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田中正造が鳴らす、現代への警鐘(ドラマ「足尾から来た女」を観て)

「足尾から来た女」は、日本で初めての公害である足尾鉱毒事件を扱ったテレビドラマだ。

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舞台となった足尾は、栃木県西部に位置しており、市町村合併のため現在は日光市の一部となっている。

足尾鉱毒事件とは何か

明治時代初期、足尾は、近代化を進める日本により大量の銅が発見されてしまう。日清戦争、日露戦争で大量の金属が必要だったこともあり、古河鉱業株式会社(現、古河機械金属株式会社)が産出を担う。

その過程で鉱毒混じりの排水を垂れ流したことによって、地域に甚大な被害をもたらしたのが足尾鉱毒事件だ。

栃木県出身の政治家・田中正造は国に対して訴えを届けるも無視される。1901年に日比谷で明治天皇に直訴を行なったことでも知られている。

残念なことに国は徹底的に公害認定を拒み続けた。最終的に古河鉱業の加害責任を認めたのは1974年(昭和49年)のこと。100年公害と呼ばれている所以だ

ドラマの登場人物は、現代のメタファー

尾野真千子さん演じる新田サチは、足尾にある谷中村の出身だ。鉱毒被害で親を失い、そして農地は作物が育たない。字も読めず、貧困という環境で大人になったが、ひょんなことから社会運動家・福田英子(演・鈴木保奈美さん)のもとに「お手伝いさん」として奉公に出されることになる。

当時、政治の「敵」と見做されていた人たちと東京で暮らし始めるサチ。字の読めない彼女が、様々な葛藤を経て、学ぶことの大切さに気付いていくという筋書きだ。

・サチ:我々のような一般人
・明治政府や役人:政府
・社会運動家:政府に対して警鐘を鳴らす人々

という、かなり分かりやすい現代のメタファー的な構図だ。

もちろん、今やほとんどの日本人は読み書きができる。しかし色々な情報が散乱する中、正しい判断ができているかと言えば、そうとも言えない。右や左といったシンプルなレッテルが貼られたり、デマや陰謀論を盲信したり、情報リテラシーは一向に上がらない。

ドラマはドラマだが、そこに内包されているメッセージはかなり手厳しいものだと言える。

田中正造が鳴らす、現代への警鐘

柄本明さんが演じる田中正造は、サチに語りかける。

1軒の家より、100軒。
村より町、町より都、国はそう考えてるってな。

それは違う。
100軒の家のために1軒の家を殺すのは野蛮国だ。
町のために、村を殺すのは野蛮国だ。

サッちゃん、なんで野蛮か分かるか?

都をつくったのは、町なんだ。
町を作ったのは、村なんだ。
100軒の家も、1軒の家から始まったんだ。
その1軒を殺すのは、自分の首を絞めるようなものだ。

(NHKドラマ「足尾から来た女」より引用)

東日本大震災が端を発した福島原子力発電所の事故。

今でも約6,000人は故郷に戻れず、実質的な帰宅困難地域として放置されている。災害大国である日本にとって地震は避けることができない。

しかし「絶対に安心だ」と言われた原子力発電所の事故によって、多くの人たちが帰る場所を失っている現実は、田中正造が警鐘を鳴らした明治時代と、なんら変わっていないように思える。

震災からしばらく経って、帰宅困難地域に対する人たちへの冷笑的な態度がたびたび問題となった。「帰れないのであれば、新しい土地で生活すれば良い」という態度だ。

あまりに無慈悲なスタンスではないか。ただ、そう仕向けているのは誰なのかを考えなければならない。東京オリンピック・パラリンピック開催にあたって、都営霞ヶ丘アパートの住民が強制退去させられたという事実もある。まるで、同じ構図ではないだろうか。

都のために、町のために、少数の人たちが犠牲を強いられて平気でいられるだろうか。そんなことを考えさせられるドラマだ。

今年もまた3.11の時期が迫る。

公害は「人災」だ。

人災に対して「仕方なかった」で済ませてはいけない。常に批判的態度を向け、未来に繋げていく意思決定を常に促さないといけないと思うのだ。

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(NHKオンデマンドで観ることができます)

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