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分かり合うには、痛みを伴う。(映画「対峙」を観て)

「対峙」という映画を観た。

高校銃乱射事件の当事者、つまり被害者家族と加害者家族による対話を描いた物語だ。事件で息子を亡くした両親、そして事件の犯人である息子の両親(犯人も現場で自殺している)、4人がひとつの部屋で語り合う様子を淡々と映している。

登場人物は俳優であり、つまりはフィクションという体裁をとっている。

初めは被害者の母が心を閉ざしていたが、加害者両親と冷静に話を交わしていた被害者の父も徐々にヒートアップしていく。「息子がどう死んだか分かっていない!」と激昂したシーンは、少し前まで妻に「詰問してはいけない」と諌めていた姿とは別人だった。

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便宜上、僕は「被害者家族」と「加害者家族」と記した。

だが、111分にわたり彼らの対話を聞いていると、「被害者家族」「加害者家族」という区分けは適切でないのではと思えてくる。

いや、もちろん被害者家族の側に立つならば、家族とはいえ、加害者家族を責めたくなる気持ちは分かる。彼らの息子が、どのタイミングで「人を殺そう」と考えるようになったのか、親であれば止められると思うだろう。まして、犯人が高校生であるならば。

だが、加害者家族もとことんまで苦悩している。

事件発生当初からマスコミや世間の非難にさらされ、匿名による攻撃も相次いで行なわれる。事件の被害者は複数にわたり、迂闊な言動は被害者家族への2次被害を生んでしまう。となると、型通りの「謝罪」で終わるのも致し方ないのかもしれない。

監督を務めたのは、本作が初監督・初脚本となるフラン・クランツ。最終的に、お互いの家族が理解し合う結末は、「まあ、そうなるのかな」という気持ちがなくもないけれど、控えめにいって素晴らしい対話劇だったと思える。役者の演技も、圧巻だった。

回想シーンもない。キャストはたったの7人。

対話が少なくなっている世の中だからこそ、この映画は価値がある。誰かと一緒に観たい、そして語り合いたいと心から思う。

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ほりそう / 堀 聡太
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