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会いたい人たちが住んでいる国(映画「かぞくのくに」を観て)

在日コリアン2世であるヤン・ヨンヒ監督による自伝的フィクション。

在日朝鮮人の帰国事業によって、兄ソンホ(演:井浦新)と分かれて暮らすことになった一家の物語。病気治療のため25年ぶりの日本行きを許されたソンホ、そして迎え入れる家族はそれぞれが大いなる苦悩と葛藤を抱えていた。

北朝鮮という理不尽な国家システムと共に、当時北朝鮮のことを「地上の楽園」と囃し立てたマスコミや、不当差別が状態化していた日本社会に対しても一石を投じている。

「かぞくのくに」
(監督:ヤン・ヨンヒ、2012年)

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映画のタイトルが「かぞくのくに」とある。

もしかしたら本作だけを鑑賞した方は、もっと別のタイトルの方が相応しいと感じるかもしれない。

だが本作はヤン監督の自伝的フィクションであり、父や母、兄にも明確なモデルがいることは想像に難くない。ヤン監督は1作目のドキュメンタリー作品「ディア・ピョンヤン」で北朝鮮のことを「私が会いたい人たちが住んでいる国」と表現した。ヤン監督が幼少の頃、実兄3人が北朝鮮に移住した。「地上の楽園」と信じた家族を嘲笑するように、かの地はバッキバキの独裁国家だったのだ。

北朝鮮という絶対的な国家システムがまとう理不尽さは、すでに報道で語られている通りだ。トップの意に背くと容赦なく処刑される。恐怖がベースにある国家が決して繁栄を迎えないことは歴史が証明しているが、作中のソンホもまた「あの国に理由なんてない。考えると頭がおかしくなるんだ」と吐露する。北朝鮮で躁鬱病を抱え、早逝した長男を投影したキャラクターだといえよう。

安藤サクラ演じるリエは、ヤン監督本人だ。

もっと色々な世界へ行け。そう告げたソンホの意思と、実兄の思いはぴたりと符合したはずだ。クラシック音楽を愛したが、しばらく北朝鮮の音楽しか聴くことが許されずストレスを抱えた実兄。限られたわずかな資源の中で生き抜くことで精一杯のオッパ(兄)はさぞ無念だったろう。

父と母は無理やり納得を試みるも、ヤン監督だけはずっと納得できなかった。リエはスーツケースを持って旅に出る。ヤン監督がビデオカメラを持って映画づくりに身を賭したように。

誤解を招かぬよう補足するが、心の底で納得できなかったのは誰しも同じだ。兄を北朝鮮に“行かせてしまった”父への憤り、自分が"信仰"した国家への忠誠心との間で苦悩の色を見せた。

それが分かっているからだろうか。ヤン監督が家族へ向けるまなざしはいつも温かい。笑顔が溢れている。

国同士の関係の間にある人と人とのつながり。あの場所で生活している人たちの苦悩を想像しながら、より良い未来のことに想いを馳せたい。

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各国で評価され数々の映画賞を受賞した「ディア・ピョンヤン」だが、北朝鮮の反発を招き、ヤン監督は北朝鮮への入国を禁止されている。

そして2022年にヤン監督の4作目となる「スープとイデオロギー」が公開された。

自身の母にカメラを向けたドキュメンタリーだ。在日朝鮮人の帰国事業に積極的に加担した父を描いたのが「ディア・ピョンヤン」だとしたら、「スープとイデオロギー」は父を支えながら家族との絆を大切に紡いできた母の思いが伝わる作品である。できれば全作品を観ていただきたいが、「スープとイデオロギー」こそヤン監督の集大成ともいえる。

WOWOWオンデマンドにて「ヤン ヨンヒ監督と家族の肖像」と題され、現在ヤン監督が手掛けた全ての作品が配信されている。

主要サブスクリプションサービスでは見放題配信はおろか、有料配信もされていない。なのでこの機会にぜひ、WOWOWオンデマンドに登録いただき鑑賞してほしい。

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ほりそう / 堀 聡太
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