寝るときに「おれはこのまま死んでしまうかもしれない」と考え、床に就く。朝、目覚めたときのツトムは清々しく、生きていることに感謝していた。
13年前に亡くした妻の遺骨を納められないツトムは、確かに「弱さ」を抱える存在だ。だが死を間近に感じた後のツトムにとって、弱さは怯えるものでなく、受容するものだと考えが変わったのではないだろうか。
ただそれは、死にそうだったから自然に生まれた感情ではない。「よいしょ」とスイッチを入れるように、弱さを受容すべく静かに覚悟を決めたような佇まいがあった。
もしかしたら、彼の変化は他者に認められないかもしれない。だが、共感されなくとも、本人が納得できればそれでいいじゃないか。
「丁寧な暮らし」とは一線を画す、ツトムの静かな覚悟に好感が持てた。
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