編集補記(利賀村でのランニング合宿の取材について|ふつうごと)
それは、東京都に緊急事態宣言発令が決定した2021年4月23日のときだ。
ランナーの須河沙央理(以下「沙央理さん」)さんが、「限界集落の富山県利賀村でランニング合宿をします」というnoteを書き、興味をそそられた。
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暗い現実における、唯一の希望だった
コロナ禍におけるあらゆる不都合を政府のせいにしたくはないけれど、3回目の緊急事態宣言は、間違いなく彼らの楽観論が招いた人災だったと僕は思っている。リバウンドの兆しが見える中で「もう大丈夫だ」というメッセージを発してしまったこと。案の定、感染者数は全く減らず1ヶ月で再度の宣言に至ってします。(まさかこんなにも長い「非日常」が続くとは思わない買ったが)
ゲンナリする気持ちを抱いていた中で、沙央理さんのnoteは「希望」のように感じた。世界がどんよりと暗い中で、人口500人弱の小さな村で「はじめの一歩」を踏み出そうとしている。
話は逸れるが、実はそのとき、僕は前職を辞めることを決断していた。色々な経緯があった。中にはうんざりするような言葉があったけれど、新しく会社を創業し「はじめの一歩」を何とか踏み出したいと思うタイミングだった。
政府の対応を批判することが、全て他責であるとは思わないけれど、少なくとも、自分の足で駆け上がっていく必要があって。沙央理さんのお兄さんである須河宏紀さんの挑戦が、勝手ながら自分の境遇と重なって思えたのだ。
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木幡さんとの再会
そのことが頭の片隅に過ぎりながら、特にアクションすることなく7月に突入する。バタバタと前職の引き継ぎを終え、晴れて「無職」となった。(1ヶ月間、創業までの準備期間を設けていた)
2021年7月1日、木幡真人さんからDMが届く。「今度お茶しませんか?」
木幡さんは今年4月に社会人となり、首都圏に引っ越していた。引っ越していた、と言いつつ、2019年は都内のベンチャー企業でインターンをガッツリやっていたので、僕にとっては「戻ってきた」という感覚に近い。
僕はまだワクチンは接種していなかったが、せっかくなので近くの公園でランニングをしつつ、お茶をすることにした。2021年7月10日のこと。仕事の近況だとか、早くも引っ越そうと思っていることとか、最近の政治の話だとか……。久々だったけれど、色々な話ができて楽しかった。
そして木幡さんから「須河さんのランニング合衆に参加するんです」という話を聞く。おお、あの合宿のことか……
木幡さんの真っ直ぐなスタンスと、4月下旬に感じた「希望」が重なって見えた。
木幡さんと別れ、数日間考えて、2021年7月21日、TwitterのDMを送ってみた。「利賀村のランニング合宿、取材してもらえませんか?」
快諾いただいた。僕にとっての、須河さん、そして利賀村との関わりが少しだけ動き出した瞬間だった。
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須河さんとの「はじめまして」
合宿直前の2021年7月29日、ZOOMにて須河さん、木幡さんとはじめましての挨拶ができた。
合宿直前だったが、僕の方でも、最低限のランニング合宿に至る経緯や座組みなどを確認しておきたかったので、直接挨拶できる機会は有り難かった。(本来取材を依頼する僕の方から打ち合わせの打診をすべきだったのに、須河さんから「一度話しましょう」と言っていただいたのだった)
その中で印象的だったのは、
「人もお金も持ってこれる仕組みを、ゆっくりと作っていきたい」
という言葉だった。
須河さんは中央大学で箱根駅伝に2年次から3年連続で出場、強豪の実業団チーム所属を経て、今はプロランナーとして活動をしている。年間の半分近くをケニアでトレーニングをしており、言ってみれば、僕にとって「雲の上の存在」のような方だ。
須河さんが、利賀村にもたらそうとしている循環は、とても手近で、気持ちを寄せられるものだった。
振り返ってみれば、打ち合わせした当時はオリパラで盛り上がっていたタイミング。多額のお金が右へ左へ動いており、開催に懐疑的だった人たちがオリンピック一色に染まっていく。ずっとスポーツに親しみ、愛してきた人間にとって、初めてスポーツが「他人事」のように感じていたときだった。
だけど当然ながら、スポーツの形は様々だ。
地域の中で、手弁当でやっている組織もあれば、オリンピック・パラリンピックのように政治がダイナミックに動くようなイベントもある。
何が正解かは一律には言えない。少なくとも、僕は須河さんの取り組みを心から応援したいと感じた。
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ヒーローではなく「ふつう」の人
ランニング合宿は無事終了し、木幡さんからのテキストもいただいた。
Webサイト開設に時間がかかってしまったので、つい最近の公開になってしまったのが申し訳なかったが、前・中・後編合わせて7,000字を超えるテキストは、かなりの熱量がこもっている。
須河さんがシェアしてくれたことで、多くのランニング関係者の方の目に触れたようだった。川内優輝さんも読んでくださった?気配もあり、運営者冥利に尽きる仕事だったなあと思う。
そして、記事を読んだ友人から、以下のようなメッセージをもらった。
プロランナーの方の記事、たしかに私の感覚からしても、ヒーローではなく「ふつう」の人、という感じがしました…!
間違いなく、須河さんはヒーローだ。たくさんの方々に希望を与える存在だと断言できる。
だけど、須河さんが取り組んでいることは、須河さんにとっては「ふつう」だとも思っている。平凡という意味の「ふつう」ではなく、普遍的だったり定番だったりという意味の「ふつう」だ。
「須河さんってかっこいいね!」ではなく、「須河さんの取り組み、良いね!」という感覚。読後感として、そんな温かさが伝わっていたら嬉しい。
ちなみにこちらが須河さんのnote。利賀村の魅力が伝わってくるし、来年はサイトとして、会社として、もちろん自分自身として体力をつけ、直接参加できればと思っている。
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編集補記なのに、2,500字近いテキストになってしまった。
(補記と共に)「読みやすい」「分かりやすい」だけが全てではなく、持て余すような熱量が伝わってくれれば嬉しい。
Webサイト「ふつうごと」は、これからも、世の中の「ふつう」を伝えていく。ぜひ定期的にチェックいただけばと思います。