映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」における、自分好みの3つの風景

想像をはるかに上回る映画に出会えるのは、いつだって嬉しい。

先週末に上映された「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」も、そのひとつ。安楽死を望む女性と、その親友の交流を描いた作品ということで、“非常に重い”映画であることを想像した。

だけど、思いがけず風通しの良いシーンがたくさんあって。ふたりの対話は確かに「死」をめぐるものなんだけど、マーサとイングリッドによる束の間の再会は、とても希望を感じるものばかりだった。

「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」
(監督:ペドロ・アルモドバル、2024年)

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1. 病院(窓辺にて)

書店でサイン会に臨んでいたイングリッドは、旧友からマーサがガン治療のため近くの病院に入院していることを知る。数年ぶりの再会に、お互いの近況を伝え合う。

病院の窓辺からは、マンハッタンの景色がよく見える。窓は大きく、晴れた日には光も差すだろう。そんな窓辺にふたりは腰をかけ、語り合う。子宮頸がんステージ3、このときマーサは回復を諦めていなかった。時折沈む表情を見せながらも、寄り添うイングリッドの眼差しは温かい。

2. 安楽死の薬が入った封筒

死の瞬間は、それまで過ごしてこなかった場所で行ないたいと希望したマーサ。ニューヨーク北部、森林や湖が近くにあるコテージを1ヶ月レンタルする。

いざコテージに到着するも、安楽死の薬を忘れてしまったマーサ。動揺し、イングリッドにマンハッタンに引き返すよう懇願。「またここに来るとは」と漏らすマーサだが、ガン治療薬の副作用のせいか、薬の場所を思い出せない。

そこらじゅうをひっくり返している中、薬を見つけたのはイングリッドだった。茶封筒には「GOOD BYE」という文字が。“良き別れを”と望むマーサの本心が、封筒にも記されていたように思う。

3. コテージ(映画を観るふたり)

それまでマーサは、黒やグレーを基調とした服を好んで着ていた。差し色としての「赤」や「青」、「翠」はあったけれど、カラフルな装いを好んでいたイングリッドとは対照的な色合いをマーサは好んでいたように思う。

しかし、死の前日にマーサが着ていたのは、ニットのカラフルなセーターだ。襟元は水色で、赤、黄色などが配された派手なもの。(おまけに靴下は青色だ)

ちなみに、マーサが死を選択したときに着ていた服は「黄色」だった。真っ赤な口紅をひき、死に至るとは思えないような格好。何事も自ら選択してきたマーサの矜持を感じるシーンだった。

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「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」という作品は、なんといってもマーサを演じたティルダ・スウィントンの佇まいがとても素晴らしい。

死ぬことは怖い。
だが、死ぬことに恐怖しながら生き永らえることも、同じくらい怖いのではないか。

安楽死を、安直に肯定したくはない。だけど、100%否定の立場をとれるわけでもない。本作は、シーグリッド・ヌーネスの原作がもとになっている。小説ではどんな描き方がなされているのだろう。とても、とても気になっている。

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堀聡太
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