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愛が必要なときは、愛を与えたい(映画「ムーンライト」を観て)

第89回アカデミー賞で作品賞を授賞した映画「ムーンライト」。

貧困、人種、いじめ、ドラッグ、母親のネグレクトなど社会問題を内包しつつ、主人公・シャロンのアイデンティティを描くドラマで見応えがあった。

願わくばスクリーンで観たかったけれど、スマホの小さい画面からも分かる映像の美しさ。象徴的なシーンがたくさん出てくるが、車や海、電話といったモチーフは、「ドライブ・マイ・カー」でも重要なものとして扱われており、アメリカと日本の意欲作が何だか交差するような感覚を覚えた。

たくさんのボタンが掛け違えた中で、シャロンが強さを獲得していくが、それはやはり表層的な強さだったわけで、結局は愛の所在を探していただけというのは非常に切ない。

ナオミ・ハリスさん演じる老年のポーラが「愛が必要なときに与えなかったから愛さなくても良い。でもあんたを愛してるよ」と言ったシーンは、もう何もかもが間違っているんだけど、それでも愛が発生してしまうのが人間の愚かさであり弱さなんだなと心が痛む。

何も言えないままで、最終的に心を寄せ合おうとするシャロンとケヴィン。シャロンは裏社会で地位を得たが、ケヴィンは死ぬほど働いても報酬は僅か。なのにケヴィンは「あの頃みたいな不安はないよ」と言う。

「不安はない」って、武器になるんだね。

強情っていたシャロンが、ポーラとケヴィンに再開したことで「母性」に触れる。この物語は、そのタッチポイントで終わってしまう。

母性は万能ではない。

だけどシャロンにとって、その瞬間こそが、愛が必要なときだったのだ。だから僕は、この映画をハッピーエンドだと解釈したい。

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