孤立する生きづらさと、孤立しない生きづらさ(映画「すばらしき世界」を観て)
折に触れて、また鑑賞したい。
そんな清々しさを感じるような作品だった。
「すばらしき世界」
(監督:西川美和、2021年)
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2024年も1/24が終わった。
年始に目標やら抱負やらを立てた方もいるだろう。自分の人生に向き合い、充実した日々を送ろうとする。なかなか達成は難しいけれど、節目のタイミングの振り返りや立志の気持ちは大切なことだ。
しかし世の中には、自らの人生に向き合うことが難しい人もいる。
映画「すばらしき世界」の主人公・三上(演:役所広司)が、まさにそんな人間だった。
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三上は、幼少期に親にネグレクトされ、児童養護施設に保護される(しかも父親に認知されず、しばらく無戸籍のまま過ごしていた)。児童養護施設から脱走すると、彼は「裏社会」に居場所を求めるようになる。最初は軽犯罪を犯して少年院に、成人後はたびたび罪を犯し、自らの人生のうち28年間は刑務所で時を過ごしていたという。作中では、殺人罪によって13年間刑務所に収監され、久しぶりに「外の世界」へと戻った彼の葛藤が描かれている。
もちろん、殺人罪は許されざる罪だ。
それがどんな理由があったとしても、法の裁きを受け、罪を償う努力をしなければならない。だが社会は、刑期を終えた人間に冷酷だ。しかも持病を抱える三上にとって「普通の暮らし」をすることさえ困難で、たびたび三上は環境の不遇に憤りを覚える。
何とか周囲の協力もあって、三上は生活保護を受ける。だが「まさか自分が生活保護を受けることになるとは。肩身が狭い分、ムショの方がマシだ」と癇癪を起こしてしまう。
彼のささやかな願いは、
・居場所がほしい
・何かの役に立ちたい
の、ふたつに収斂される。それは、今も昔も変わらない。親に捨てられて居場所を見出せなかった彼は、裏社会で「ここにいていいぞ」と言われ、ボスに褒めてもらうために(役に立てると実感するために)犯罪を犯す。
「もう極道じゃなか。今度ばかりはカタギぞ」と刑務所を出るも、「普通の暮らし」さえままならない三上。
「何かの役に立ちたい」ともがく彼は、自分の人生と向き合うどころか、スタート地点にも立てずにいたのだ。
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自分の居場所や役割を見つけたときの三上は、生き生きした表情を見せる。
他人の恐喝現場を目撃すると、間髪おかずに介入。半グレ的な若者たちを徹底的に痛みつける。相手を血まみれにさせることに疑いさえ抱かない。(笑みさえ浮かべている)
でもこれは、彼なりの正義を貫いた結果なのだ。「困っている人を助ける」という役割を、暴力という手段で達成しようとしたのだ。仕事もできない、コミュニケーションも上手くいかない。暴力こそが、彼がこれまで認められてきた唯一の手段なのである。
三上は作中、暴力の世界へとハマりそうになる。
そのたび、救いの手を差し伸べてくれるのは「他者」という存在だ。
「すばらしき世界」とは、孤立せず、何かしらの「他者」とつながりを持てる社会のことだ。相手に偽善を感じても、小さな暴力を見掛けても、「他者」とのつながりを完全に絶ってしまえば途端に生きづらくなる。
孤立する生きづらさと、孤立しない生きづらさを比べたとき、どちらの「生きづらさ」が深刻かは言うまでもない。そんな葛藤に三上は涙を浮かべるのだが、それでも彼は損得なく付き合える他者を迎えることができた。
三上の人生は、喜びに溢れていたのか。それとも悲劇としてラベリングされるのか。その判断は、ぜひ映画を鑑賞することで下してみてほしい。
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2023年11月に、西川美和さんの長編映画6作品がAmazon Prime Videoで一挙配信されました。本作「すばらしき世界」ももちろん配信中です。
まだ僕もすべての作品をチェックできていないのですが、早いタイミングで全ての作品を鑑賞したいと思います。(配信作品は、時間が経つと配信終了になることもありますので!)
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2024/1/18:別noteにて、キャスティングについて書いてみました。
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