藤原季節の10秒、薄暗がりの木竜麻生。(映画「わたし達はおとな」を観て)
絶対に「辛い」気持ちになるだろう。
そう確信するからこそ、避けている映画が何本かある。20代で監督・脚本を務めた加藤拓也さんの初長編作「わたし達はおとな」も、そのうちのひとつだ。
映画「ほつれる」の上映に合わせて、意を決してAmazon Prime Videoで観ることにした。
想像どおり、いや、想像していたよりもずっと暗澹たる気持ちになった。
主人公は、どこにでもいるような女子大生。友人グループと「初体験」について語り合い、いつ / どこで / 誰とといった話で盛り上がる優実(演・木竜麻生)。大学でデザインの勉強をしていた彼女が、演劇サークルに所属する直哉(演・藤原季節)と出会い、恋に落ちる。
直哉は、セックスのときに避妊をしない。「女性がピルを飲めばいい」という考えを優実に押し付け、頑なに自分を押し通す。もうそれだけで「どうなの?」と思ってしまうのだが、恋というのは不思議なもので、ふたりは恋人として楽しい時を過ごしていた。優実の妊娠が明らかになるときまでは。
優実にとって苦しいのは、大学生のタイミングで妊娠したことだけではない。実は一時的に直哉と別れていたときに、コンパで知り合った男性とセックスしてしまったのだ(その男性もまた避妊をしなかった)。身勝手な男性と本意でないセックスを経験したことによって(思いを寄せていた直哉と別れていたとはいえ)、相手が誰か分からない妊娠を味わうことになった優実は、つわりの苦しさも相まって心身ともに不安定になってしまう。
しかし若さとは罪なもので──実際のところ、男が身勝手なだけであり、本質的に「若さ」とは関係ないのだが──、直哉は優実に寄り添いながらも、時折、自分勝手な要求を突きつけていく。
テーマは重く、それだけでも観ていて辛いのだが、ことの本質はそこではない。僕は、「人間は変化に耐えられない(=弱い)」ことを描こうとしたのではないかと感じた。
観客の多くは、直哉の身勝手な言動に憤るだろう。腹が立つかもしれない。実際に直哉は、優実だけでなく、以前のパートナーとも避妊をせず妊娠させてしまっていた。普段は穏やかで、感情の浮き沈みがない直哉だが、優実の態度が変わったり状況が激しく動いたりしている中で、感情をコントロールできなくなってしまう。
この姿に、観客は少なからず「共感」してしまうのではないだろうか。
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しかし、妊娠をめぐる男女の物語だと思いきや、終盤はサスペンスでも発生するかのような沈黙や、カメラワークが施される。
優実が泣き、直哉を責め続けていたとき。藤原季節は微動だにせず、優実の言葉をただただ受け続けていた。その10秒は、実に不気味だった。もしかしたら直哉は、いきなり優実に対して手をあげてしまうかもしれない。殺してしまうかもしれない。そんないくつもの「かもしれない」が頭に過ぎる。
でもそれって、直前に直哉に共感してしまっていた僕が、同じ状況でやってしまう行為なのかもしれないと思うと、背筋が寒くなる。
エンドロール、物語はどんな「終わり」も迎えていなかった。
フィクションでなければ、当然、日常は続いていく。そんなワンシーンを映して、暫定的に映画は幕を閉じる。でも、果たして優実はどうなっていくのだろうか。
そんな問いが、社会に放たれたまま、映画は終わってしまったのだ。
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先日、加藤拓也さんの最新作「ほつれる」が劇場公開された。
加藤さんは、宇野維正さんの取材の中で、「2年に1本は映画を撮りたい」と発言していた。これからどんな作品をつくっていくのか、本当に恐ろしい才能だと感じてしまう。
が、まずは「わたし達はおとな」をぜひ観てほしい。お薦めしないが必見の作品である。100%の確信を持って、それだけは保証する。
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